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episode:1 ヒメマスは何処へいった
Lakeside Storiesの横塚です。
中禅寺湖の鱒の中で、地元から最も愛されている魚“ヒメマス”。
近年、そのヒメマスが記録的な不漁に陥っていることをご存知でしょうか。
今回はヒメマスを取り巻く状況とアクションをご紹介します。
1 中禅寺湖とヒメマス
【ヒメマスの基本情報】
・和 名 ヒメマス(kokanee)
・学 名 Oncorhynchus nerka
・分 類 サケ科サケ属
・原 産 北海道阿寒湖、チミケップ湖
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中禅寺湖のヒメマス移植歴を整理しました。
【ヒメマスの移植歴】
・1906(明治39)年に十和田湖から移植
・その後、1969年までに、支笏湖、十和田湖、
沼沢湖、湯の湖などから計47回移植
・択捉島ウルモベツ湖やカナダフレーザー川から
ベニザケも移植
※中禅寺湖は各地の湖に発眼卵を供給する種卵生
産拠点の一つとなっている(支笏湖、十和田
湖、中禅寺湖)
明治から昭和にかけて、頻繁に移植が繰り返され、現在まで漁協による稚魚放流と自然再生産によって資源が維持されてきました。
2 ヒメマスの価値
ヒメマス移植の歴史から、“ヒメマスを増やしたい”という漁協の熱い想いがビンビン伝わってきます。
ヒメマスはベニザケの陸封型で、とても美味しい魚であり、地元の漁師は、ヒメマスを釣って食べるために漁協の組合員になっています。
組合員が“ヒメトロ”と呼ばれる船釣りによって漁獲したヒメマスは、自家消費されるだけでなく、湖畔の旅館や飲食店で地元食材として観光客に提供されます。
ヒメマスを食べに湖を訪れる観光客もいるほどです。
また、秋に婚姻色で真っ赤に染まったヒメマスが菖蒲ヶ浜に遡上する光景は、「中禅寺湖の紅葉は水の中から始まる」と言われるほど美しく、多くの人を魅了してきました。
ヒメマスは、湖と人、人と人を繋ぎ、たくさんの笑顔を生んでいる。
これがヒメマスの価値。
ちなみに、日光市の“市の魚”にも指定されています。
3 ヒメマスは何処へいった
ライフサイクル
中禅寺湖のヒメマスの一生はこんな感じです。
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ヒメマスは、生まれ育った水の匂いを覚えて、産卵するために生まれた川に帰ってきます(母川回帰)。
菖蒲ヶ浜にある漁協の施設で育てられた稚魚は、湖に放流された後、約2年後に親となって菖蒲ヶ浜に帰ると、種苗生産のために漁協に採捕され、卵から稚魚に育成されるという流れです。
ヒメマスの採捕は地曳網漁で行われ、毎年多くの組合員が参加し、ヒメマスと組合員の関わりを深める大切な機会となっていました。
(ここ数年は行われておらず、筌で採捕)
![](https://assets.st-note.com/img/1706967281737-2CBKupBu7H.jpg?width=800)
なお、千手ヶ浜の河川や、湧水のある湖岸での自然産卵も確認されていますが、決して多くはありません。
自然再生産個体の割合は、資源の1割程度と推測されています(過去の研究結果から)。
資源量
漁協では、採捕したヒメマス親魚の個体数と体長を記録し、資源量をモニタリングしています。
資源管理を行う上でとても重要なことですが、これをできる漁協はそうありません。中禅寺湖漁協の強みです。
それではヒメマスの資源量の推移を見てみましょう。
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もともと資源量の年変動が大きかったのですが、キャッチ&リリースを導入した2012年以降、明らかにパターンが変わりました。
記録的な増減を繰り返した後、ここ数年は資源崩壊とも言えるレベルの低水準。
これをどう捉えるか。
減少要因
なぜ、ヒメマスは減ってしまったのか。
【ヒメマスの減少要因】
○事実
・フィッシュイーターによる捕食
・カワウによる捕食
○可能性
・種苗生産の繰り返しによる野性度の低下
・餌となる動物プランクトンの減少
・産卵環境の悪化
・病気の蔓延 など
ヒメマス減少のメカニズムは解明されていません(後日詳しく記載)。
自然界で起きていることなので、人間が明らかにすることはできないのかもしれません。
でも、ヒメマスがいないと、組合員のみんなが寂しそうで、地域に元気がないように感じます。
今ではレイクトラウトが湖と釣り人を繋いでいますが
湖と組合員を繋いでいるのはやっぱりヒメマスなんです。そのための漁協なんですよね。
漁協では、ヒメマス資源の回復に向けて、国や県と連携しながら、放流サイズの大型化に取り組んでいますが、課題解決には至っていません。
で、どうするの?って話。
ヒメマスが減少した原因はわからないけど、
▶︎何もしない?
