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シリコンバレー所在の巨大IT企業価値と不動産価格の相関関係に崩れか

2月上旬までに巨大IT企業の2020年第4四半期の決算が出そろいました。新型コロナ禍において米国企業による全面在宅勤務の恩恵を業績に反映し、他業種の業績を横目に増収増益でした。

アップル社は前年比+10%の増収・-3%の減益、グーグル社は前年比+13%の増収・+19%の増益、フェイスブック社は前年比+22%の増収・+33%の増益でした。業績以上に注目に値するものは株価(および企業価値)の大幅な上昇です。

新型コロナ禍で大量に失業者を出した米国経済を立て直すため、米連邦準備制度理事会が金融市場に大量の過剰流動性を供給し、新たにスタートしたバイデン民主党政権の大型財政出動を期待してか、IT企業が牽引役となり株価の上昇が継続しております。S&P500種、ダウ工業株30種平均、ナスダック総合指数などの主要株価指数は連日新高値を更新する状況なっております。個人投資家がRedditなどのSNSを利用して、ヘッジファンドなどに対抗するなど、極めて投機的な動きが目立っております。

さて、シリコンバレーに本社を置く巨大IT企業の業績と企業価値の関係を過去10年間の数値で見てみると、EBITDA(償却前営業利益)において、アップル社・グーグル社・フェイスブック社は、それぞれ倍増あるいはそれを超えるレベルに上昇させてきました。

リーマン危機によるFRBによる量的緩和拡大期の2010年代前半はEBITDA倍率が10倍前後と極めて真っ当な水準でした。米国全域で景気拡大が確認され出した2010年第後半の量的金融緩和縮小とともに、同時期の企業業績は伸び悩んだものの、大きく企業価値を増加させております。EBITDA倍率では2018年の金利上昇期以外は15-25倍になっております。2020年第2四半期から再び量的金融緩和が復活すると長期金利は1%下げましたが、株価は企業業績とはかけ離れた水準で、IT企業の銘柄を中心に大幅に上昇することになっております。コロナワクチン接種開始のアナウンス効果も出て経済は復活し、将来的に企業業績がこれらの株価に追いつけば問題はないのですが、何かのきっかけ(一番ありそうなシナリオはインフレにより2018年で起こった長期金利上昇、等)で弾けてしまうと現在のバブルのような状況が崩壊することになりかねない状況になってしまったと言わざるを得ません。代表的なヘッジ・ファンドマネジャーのジョージ・ソロス氏はこのようなバブル状況を「リフレクション」と呼んでいるようです。

2月5日に前月の米雇用統計が米連邦政府労働省より発表となり、新型コロナ禍で失った雇用者のほぼ60%が復職してきましたが、昨年末より雇用者の増加はほぼ止まってしまっており、踊り場にいると言えましょう。2021年1月時点での失業率ワースト3の産業は以下の通りです。
1. 観光・レジャー 15.9%(前年比-10.0%)
2. 炭鉱・オイル・ガス 14.2%(前年比-12.3%)
3. 建設 9.4%(前年比-4.0%)

それでは、シリコンバレーの中心地であるパロアルト市における戸建て住宅中間価格の推移を見てみましょう。2018年をピークに弱含む傾向となっております。筆者は以前より巨大IT企業価値との相関関係があると申し上げてまいりましたが、2019年以降からその関係が崩れ出した可能性があります。

果たして、不動産価格の動きが株価のそれを先取りしたのでしょうか?きっかけはいろいろな要素が積み重なったと思われます。先ずは考えられるのは、トランプ政権による中国・インドからの移民労働者流入の鈍化、そして、新型コロナ禍におけるIT企業群による全面在宅勤務への移行です。すべてのIT従事者がシリコンバレーにある本社に通勤する必要がなくなり、高い家賃を回避して近郊・他州の街へ移住した可能性です。

それを後押ししたのは、史上最低の住宅ローン金利です。ミレニアル世代である若い労働者はこの低金利時代をとらえて都心での賃借をあきらめて郊外に戸建てを購入し出したのかもしれません。現に郊外の住宅価格が上昇する一方、サンフランシスコ、サンノゼ、シアトル、ボストン、ニューヨーク等の都心アパートの家賃が大きく下落しております。この動きが新型コロナ収束後も持続するのかどうかは何とも予想がつかないというのが、筆者の正直な考えです。

(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です。)

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