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キラキラ女子だけが女に非ず!私はこうしてJリーグ沼に落ちた

※ これは2016/12/29にDEAR MAGAZINEに掲載された記事を
メディア移行に伴い、編集長の許可を得て転載したものです。

Jリーグのマーケティングの話題になると必ず「女性サポーター獲得」のキーワードが出てくるが、大体キラキラ系女子向けの企画が挙がるので、少し気後れしてしまう。

私は今でこそホームゲームは毎試合参戦する程のサポーターになったが、
つい5年前までは2.5次元ミュージカルにどっぷり週5ペースで通っていた人間である。
そんな自分がサッカー一色の生活になるまでの経緯を紹介しよう。

女子校でサッカーが盛り上がった事例

Jリーグに興味を持った頃、既に代表戦は毎試合楽しみにしているくらいには(サッカー好きの)土壌が出来上がっていた。
きっかけは日韓W杯。自国開催に日本全体が湧いたが、もちろん私の通っていた女子校も例外ではない。

思春期という多感な時期、恋もしてみたいが身近に男子がいない女子校通いの恋愛対象は、大体が先生かかっこいい女の先輩かジャニーズだ。それが、この時期だけパタっと代表選手にシフトしたのである。

属性に関わらずクラス全体がサッカーを切り口に盛り上がれた。
どの女子も好きな選手を代表メンバーの中から探し出し、休み時間に見る雑誌はMyojoからNumberに変わった。教室の後ろの黒板には次の試合の予想フォーメーションが書き出される日々。

今思い出すと、昨日までサッカーのルールも知らなかった女子たちが必死にスポーツ雑誌を読んで用語や対戦国の傾向を覚え、知識を持っている子は分からない子に根気よく教えてくれていた。もちろん顔ファンでも誰も咎めなかった。

そんな環境は気心知れている同士だから可能だったのだろうが、みんながみんなそれぞれの楽しみ方に干渉せず応援していた。言い争いが起きたとしても鈴木がかっこいい、いや松田の方がワイルドだとかそういう次元で済む。そこから本格的にJリーグや高校サッカーにハマる子もいた。
代表ユニフォームを買ってパソコンルームでパブリックビューイングをしたり、初心者に優しい理想郷が自然に出来ていたのである。

残念ながらW杯終了とともに日本のサッカー熱は冷め、いつも通りの風景にクラスは戻ってしまったが、あの幻の3ヵ月間が私をサッカー好きに育ててくれたと思う。

その10年後、スタジアムへ

社会人になり数年目、いよいよ横浜F・マリノスと出会うことになる。

その日は仕事で良くないことがあり、真っすぐ家に帰る気分にならなかったのでどこか寄り道スポットを調べたところ、ちょうど日産スタジアムでJリーグの試合があることが判明した。

帰り道だし、近所にマリノスタウンがあるのも気になっていた。
人生で一回くらいはJリーグを生で見てみたい。
そうして衝動的にスタジアムへ向かった。

まず日産スタジアム、何度か代表戦で訪れているので臨場感には慣れていたが、サポーターの熱気に驚いた。

代表戦はみんなでニッポンコールを大合唱が基本だが、相手チームサポーターとマリノスサポーターが違う歌を歌いあっている。
これにはカルチャーショックを受けた。

あまり血気盛んなタイプではないし、普段通りに生きていれば敵対心なんてむき出しにすることもあまり出来ないこの社会。
思いっきり声を出すなんて、部活以来で単純に燃えてしまった。

これが地元愛というものか…

私は横浜に住んでいるが、小学校から高校までずっと東京の学校に通い続けていたので、横浜の地元トークを出来る人が全くいなかった。

しかしこのスタジアムには横浜を愛する人が沢山いる。ここでは東京で誰にも通じなかった「横浜ドリームランド」も通じるかもしれない。
シウマイ弁当の主役はシウマイじゃなくてタケノコ煮だということも理解してくれる人が多そうだ。

そして目の前の選手たちは横浜という街を背負って戦っている。
なんだか少年ジャンプ以上に胸が熱くなる展開である。

自分がこんなに地元愛に溢れていることを自覚したのも初めてだったから、新しい自分が目覚めた気分でハイになっていた。

サッカーって…楽しいじゃん…!

トリコロールが好き

また、横断幕と客席の大旗、ユニフォームの色には相当テンションがあがった。

その頃私はテニスの王子様のミュージカルが大好きで、特に主役校の青春学園を応援していたのだが、この学校カラーと全く同じ青・白・赤の3色がマリノスのチームカラー。親近感が並大抵ではなかったし、テニスの王子様の声優ライブではトリコロールの照明が光る度に声援を出す標準装備が出来ていたので違和感がない。

スタジアムに来て5分、既に「もうここ以外応援出来ない」と思った。

前半が終わり、ハーフタイム。私は急いで栗原選手のコンフィットシャツとタオルを購入し、後半にはそれを着用してゴール裏で知らないチャントをバックに跳ねていた。

憧れの○○になれる

もしも漫画の世界に入れるなら誰になりたい?と聞かれたら間違いなく
「海堂薫と同じクラスの女子A(テニス部の応援には毎週欠かさず行く)」と答える。

名前が付けられるほどの有名キャラになって、ストーリーや登場人物の関係に邪魔はしたくない。ただ静かに好きなキャラの近くで彼の成長を見守りたいのである。

スポーツ漫画には時々応援の描写があって、選手の名前や応援校のコールをしているのだが、Jリーグのゴール裏ではまさしく同じ経験が出来る。

「レッツゴー青学!」「勝者は跡部!」とセリフは少し違うが、三次元にいながらしてモブキャラになれるなんて夢のような世界である。応援にくじけそうになった時はいつもこの立場でいられる喜びを思い出すようにしている。