▶︎何かしてみる?
4 ヒメマスアクション
まずはできることから一歩ずつ。
先に本音を言っておきますが、僕は放流で人為的に魚を増やすことは地球によくないと思っています。
さて、行動する上での手がかりとなる情報
・以前は千手ヶ浜の流入河川でも産卵していた
・湖岸で産卵している個体もいた
・漁協による放流魚は全て脂鰭を切除(標識)
しているが2023年に菖蒲ヶ浜に帰ってきた
親魚の約4割が脂鰭あり(自然再生産個体)
やはり自然再生産の大切さを感じますね。
そこで、菖蒲ヶ浜一極集中からの脱却(リスク分散)と再生産個体の増加を目指し、千手ヶ浜の柳沢をメインフィールドとし、活動を開始しました。
今はヒメマス資源が少なすぎるので、放流で増やすしかない。
まずは費用対効果が高く、自然に近い発眼卵放流を実施することにしました。
卵の確保をどうするか悩んだあげく、漁協に相談し、発眼卵5万粒を無償提供いただきました(50万円相当!)。
中禅寺湖漁協には今まで何度もワガママを聞いてもらってきたのですが、本当に感謝しています。
そして、2023年11月26日に柳沢で発眼卵放流を行いました。
柳沢は、明治時代に“東京アングリング&カンツリー倶楽部”が活動の拠点としていたフィールド。
聖地を築き上げてきた先人たちに想いを馳せながら、僕たちも行動していきます。
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5 ヒメマス愛を醸成したい
漁協の“ヒメマスを増やしたい”という気持ちが、釣り人に伝わらないケースがとても多いです。
そしてトラブルの火種になる。
「どうして釣り人に伝わらないんだろう」と、何年も考えていたんですけど、僕の中で一つの答えに辿り着きました。
それは、中禅寺湖の釣り人とヒメマスが関わる機会がないからです。
人の問題ではなく、仕組みの問題。
特に、今釣り人の中で最も多い岸釣りのルアーマン。
ヒメマスを狙って釣ることは不可能に近い上に、他の湖のように秋に接岸したヒメマスを釣ることも認められていない。
釣り人って、釣りを通じて、魚に興味・関心を抱き、愛情が芽生えていく。
初めは釣り欲を満たすための魚だったはずなのに、魚に優しくありたいとか、魚を育む環境を守りたいとか、意識が変化していく(成熟)。
ルアーマンとヒメマスの関わりを深めるためには、秋に真っ赤なヒメマスと出会える機会(C&R)が不可欠で、その貴重な体験価値が多くの人のヒメマス愛を育んでいくと信じています。
【ヒメマスアクションのゴール】
①資源を増やす
②漁協を元気にする
③仕組みを変える
④釣り人の意識が変わる
さらにその先の目標は
“釣り人の成熟”
ヒメマスのように真っ赤に成熟して次の世代にバトンを繋いでいく。
主役は次の世代。今を生きる僕らじゃない。
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