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草の匂いが漂うドラマ

編み物が趣味なので、何かを編んでいる時にはAudibleで朗読を聞いたり、サブスクでドラマを流しています。すでに見たことのある作品の方が気を取られないので「SATC(セックスアンドザシティ」や「ゴシップガール」をよく見返していました。もちろん日本語吹き替えで。

最近、新しいドラマでも見てみようかなとネットフリックスをうろうろしていて見つけたのがこちらの作品です。

ヴァージンリバー。
都会から田舎に引っ越した看護師の女性を中心に繰り広げられる小さな町での人間模様…のような内容で、なぜこのドラマを選んだかというと、古臭そうなドラマの割にシーズン5まで続いているので、それなりに面白いのだろうと踏んだからです。

見始めるとめっちゃどうでもいい感じでした。主人公・メルが不動産サイトで見つけた住宅は「森の中のイイ感じコテージ」だったのに、実物は雑草の中にたたずむボロ屋、就職先である町唯一の診療所には頑固一徹のマリンズ先生が「アシストなんていらん!」とプンプンしてるし、これまた町にただひとつのバーの店主はちょいと苦み走ったイイ男・ジャックで、「はは~ん、この2人がくっつくのね」という予感から物語はスタートします。かなりベタです。

人間模様の蓋を開けてみると本当にどうでもいい話ばかり。都会で暮らしていたメルには夫がいて幸せに暮らしていたが流産し、その後夫とギクシャクしていたようでした。ジャックはアフガンの戦地で友人を失う過去を持ち、PTSDの傷が癒えずに夜中にうなされることが多い。初老のマリンズ先生は長年連れ添った妻のホープと口論になるばかりで離婚を切り出され、そんなマリンズ先生の妻の座を狙うミューリエルがホープとの攻防戦に燃え…とこの「老いらくの恋」っぷりには呆れ返ってしまう感じ。

まあ、つまらなかったら途中でやめればいいし、とにかく編み物がはかどればいいやと見続けていたところ、斜に構えて見始めたこのドラマに対する心境が少しずつ変化していったのです。

気が強くてどこまでも都会派に見えるメルは、辛い流産のあとに夫さえも交通事故で失っていました。ドライブ中の自分との口論がきっかけで。
ジャックは戦地でのPTSDの後遺症で夜中にうなされることが多く、こんなでは誰かと暮らすことなどできないと心を閉ざしています。
マリンズ先生は家庭を顧みずに仕事一本だけど、住民の健康を守るためであり、口うるさい妻といさいかいの日々でも実は奥さんをとても愛していたり……と、いちいち軽く心を打たれるエピソードのオンパレードなのです。

どの町民の話も些細なことかもしれないけれど、都会で暮らしていたら見過ごしてしまいそうな、人間のもつ感情の動きがとても丁寧に描かれています。

とりわけおじいちゃん好きの私はマリンズ先生にくぎ付けで「あなたなんかもう離婚よ!」と妻に三下り半を突きつけられても「おまえがそうしたいならそうするよ」と大きな器を見せ、その誠実さに気づく妻は心の氷が次第に溶けていきます。が、マリンズ先生は持病を抱えていて、そう遠くはない人生の終焉のために、誰にも言わずに少しずつ準備を始めます。もうこのあたりから編み物の手も止まることが多くなってきちゃいました。

マリンズ先生。チェックのシャツとカーディガンがよい泣

誰もが自分だけの物語を抱え、自分だけの宿題と静かに向き合い、他人への気遣いややしさも忘れていないのです。町の誰かに何か起きると、ケーキやパンを焼いて玄関のチャイムを鳴らすシーンが頻繁に出てきます。「ケーキを焼いたから持って来たわ、元気?」という具合に。
「うわ、この人はいやだなぁ」と感じる人も時間の経過と共にいいところがちゃんとあって、いつの間にか町民のみんなを応援したくなってしまうのです。

現在シーズン3なので、まだまだ続くこの先の展開が楽しみでなりません。
「あなたココアは好き?」
「私なら2杯は行けるわよ!」
なんて会話の飛び出すヴァージンリバー。地味な作品だけど、心がじんわり温まるこの秋おすすめのヒューマンストーリーです。

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