同じユニフォームを纏える喜び

2.5次元ミュージカル観劇に於けるタブーの1つとして「出演者と同じ衣装を客席に着てきてしまう」ということがある。

応援したい、という気持ちの表れなのだろうが、主役はあくまでも演者であり、観客は普段着で観劇を静かに楽しむのがマナーである。

そんな環境で育ってきたのだが、Jリーグはサポーターも選手と同じユニフォームを着ている。
この風習は観客席を彩るだけでなく「自分はこのチームのファンだ」という帰属意識が生まれる。運動会で紅白に分けられれば相手チームを倒すぞ!と思えるように、コンフィットシャツを纏った時に倒すべき相手も明確になって応援に集中できた。これも自分にとっては新鮮な発見だった。
家の中でしか着られなかった青学ジャージを着ていた頃も幸せだったが、外で同じユニフォームの人を見つけられるのも仲間を見つけた気分になって楽しい。

チケット代の安さに驚いた

当時、テニミュ(テニスの王子様ミュージカルの略)のチケットは1公演6000円、それを昼夜公演・週5日のペースで見ていたので公演期間はかなりのお金が飛んだ。

それに慣れていた私は、試合の当日券2500円(当時)がかなり安く感じ驚いたのを覚えている。しかもチケ取り戦争でおなじみの「チケットをご用意出来ませんでした」とはほぼ無縁。
いつでも試合をフラっと観に行けるし、年間チケットに手を出してからはチケットサイトにログインすることもなくなり、挙句パスワードを忘れた。

当時、親から趣味をセーブするように言われていたので観劇仲間には「婚活でもしようと思って貯金する…」とミュージカルから足を洗ったのだが、結局それからJリーグのホーム皆勤、遠征もしている始末である。婚活は現在も進んでいない。

マスコットが神対応だった

初めてスタジアムに行った日、試合終了後の帰るタイミングが分からずに長居をしてしまったのだが、ピッチにいたマリノス君とマリノスケが丁寧に写真を撮らせてくれた。こちらの声は聞こえない距離のはずなのに、携帯カメラのシャッターを押すまでしっかりポーズを取って、手も振ってくれた。

これがまさしくその時に撮った写真

アイドルのコンサートに行って「いま櫻井君が私のこと見てくれたよね?!」と幸せな勘違いをするファンの様であるが、笑われてもいい。

今まで遊園地で会うマスコットがこちらに見向きをしてくれることがなかったし、コンサートでも豆粒席にしか座ったことがなかったのでこんなに手厚いファンサービスを受けることがなかったのだ。女子校育ちなので人間だろうが、カモメだろうが男の子に優しくされるとすぐに勘違いしてしまう。

この対応のお陰で今でも私はマリノスケ沼の深部で足を引っ張る妖怪と化している。

応援チームの雰囲気が好きになる

「女性は選手サポーターになりやすい」という切り口、これは確かに多い傾向なのだが周りの女性を見るとそうでもない。

これも女性がスポーツ漫画を好きになる傾向とそっくりで、それぞれチームの持つ雰囲気や哲学を愛すように思えるのだ。

スポーツ漫画だから勝敗は決まっている。何度公演をしても主役校が優勝するのだが、強いチームが人気かと言えばそうではなく、どの学校にも万遍なくファンがいる。

最初はキャラから入っても、ストーリーを読み進めていくうちにチームに感情移入し、”辛い境遇から顧問なしで新しい部活を立ち上げたチーム”、“絶対王者として厳しい規律と圧倒的な戦力のチーム”などそれぞれの雰囲気とチームの哲学に惚れていくのだ。

やべっちF.C.はすごい

テニミュの魅力はミュージカル本編もさることながら、公演時の楽屋を映したバックステージ映像にキャストの成長や、舞台とは違った素の表情が垣間見えるのも魅力の秘訣なのだが、Jリーグにも似たものがある。

そう、やべっちFCでシーズンオフ期間に放送する「デジっち」の企画である。

ピッチでは真剣勝負を繰り広げている選手が、キャンプ中はあんなに無邪気に笑い、チームによっては息のあった団体芸で楽しませてくれる。普段は敵対しているチームの映像でも「この選手にはこんな一面があったんだ」と知ることが出来て、応援チームだけでなくJリーグ全体を好きだと思える素晴らしい企画である。

SNSなどでこういった風景をアップしてくれる選手も多いが、需要に供給が追いついていない。Jリーグやクラブの発信が物足りないというのが本音だ。

少年漫画原作舞台の非日常空間にもドキドキしているが、生で見るマリノスの選手のプレーも現実とは思えないほどかっこよくて、感動のあまりスポーツ観戦で泣けてくることもある。
どちらも五感を震わせる素晴らしいコンテンツだ。ハマると全力を注ぐ女性はまだまだ潜在的にいるので、こういった女性がいることも頭の片隅に置いてもらえると嬉しい。

ここまで読んでくださって本当にありがとう! サポートも大変励みになりますのでよろしくお願いします。