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業種分類について

※文中に出てくる数値は全て本稿執筆時点のものです

業種分類

企業はさまざまなサービスや商品を世の中に提供することで利益を得る営利団体であるが、「どのような商売で利益を得るか」は千差万別だ。商品を販売している場合もあれば、サービスを提供している場合もある。

このような「商売の分野の違い」をグルーピングしたものを「業種分類」と呼ぶ。投資の3原則は「長期、分散、低コスト」であるが、業種分類が商売分野の違いを示しているのであれば、「分散」を考える際に業種分類が利用できるはずだ。しかし、そもそも前提となる業種分類そのものがいい加減では話にならない。正しく定義された業種分類がほしい。

業種分類で最も有名なものは東京証券取引所(以下、東証)が定義している「東証33業種」であろう。東証33業種は以下の通りだ。

東証33業種(https://www.jpx.co.jp/sicc/sectors/nlsgeu00000329wk-att/gyousyu.pdf)

東証は業種を33種に分けて定義している。
同じ業種分類内の銘柄は、同じ業種なのだから当然「ほぼ」同じ商売をしているはずである。もし、そうでなければ何のための業種分類か?

本稿では東証が定義する東証33業種を参考にして、業種分類が本当に分散を考える際に利用できるのか考えてみたい。

東証33業種の気になる点

早速、上記で示した東証33業種のリストを見てみよう。いくつか突っ込みたいところがある。まず第一に、このリストの作成日が平成15年とある。平成15年というと西暦2003年で、その頃は「スマートフォン」、「自動運転」、「AI」、「IoT」、「EC」などの言葉は現在ほど有名ではなかった。iPhoneが日本で初めて発売されたのは2008年だ。

この業種分類は端的に言って「古い」。少なくてもITの分野はもっと細分化した方がいいだろう。2003年以降にスマートフォン、クラウドサービス、SNSなどの分野で伸びた企業を分類する際、強引に2003年作成のリストに詰め込むのだから無理をすることになる。

科学分野も現在はカーボンニュートラルなどの環境問題を無視できない。水素やリチウム、個体燃料電池といった次世代分野の銘柄も、このリストのままでは分類に苦労するはずだ。

他にも、大分類を見てみると「鉱業」という分類がある。
東京証券取引所上場銘柄約4,000社の中で「鉱業」に所属している銘柄は、本稿執筆時点でたった6社しかない。
大半が石油の掘削業であり、大企業(本稿では時価総額1兆円以上を「大企業」と定義する)ではINPEX(旧:国際石油開発帝石)しかない。
「鉱業」とは石炭の採掘、石油の掘削、貴金属や希少金属(金やダイヤモンド等)の炭鉱を含む。

日本で炭鉱業を行っている上場企業などほとんどゼロに近いのだから、この分類は見直すべきだ。2003年の作成時でも炭鉱業や貴金属の採掘で商売している企業は日本に少なかったはずだが、なぜそのまま採用されたのか疑問だ。

一方、分類の精度という意味では、上場4,000社のたった6社だけを絞り込んでいるのだから、「鉱業」の業種分類は精度が高い。
「鉱業」に所属する銘柄(6社)はほぼ同じ商売をしていると考えて良さそうだ。

一方で、鉱業のような非常に細かい分類と異なり、あまりにも「大雑把すぎる」分類も存在する。典型は「その他製品」と「サービス業」だ。

先に「その他製品」から見ていこう。所属銘柄は109社である。
手元の会社四季報を確認すると、「その他製品」に所属する銘柄は時価総額上位から「任天堂」「バンナムHD」「TOPPAN(旧:凸版印刷)」と並んでいる。

本稿の目的は投資資産がなるべく特定の業種に偏らないように業種分類を利用することであるが、上記3社は果たして「同じ業種」といえるのか?

もう少し踏み込んで調べると、さらに首をかしげたくなる事実もある。「その他製品」の時価総額1位は任天堂であった。さすがは日本が世界に誇るゲーム業界の代表選手だ。

しかし、日本のゲームは何も「Nintendo」だけではない。
例えば、「バイオハザード」「モンスターハンター」「デビルメイクライ」「ロックマン」などのメジャータイトルを生み出したのは「CAPCOM」である。

しかし、東証の業種分類の銘柄を確認すると、なんとカプコンは「その他製品」ではなく「情報・通信業」に分類されている。「情報・通信業」といえば「NTT」や「KDDI」が所属するグループだ。すなわち、東京証券取引所はカプコンを任天堂よりNTTやKDDIに近い銘柄だと判断していることになる。

