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「銘柄選択」は不可能であるー未来は誰にもわからない

銘柄分析

テンバガー銘柄(株価が10倍になった銘柄および今後なると思われる銘柄)を始め、古来より「勝てる銘柄」を探すために投資家は躍起になっている。2002年にマイクロソフトに100万円投資していると、2022年には1,800万円を超える。日本でも10年ほど前、スマートフォンゲームの草分けだったガンホー(GungHo)の株価は2012年7月〜2013円5月までの約10ヶ月で170円→16,000円程度まで暴騰した。「もし」この時期にガンホーに100万円投資していれば、たった10ヶ月で9,412万円程度まで増やせた計算になる。ミクシィ(mixi)もほぼ同時期(正確には2014年中頃まで)に、株価は250円→6,800円まで暴騰した。「もし」100万円投資していれば、こちらも短期間で2,720万円まで増えたようだ。このような話題は大変楽しいが、ここで「投資していた連中は楽して稼いでズルい。」と他人を羨むだけでは三流であろう。これらの件はもう過ぎてしまったのだから仕方がないと割り切り、結果として彼らは運が良かっただけだったとしても「第二のマイクロソフトを探せないものか?」と知恵を絞る方が賢い。

※その後のガンホーとミクシィの株は暴落したことを念のため付記しておく。どちらも当時の勢いは見る影もない。

では、第二のマイクロソフトを探すとして、一体どのように探せばいいのだろうか?
特定の銘柄が1年後に10倍とは言わずとも、2倍になると分かったなら手持ちの資産を全てその銘柄に投資したい。

この第二のマイクロソフトを「探す方法」は星の数ほどある。しかし、どんな手法もおおよそ2種類に大別される。1つは企業の決算やそこから導き出される数値(PERやPBR、配当利回りなどの数値)を分析して適切な株価を求め、その株価と現在の株価を比較して評価する「ファンダメンタル分析」と、人々の趣向や今後の流行、過去の動向(いわゆる株価チャートなど)を分析して未来を予測しようとする「テクニカル分析」である。雑誌や本、ネットのエセ識者が書いた情報や証券会社のアナリストが得意げに語る「買い銘柄」などは、そのほとんどがこのどちらかの手法を用いた結果だ。
株価を予測する方法は数あれど、その方法は「ファンダメンタル分析」と「テクニカル分析」の2種類しかないのだと覚えておこう。



例えば、「今年の夏は例年に比べて晴れの日が多かった。このような年は相場が全体的に上昇する傾向がある。」などという意味不明な話を聞いても、上記の2種類のいずれかなのだと整理する。「過去、晴れの日が多い年は相場が上昇する傾向があった」という過去の出来事を根拠に言っていると推測できるので、これは過去の動向をよく見れば未来がわかるとする「テクニカル分析」と同じだ。



さて、先に結論を述べるが「ファンダメンタル分析」と「テクニカル分析」のいずれの手法を用いたとしても株価(というより未来)を予測することは不可能だ。先述の通り、株価を予測する手法は原則この2種類しかないのだから、存在する株価予測手法のほぼ全てが落第点ということになる。
「もし本当にそのような方法があるのなら、もっと身の回りに株金持ちがいるはずだ。現実にはそうなっていないのだから、そんな上手い話はないのだ。」っと一蹴しても良さそうだが、それでは味気ないし納得感もイマイチである。

そこで本稿では、なぜいずれの手法も活用するに値しないのか解説してみよう。


テクニカル分析

まず、「より愚策」といえるテクニカル分析から先に説明する。テクニカルで真っ先に思い浮かぶのはチャート分析である。チャート分析はファンが多いし、視覚的にも非常にわかりやすい。チャートに口を出していると、何もわかっていない人が「わかったような気」になることができる。証券会社はそれをよくわかっていて、チャート分析を専門にするアナリストが個人向けに適当な情報発信をしていることが多い。株価の過去の動きを下記の図のような4本脚チャートで示してみせ、そして「上ヒゲ(もしくは下ヒゲ)が大きく飛び出しているから、上昇(下落)のサインだ。」とか「支持線を維持しているので上昇局面は継続している」とか「三角持ち合いを下に抜けたので下落のサインだ」とか「ゴールデンクロスを上に抜けたので、この銘柄はこれから上昇局面に入る(つまり買いだ)」とか、とにかくメチャクチャをいうわけだ。

トヨタ自動車の株価10年推移
出典:Yahoo!ファイナンス(https://finance.yahoo.co.jp)

