見出し画像

「クリアボイスラボ」第4回・前編:失敗はプログレス(進歩)としてとらえる

私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ750名もの多種多様な方々に受講していただいています。

私たちは今年から、これまで受講してくださったアラムナイ(同窓生)の方々を応援し、繋ぐ場となる「クリアボイスラボ」を開催することにしました。本イベントでは日本海外問わず、目的を持って人々を巻き込み、活躍している方々をゲストとしてお招きし、それぞれのクリアボイスについてお聞きします。日本社会におけるさまざまな課題を解決するために、デンマークで行われた実践がヒントになればと考えています。

※クリアボイスとは
「クリアボイス」とは、リーダーとして自分はどうありたいのか、 内側から湧き上がってくる想いに向き合い、言語化すること。「迷いなき“クリアな声”」に由来してネーミングされています。クリエイティブリーダーシップのプログラムでは「クリアボイス」を見つけていく過程で、人々が内省を深めながら、自身が背負う「べき論」と「本音」を識別し、例え心地悪くとも「本音」に徹底的に耳を傾け、自分の信念を見つけ、そこから発せられる「クリアボイス」を見つけていきます。

今回は2024年5月に開催された第4回目より、ゲストスピーカーのエスケ・トゥボルグ氏による「カオスな時代にアートが必要な理由〜共鳴を⽣むクリエイティブリーダーシップ~」と題した講義の様子を前・後編に分けてお届けします!

<もくじ>
●ゲストスピーカーの紹介
●子どものころに好きだったことを仕事にできた
●壁画を作るときに心がけている「AHAモーメント」
●「失敗」を「プログレス(進化)」としてとらえる
●迷ったときにかぶりたい「YESハット」とは

<プロフィール>

●ゲストスピーカーの紹介

Eske Touborg(エスケ・トゥボルグ)さん
デンマークの第⼆の都市、オーフス出⾝で、2021年にデンマークのビジネスデザインスクール、KAOSPILOTを卒業。グラフィティシーンをルーツとし、油絵やストリートアートの実践経験を積みながら、さまざまなメディアや表現形式を試した芸術活動を⾏ってきた。アーティストとしての⽇々の活動に加え、エスケは様々なシンクタンク、委員会、フェスティバル・グループに参加し、公共部⾨におけるアート、プロジェクト・マネージャーや⽂化クリエイターとして貢献している。2016年以来、エスケは⽇本のニコライ・バーグマン・ギャラリーを含む世界各地で個展、コラボレーションで作品の販売を⾏っている

●子どものころに好きだったことを仕事にできた

 私はオーフスという、デンマーク第二の都市で生まれ、現在もオーフスの港付近にあるスタジオで仕事しています。実は今年の1月、ニコライ・バーグマン※とコラボレートする仕事があり、日本に9週間滞在しました。それがきっかけで日本に興味を持ち、今はプライベートで日本語を学んでいるところなんですよ。

※ニコライ・バーグマン…フラワーアーティスト。2001年に自身のフラワーブランド <ニコライ バーグマン フラワーズ & デザイン>を設立。考案したフラワーボックスが絶大な人気を誇る。

今日は私の油絵やストリートアートの実践経験をもとに、クリエイティビティと働き方について、皆さんにお話しできればと思います。

子どものころの私は、絵を描くこと、音楽を聴くこと、演奏すること、そして落書きをすることが好きでした。毎日新しいことにチャレンジしたい性格で、ある日は壁に絵を描いたと思ったら、次の日にはまったく違うことがしたいタイプでした。

そのまま大人になって、今の私が好きなことは、大きな絵を描くこと、音楽を聴いたり演奏したりすること、仕事として落書きをすること、素敵な写真のある本を読むこと……子どものころとほとんど同じですね(笑)。好きなことを仕事にすることができました。

18歳からこれまでの間に、グラフィティに関する6冊の本を出版しています。なかには52カ国で翻訳された本もあるんですよ。私は形のある書籍が大好きです。手触り感のあるものを大切にしています。

●壁画を作るときに心がけている「AHAモーメント」

私の活動のうち、大部分を占めるのが壁画です。依頼してくださるクライアントは、行政のこともあれば、アート系の企業のこともありますが、彼らから何を期待されているのかを考えながら制作します。