では、「サービス業」はどうか。こちらはさらにカオスで、他の32業種に分類できなかった銘柄を適当に詰め込んだだけとしか思えない。所属銘柄は535社。所属企業数だけで適当に詰め込んだことが伺える。上場企業4000社中535社が同じようなビジネスをしているわけがない。
「サービス業」の時価総額上位は、「OLC」「リクルート」「日本郵政」である。上位3社がすでに別の業種に見える。

すなわち、分散のために東証33業種を利用する場合、使える分類と使えない分類があり、注意する必要がある。

ここでは全ての分類を細かく確認しないが「鉱業」は業種分類としては正確だが、あまりにも細かすぎる。一方、「その他製品」「サービス業」については適当過ぎて、分散を考える時にこの分類はそのまま使うことができない。

では、分散を考える際に使える業種分類をどのように考えればいいのか。


「分散」を考えるのに最適な業種分類はあるか

大前提として、最も手軽に分散可能な方法は「インデックス」を利用することだ。
例えば東証株価指数(TOPIX)をターゲットとしたインデックスファンドであれば、旧東証1部上場銘柄(約3,000社)に幅広く分散投資できる。TOPIXと同じ分散を個別株投資で行うことは一般的な個人には不可能だし、個別株は大変な手間がかかる。

堅実な方法はインデックスファンドだとしても、個別株でなるべく広範囲な分散投資は考えられないのだろうか。

業種分類を綺麗に、かつ、正確に分けることは難しい。東証33業種のように4,000社をたった33業種で括ることに無理があるとしても、業種分類として日本で最もメジャーな分類であることも事実だ。

よって、東証33業種が正解ではないと理解した上で、東証33業種を自分が納得できる形で再分類するしかない。

以下ではその例を示そう。あくまで「一例」のため、どう分類すれば納得できる分類ができるか、ぜひ考えてみてほしい。


自分で作る業種分類

すでに紹介した東証33業種を例にして業種分類をカスタマイズする。
今一度、東証33業種を示す。


水産・農林業、鉱業、建設業、食料品、繊維製品、パルプ・紙、化学、医薬品、石油・石炭製品、ゴム製品、ガラス・土石製品、鉄鋼、非鉄金属、金属製品、機械、電気機器、輸送用機器、精密機器、その他製品、電気・ガス業、陸運業、海運業、空運業、倉庫・運輸関連業、情報・通信業、卸売業、小売業、銀行業、証券/商品先物取引業、保険業、その他金融業、不動産業、サービス業


「その他製品」の構成銘柄の時価総額TOP3は「任天堂」「バンナムHD」「TOPPAN」であった。TOP10には「アシックス」「ヤマハ」などの面々が並んでいる。やはりもう少し細かく分けた方がいいだろう。例えば下記のように分ける。

その他製品1:「任天堂」「カプコン」「SE(スクエア・エニックス)」・・・
その他製品2:「バンナムHD」「コナミ」・・・
その他製品3:「アシックス」「ミズノ」・・・

繰り返すが分け方に正解はないので、各々で考えてみてほしい。他の業種についても同じで、例えば「陸運」を見てみると、所属銘柄には「ヤマトHD」「SGHD」と「JR東」「JR東海」が同居していることがわかるはずだ。「確かにどの銘柄も陸運だ」っと納得できる方はそのまま使えば良い。もし、違和感があれば下記のように分けた方がスッキリするかもしれない。

陸運(物流):「ヤマトHD」「SGHD」・・・
陸運(鉄道):「JR東」「JR東海」・・・

最終的に自分が納得するところまで分類して使えば良い。筆者は東証33業種は雑だと感じるため自分で再分類した方が良いと考えるが、もし東証33業種そのものに違和感がなければ、無理にカスタマイズする必要はない。


まとめ

個別株で分散投資を行う場合、業種分類を利用して分散を考えることは重要だ。しかし、業種分類は東証が定義しているものでも粗さがある。いくつかの分類ではもう少し工夫した分類を「自分で」考えて利用した方がいいだろう。
個別株投資はこのような手間を大いにかける必要があるが、それを「面白い」と感じる方は個別株投資も悪くない。おそらく長期的にはインデックスに負けるだろうが、どこまでインデックスに肉薄できるか挑戦することはゲームとして面白いはずだ。その際、自ら再分類した業種分類は、間違いなく結果を左右するだろう。

分け方に正解はないが、自分が納得できる分類を探してみてほしい。

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