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「笑わせる」と「笑われる」/作家養成所と5回目の青春③
放送作家の養成所、ワタナベコメディスクール・放送作家総合コースで学んだ1年間のことを振り返ります。
※記事①
→https://note.com/ladder_daruma/n/n17087c140586
※記事②
→https://note.com/ladder_daruma/n/nf7513c58cb34
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/47544612/picture_pc_c7ff918c782393d4927eaf86f01dbc64.png?width=1200)
※イベント設営中に立ってられなくなった髙﨑
■ラジオパーソナリティ体験
授業で様々な”レクリエーション”を行いましたが、その中の一つに「ラジオ番組をやってみる」というのがありました。
3~4人ごとのグループに分かれて、教室の前の長机に座り、「パーソナリティ」「ゲスト」「スタッフ」などになりきって、企画したラジオ番組を自ら実演するというものです。
「なんておこがましい」と。ラジオ好きの僕は思ってしまう。できるわけがないじゃないか。しかし、きっと「自分でやってみたら、やっぱりできなかった」という経験が、作り手としての糧になるのであろう。ここはラジオパーソナリティ養成所ではない、放送作家の養成所だ。
■「お前なんでココに居るんだ」という奴はどんな現場にもいる
僕を含めて3人のグループ。実演する番組の企画は、僕の考案したものに決まりました。
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世の中のありとあらゆる不器用で“へたっぴ”な人の背中を押して、笑って昇華してあげる応援番組です。
発表の前週、班ごとに分かれて打ち合わせ。しかし3人の中に1人、明らかにやる気のない人がいる。Bさんとします。ちゃんと話すのは初めてか。20人ほどのクラスメート、これまではスポットライトが当たっていなかった彼に、否応なしに対峙する。目立たないモブ寄りキャラクターの解像度が急に上がる、漫画でいうところの3巻辺りの展開です。
彼は、とことん不真面目でした。
「積極的に参加しない」事を“陰”のやる気のなさと表現するのであれば、彼はとにかく話を脱線させて、企画に向き合わず、安価な下ネタを会議に放り投げては、ガハハと笑う“陽”のやる気のなさです。下ネタを言うだけ言って、拾わない。ポイ捨てだ。
「いいからいいから、話戻すよ(笑)」
たしなめるように、僕は「かっこわらい」でそのゴミをいそいそと拾います。
これは完全に僕の見積もりの甘さではありますが「放送作家の養成所」に、“こういう人”が居るとは思っていなかった。
こういう人と関わるのが嫌で、教室の隅に座ってたんだ。“有害な男らしさ”の強要で実在を実感するような、こういう人だけは、こんな所に、居ないと思っていた!なぜお前みたいな方が、こんなところにいらっしゃるのか。
■最悪の緑の世代
僕の中学には不良が多かった。質も量も厄介さも、「数十年に一度の出来」だったらしい。学年別でジャージの色が分かれているのですが、既に2年に上がる頃には「あぁ、あの緑ジャージの代ね」と眉をしかめられるほど。のちにアメコミが好きになった僕は、緑色が様々なヴィランのテーマカラーになっていることに妙な納得感を覚えていた。
ボヤ騒ぎで学校に警察が来たこともあるし、僕の友達が、後ろの席からライターで熱したシャーペンの芯をうなじに当てられ火傷したこともあるので、抽象的な意味でなく本当に“有害な”人たちが、校内に蔓延っていたのだった。あろうことか肩で風を切って、廊下のド真ん中を歩いている。僕は上履きを端に寄せる日々。消化器に当たらないように廊下を歩いた経験は、彼らにはないだろう。
青春の始まりを路肩で過ごした僕は、出来るだけ勉強を頑張って、なんとか偏差値の高い私立高校に合格した。全ては緑色の沼から抜け出すためだ。部活終わりの帰り道、「早く卒業したいよね」と友達と言い合う日々。「高校楽しみだね」じゃなく、「とにかく卒業したい」。こんな言葉を14歳の口癖にしてしまうような環境は、正直劣悪である。
やっとの思いで掴んだ「卒業証書」という特急券。荒れ果てたゴッサムシティ中学校に別れを告げて、いざ行かん進学校へ。しかし入学初日に僕を待っていたのは、「中学時代に対峙していた不良たちに、試験を突破できるだけの十分な頭脳を足した奴ら」であった。それは「子豚のレンガの家を鉄球ハンマーで壊すオオカミ」であり、「バイクで追いかけてくるゾンビ」である。つまり最悪。
せっかく入った、高い入学金を払って入った私立の高校に、こんな奴らだけは居ないと思っていた。
結局、高一の僕のクラスではイジメもあったし、僕は引き続き“路肩”で青春を消費することになる。
Bさんの下ネタを処理しながら、そんなことを思い出していた。
ようやく来れたここに、てめぇみたいな方が居るはずがないのに。同志を求めてやってきた養成所、オアシズのはずが、砂漠で遠くに見える朽ち果てかけた自由の女神に打ちひしがれるバッドエンドだった。そうか、ここはずっと緑ジャージの世界だったのか。
同じ受講料を払っているのに、一方は下ネタをポイ捨てするのに夢中で、僕だけが頑張って打ち合わせを本筋に戻そうとしている。おかしくはないか。僕だけじゃないんだぞ、僕らみんなの発表なのに。顔には出しませんでしたが、内心ブチギレです。そしてそれを“内心”に留めてしまっている自分が、なんだか情けない。
「違う違う、おい!ちょっと!(笑)そんなの絶対本番で言うなよ(笑)」