ちなみに、テクニカル分析で使われている「ヒゲ」とか「支持線」とか「ゴールデンクロス」とかの用語については説明しない。なぜなら先述の通りテクニカル分析はほとんど役に立たない代物だからだ。役に立たないのだから用語も知る必要はないし、余計なことはむしろ知らない方がいい。
(ファンダメンタル分析も落第点と述べたが、ファンダメンタル分析はそれなりの点数を取った上での落第だ。テクニカル分析は名前すら書いていない答案用紙のようなもので、同じ落第でも少し違う。)

チャート分析はチャートを見ながらあれこれ考えていると、その銘柄に対して誰でも何かしらの意見を持つことができる点が特によくない。例えば上記の図を見て、誰でも何か「それっぽい意見」を持つことはできよう。このチャートは直近のトヨタ自動車の株価データを、筆者が適当に10年分切り取って持ってきただけだが、「10年で最高値をつけているので、いつ下がってもおかしくない(高すぎる)」とか「24カ月線が12カ月線を超えるとトヨタ株は上昇する傾向があるようだ。」とか、そんな具合で「自分の意見」を持てる。意見を持てるということは、その銘柄の値動きに対して「意見できるだけの情報を得た」と実感(実際には錯覚)できる。しかし、実際にやったことといえば、過去の株価推移のチャートを少し眺めただけである。
そもそも「過去を事細かに調べれば、未来(例えば明日の株価)がわかる」という考えは錯覚というより、もはや妄想と言っていいかもしれない。株式市場は価格や値動き、銘柄の基本情報、経営方針や決算情報など、全ての情報が日本だけでなく世界中に公開されている非常に公開性の高い場所だ。過去の値動きがどうなっていたとしてもその時、その瞬間に取引されている価格こそが現実である。上記のチャートを見て、「直近はずいぶん急速に上昇したように見えるから、そろそろ下がるな」などと考えて、焦って売ったり(買ったり)するのでは、典型的なカモになりかねない。(チャート情報は自分以外の誰にも見えていないとでも思っているのだろうか?)
画面を見てすぐにわかるようなことで、市場を出し抜けるわけがないし、そもそも過去をどれだけ熱心に調べても明日以降の未来がわかるはずがない。


アノマリー

テクニカル分析は何もチャートの専売特許ではない。他にもよく投資関係の雑誌などで紹介されるのは「アノマリー」だろうか。例えば「〇〇(銘柄でも業界でも、なんでもよい)は、年末にかけて株価が上昇する傾向がある」というような類の話だ。その後は「直近10年の12月24日〜12月30日までの値動きを調べたところ、8年で年末アノマリー現象が見られた」のように続く。
チャートの項目で説明した通り過去を見ても未来はわからないのだから、「たまたま10回コインを投げたら8回表が出ただけで、それは次の11回目が裏にならないことを保証しているわけではない」ということで、理屈は同じなのだが折角なのでもう一つ例を示したい。

この類の話はその昔、ケインズが提唱した美人投票と同じである。


美人投票は、美人の顔写真100人を並べて「美人だと思う顔」を参加者に6人選ばせる。最も得票の多かった6人に近しい6人を選んだ人に賞金が出る。この時、賢い人であれば、このゲームに勝つには「自分が美人だと思う顔」に投票することではなく、「他の参加者がどの顔を美人と評価するか」を読み合うゲームだと理解できるだろう。「美人」や「顔の良し悪しの投票」など、現代なら問題になりそうな例え話だが、要するに市場を出し抜こうと流れを読もうとする行為は、裏を返すと市場のコンセンサスを読む(当てる)ゲームだということだ。



先ほどの「年末アノマリー」の話に戻ろう。仮に100歩譲って年末アノマリーが本当に存在したとしよう。肝心なのはそのアノマリーを「有効に活用して勝つことができるかどうか」だ。アノマリーが本当にあったとしても、有効活用できなければ意味がない。
年末アノマリー効果で24日から株価が上昇局面に入ることがわかっているのだから、当然、市場参加者は23日に先に買っておこうと考えるだろう。そのまま年末に売れば簡単に儲かってしまう。しかし、そんな考えを見越して22日に買う人は必ず現れる。もしかすると、その人は慎重な性格で、安全を考えてもう1日早く21日に買うかもしれない。そんな慎重な人間の出現を考えて、また別の人は20日に買っておいて、、、っという具合に、この考えは市場参加者の読み合いの中で遡れるところまで遡ってしまう。12月24日に上昇アノマリーが発生することが現実なのであれば、今日が何月何日であろうと「今日中に」年末アノマリーの利用価値がないところまで株価は上昇するはずだ。「誰がいつ抜け駆けするかはわからないし、どうせ12月24日から株価は上がるのだから、今すぐ買ってしまえ。年末になったら売ればいいや」というわけだ。
株価は「今この瞬間に取引されている価格が現実」であり、年末アノマリー効果が仮に本当だとしても「今の株価」に反映されてしまっている。株価は公開情報を反映した結果として淡々と取引されており、未来は過去の連続に従って動いているわけではない。