とくに公共の場におけるアートは、人々の観点や考え方をシフトする力があると思います。

ですから、私は壁画を作るとき、その地域における重要な課題に目を向けるようにしています。たとえば、南アフリカのケープタウンで、外務省からの依頼で壁画を描いたときは、水不足の問題を取り上げました。 

そのためには描き始める前にまず、その壁画がある環境や人々について考えます。どこで何について描くか、どんな人が見て、何を感じてもらうのか。描く日数は一カ所あたり、4~6日ほどですが、その前段階でかなり時間を費やしていますね。

もちろん、自分が伝えたいことをテーマにするときもあります。2019年にオーフスの観光客が集まるエリアには、ダイビングのときの壁画を描きました。私自身、ダイビングが好きで家族と一緒によく潜るのですが、このときは見た人に「おおっ、すごい!」「サメがいる! 面白い!」と感じてほしいと思いました。

私たちは普段、歩きながらスマホを見たり、音楽を聴いたりしていますが、ふと目に入った壁画にハッとする瞬間を大切にしたかったのです。心理学で、ハッとひらめく瞬間を「AHAモーメント」といいますが、そんなふうに小さなことに驚きを感じる瞬間を与えられることもまた、アートが持つ意味ではないかと思います。

●「失敗」を「プログレス(進化)」としてとらえる

アートを仕事にする上で大切にしているのは、自分の仕事に固執しすぎないことです。

私にも、自分でダメだと思う作品に仕上がることがあります。そんなときは、よくないものも受け入れ、受け止める。なぜなら、アーティストとして「毎日、最高のものを作り上げねば」と思いながら活動していると、ちょっとした失敗でも落胆してしまうからです。

たとえ評価に値しないものが続いたとしても、許容範囲を広げて受け入れることで、いつかよいものにたどり着く。そういうメンタリティを大切にしています。

そのためには「失敗」という概念を頭の中から消してしまうのがおすすめです。私自身、失敗というネガティブな言葉は使わないようにしていますし、失敗というものはないと思っています。

私にとってそれはプログレス(進化)。仕事を進めていくうちに「これは違う」となったとき、別のやり方にチャレンジできればそれは進化になります。

ですから、プロジェクトから、どんなエネルギーを受け取ることができるかも重視しています。私が取り組むプロジェクトは、自分にエネルギーを与えてくれるものでありたい。

日本に9週間滞在したとき、多くの人が毎日、長時間働いていることを知りました。でも、どれだけ時間を使うかより、何をもたらしてくれるかが大切だと思います。エネルギーを吸い取られるような仕事ではなく、笑ったり、泣いたりしながらもエネルギーを受け取れる仕事がしたいのです。

●迷ったときにかぶりたい「YESハット」とは

デンマークの言葉に「YESハット(帽子)をかぶる」という表現があります。どんなときもいったん「YES」という帽子をかぶることで、何事にもポジティブなメンタルで向き合うことができるのです。

たとえば、真っ白なキャンバスに一本の線を引いてみます。それだけだと「なんだこれ」という感じですが(笑)描き続けるうちに何かが見えてくるであろうプロセスを信じて、やり続ける。そのうちに、よいものができるかもしれません。

重要なのは、最初の線を引くこと。引かない限りは、よいかどうかもわかりません。自分とプロセスを信じて「まずやってみよう」と前向きに思い、やり続けることです。

日本と比べると、デンマークのほうがそういったメンタリティの強さがあるかもしれませんね。小学生くらいから「デンマーク人はクリエイティブだ」と言われて育っていますし、社会で働くプロセスのなかでは、失敗に対して寛容なマインドが取り入れられています。

もちろん全員ではありませんし、結果重視のところもあるのですが、そのマインドがあるからこそ、デンマークのデザインは生み出されていると思います。

========

★次回の後編は、参加者の方々から寄せられた質問に答える形でお届けします!

▼運営企業:株式会社Laere
株式会社レアは「人の想い」から始まるプロジェクトを北欧社会をヒントに、引き出し・支援し・実践する。共創型アクションデザインファームです。
北欧社会のインスピレーションなど定期的にお届けしているニュースレターのご登録はコチラより。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?