【余談】
アノマリーに近いもので、インパクトの大きいニュースや事実が判明した際、相場が荒れることを利用した「パニック株投資」と呼ばれるものがある。「製品の大規模リコール」や「A社によるB社への敵対的TOB」のような特定の銘柄に関する重要な情報が公になると、相場は大いに荒れる。これも他のテクニカル分析と同じで利用して勝つことは難しいが、市場にアンテナを張るにはよい題材の一つだ。例えば、2021年にSBIHDが発表した新生銀行に対する敵対的TOB発表の際、SBIHDの株価は暴騰後に割とすぐに暴落したが、「買われる側」であるはずの新生銀行株は暴騰した後、そこから大きく下がることなくそのまま上がり続けた。おそらく新生銀行の株主すら新生銀行に期待していなかったのではないか。株主すら「SBIHDに買われた方がよい」と考えた結果、「将来SBIHDに買収されるなら持っていようか」などと考える投資家が増えたのだろう。あの騒動で「買われたくない」と考えていたのは、当時の新生銀行の取締役だけだったのかもしれない。
ちなみに、新生銀行のその後はというと、買収に強烈に抵抗していたが、抵抗虚しくSBIHDに過半数の株式を握られ、その後SBIHDともう一人の大株主である国によって株式の非公開処理が行われた結果、非上場化されてしまった。敵対的TOB発表前〜非上場化までの約1年半のドタバタ劇で、新生銀行の株価は1,350円から2,800円まで上昇した後、あっけなく株式市場から退場となった。



ファンダメンタル分析

ファンダメンタル分析はテクニカル分析より大分「マシ」ではある。しかし、こちらも所詮参考の域をでない。ファンダメンタル分析は先ほども少し述べたが、世の中の経済状況や企業の財務状況・経営状況などのデータを用いて、株価を評価する手法である。イメージを掴むために有名な手法についていくつか紹介する。

低PER・低PBR

PERは「株価を1株あたりの当期純利益で割った値」だ。「投資資金を何年で回収できるか示した値がPERだ」と覚えておこう。PERは倍数で表されるが、例えばPER10倍の銘柄ならその銘柄に投資した資金を約10年で回収できると予測できる。すなわち、PERが低い銘柄は短期間で投資資金を回収できると考えられるので、割安というわけだ。他にも、同じ業種分類の中で比較して、同じ業種の中で「相対的に」PERが低い銘柄を「割安」と捉えることもできる。各業種のPERについては、日本証券取引所が毎月レポートを公開しているので、簡単に確認できる。参考に2023年11月の各業種のPERを見てみよう。
(ちなみに、PBRは株価純資産倍率といって株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを確認できる指標でPBR=1倍でトントン(割高でも割安でもない)と評価する。意味合いはPERと異なるが、判断の尺度として使えない理由はPERと同じなのでPERを主として解説する。)

日本証券取引所グループ(https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/misc/04.html)

リストを見ると業種分類ごとにかなり大きな差があることがわかる。PERが高い(割高な)業種分類は「パルプ・紙」「電気・ガス」でいずれもPER30倍超えている。一方、海運業のPERは2.3倍だ。PER「だけ」を見て判断するのであれば、海運業に集中投資するのが賢い投資行動であろう。
「パルプ・紙」「電気・ガス」を買っている人は一体何を考えているのか?

しかし、繰り返しになるが株式は「今この瞬間に取引されている価格が現実」である。「パルプ・紙」「電気・ガス」の銘柄を買っている人は「PER30倍超えているが、それでも買う価値がある」と判断して買っている。それはPER2倍ちょっとの海運業も同じだ。業種分類ごとのPERなど特別な情報でもなんでもない。日本証券取引所のサイトで「誰でも」「簡単に」調べることができる。すなわち、これらの情報はすでに株価に反映済と考えるべきで、市場を出し抜くための情報としては無価値に等しい。


加えて補足すると、「PER〇〇倍以下なら割安」などの基準がすでに曖昧だ。例えば、先の資料から東証プライム市場全体のPERは16倍である。今の日本の大手企業全体のPERが16倍なのだから、日本は「16年前後で投資資金を回収できるような市場」と評価されているようだ。したがって、例えば「不動産業」はPER13.1倍であるから割安と判断したとしても、それは「東証プライム市場全体と比較して相対的に割安」と評価しているに過ぎない。不動産業が東証プライムのPERに追いつくかどうかは依然として全く不透明だし、不動産業は海運業と比較すれば途端に「割高」となる。
さらにPERの基準自体が変わってしまう可能性も排除できていない。例えば、過去数年を調べて「不動産業は東証プライム全体と比較して、マイナス3程度のPERで推移しているようだ」と評価し、それよりPERが高ければ割高、低ければ割安と考えたとする。しかし、それは「この先も不動産業のPERがその水準で推移する」保証にはなっておらず、来年からはマイナス5〜6程度で推移するように株価が修正されるかもしれない。PERの基準が変化した結果、今後の「割安」の基準まで同時に変わってしまうのだ。極端に言えば、現在はPER13.1倍で評価されている不動産業のPERが、海運業のPERの水域まで引き下げられない保証はないということだ。



高配当利回り

こちらは更に「ファンの多い」方法である。「配当」や「株主優待」は個人株主に大変人気で、「株価は上がったり下がったりするが、配当は株式を持っているうちはずっともらえる。安心感があって、ありがたい。」という心理になりやすい。株式から得られる「利益」は大きく「値上がり益」、「配当益」、「株主優待」の3つだが、利益の大半は「値上がり益」によって実現するという事実を覚えておきたい。配当や株主優待のような「おまけ」に釣られて右往左往するようでは心配だ。(特に株主優待には問題が多い。)

さて、少々脱線したが配当が高いということは相対的に株価が安いと考えることも可能だ。(投資した金額に対して大きな割合で配当が支払われるのだから、配当に対して株価が安いという理屈だ。)
では、東証プライム市場上場企業の配当利回りのトップ5とワースト5を見てみよう。(執筆時点の情報)

配当利回りトップ5
出典:みんかぶ(https://minkabu.jp)
配当利回りワースト5
出典:みんかぶ(https://minkabu.jp)

東証プライム市場で、配当利回りが最も高い銘柄は5.59%で最も低い銘柄は0.07%なので、プライム市場内でも配当利回りには約80倍の差がある。では、配当利回りが高い銘柄が低い銘柄より「買い」と言えるだろうか?

これについては、やはり「有利とも不利とも言えない」というのが結論だ。配当利回り情報もPERと同じで珍しくもありがたくもない「誰でも」「すぐに」「簡単に」調べられる情報だ。「現時点の株価」に反映されていないわけがない。

結局、企業の決算報告や世の中の状況についていくら調べたところで、インサイダー情報の利用が禁じられている以上、自分しか利用できない特別な情報はなく、ファンダメンタル情報も市場を出し抜く材料にはなり得ないということだ。

また、皮肉なことにファンダメンタル分析とテクニカル分析はお互いがお互いを否定する関係になっている。仮に「PER10倍が割安」と判断するのであれば、その銘柄がPER10倍以下である間は、株価チャートがどのような動きをしようと関係なく「割安」の判断は変わらないからだ。これらの分析手法はどちらも好きな人が多いのだが、こんな簡単な矛盾も見逃されているのだから少々残念だ。

まとめ

巷でよく紹介されている「〇〇アナリスト」や「なんちゃって専門家」が勧める「買い銘柄」や「おすすめの銘柄」のような、買いを勧めるコンテンツは人気のようだ。「本当におすすめなら誰にも言わず、こっそり自分で買ったらいいではないか」という言葉を飲み込むとしても、現実にはそこまで考えられる人ばかりでもない。大抵のおすすめ銘柄や買い銘柄の根拠には、今回ご紹介した「ファンダメンタル分析」か「テクニカル分析」が使われている。いずれの手法も特定の銘柄を推す根拠にはならない。

自分が美味しいカモにならないために、自称専門家(エコノミスト、アナリスト、評論家など)も含め、「買い銘柄」、「勝てる銘柄」、「おすすめの銘柄」など誰にもわからないのだと肝に銘じておきたい。

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