彼の口から女性器の名称が飛び出すたび、僕は入学金を1%ずつ、排水溝に捨てられている気分だった。親が稼いだお金だ。
実演の題目がラジオで、しかも自分の企画ということもあり、僕が空回りするほどやる気を出していたのも事実です。
ただ、ここは「義務教育」じゃないのであって。Bさんも、来たくないなら来なくていいし、やりたくないなら帰ればいいのだ。誰も止める人は居ない。にも関わらず、彼はウンコちんこで馬鹿騒ぎして、僕は台本の段取りを詰めている。2人とも、同じ金額を払った、同じ授業の、同じ時間で。なんだこれは。きっと彼も、僕も、「こんな時間早く終われば良いのに」と思っている。
「楽しいのが良いじゃん」が、
主観の域を出ない人。
僕の「やめろよ!(笑)」の意味に、
「かっこわらい」の意味に、
一歩踏み込もうとも思わない人。
授業後、仲の良いメンバーで、よくファミレスに行っていた。中目黒のサイゼリヤで、有る事無い事、色々と話す楽しい時間。その日、珍しく愚痴を思いきりブチ撒けたのを覚えている。泣いてないけど、なんか泣きそうになったのだった。
■「笑わせる」と「笑われる」
翌週、本番当日。
各班が教室の前でラジオ番組を実演する。
後半、なんなら最後の方だっただろうか。
僕らの番が回ってきた。
なんと当時の台本が、PCに残っていました。
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「時刻は11時を回りました。おはようございます、髙﨑です。」
今まで聴いてきたラジオの雰囲気を纏わせて、僕の一言から番組をスタートさせる。この課題の面白かったのは、“第2回目の放送”というテイでやる、という設定でした。立ち上げではなく通常回を見せてくれ、という。確かに初回はイレギュラーでコーナーメールも届いていないから幅が狭い。そして何より、2回目が面白いラジオは本物という感じがする。
「Bです。」
あぁ、偉いえらい、自己紹介はできまちたね。
下がりきったハードルを、まずはちゃんと超えてくれます。
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存在しない第一回の思い出話と、来ることのないメールの呼び込みをした後に、楽曲を挟みつつ…(選曲がこざかしいですね)コーナーに入ります。
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まさかの武井壮さんをゲストに迎えて、コーナースタートです。Cさんがゲストを演じ、ここから3人のトークとなります。
結果から言えば…台本なんてあったもんじゃなかったです。
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あまりどんな内容だったのか覚えていないのは、僕が非常にテンパっていたからです。僕以外の2人が台本にない事を言って、企画趣旨を無視した雑談に逸れて、焦って僕が軌道修正。まさに、打ち合わせの時と同じです。
「シャドーボクシングがいいんですよ」という話になった時には、「じゃあ実際にやってみましょうか」と、ラジオにも関わらず2人がその場で実演をし始める始末。
「まぁ、ラジオなんでね、リスナーの方には見えてないですけど。え~今ですね、ステップを横に踏みながら、…え~、ワンツー、ワンツーとこぶしを出しています。」
慌てて僕が、実況のような形で様子を伝える。ゲストもアシスタントも、やりたい放題だ。さすがにあの武井壮さんも、急にそんなことしないだろうに。顔には出しませんでしたが、内心ブチギレです。そしてそれを“内心”に留めてしまっている自分が、なんだか情けない。
もう少し僕に思い切りと勇気があれば、
放送の途中で
「オイ!!!!!!!!!」
と叫んでいたかもしれない。
そんなオリラジANNすれすれの大きな想定外に飲み込まれ焦っている中で、もう一つの想定外が僕を襲う。
めちゃくちゃウケている。
クラスメートに、かなりウケている。
大きな笑い声が起きていた。
しかしそれは、”僕の想定していた番組の面白さ”からはかけ離れたものでした。規格外のアシスタントと、奔放なゲスト、そしてそれを必死になって正そうと汗をかくパーソナリティという「構造の滑稽さ」。そこに、大きく笑いが起きている。
よく芸人さんも言う。
「笑わせた」のではなく「笑われた」。
そんな感覚に近い。
「うまくいってない」ことが面白がられていた。
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台本を自分で書いておきながら、「(まとめて)とは、よく簡単に言ったもんだな」と思いつつ、番組を締める。来週もこの時間に、決してお会いしたくはない仕上がりだった。
■想定外がおもしろいって分かってたはずなのに
発表が終わった後、途轍もなく悔しかったのは「ウケてよかった」と満足している自分がいたから。ラジオ好きの自分は分かっていた、こういう「想定外」があるから番組は面白いのだと。「バナナムーン」に予告なしで急に貴さんがやってくるのが、面白いのだ。分かってたはずなのに。
ラジオ好きな自分が一番分かってなくてはいけなかったものが、不真面目な彼のおかげで達成された。それを認めたくなかった。熱量があれば、たとえ見えなくたってラジオブースでシャドーボクシングしていいんです。「聞けば、見えてくる。」のだから。
「大きく企画の軸をブラされたことで起きた予測不能な面白さ」と、「自分の思惑がうまくいっていないこと」の狭間で、苦しかった。結果的にうまくいったこと、そしてそれが自分のコントロールできる範疇を超えた場所から生まれたということを認めたくなかった。
「番組が面白ければいい」というのはわかっている。「想定外」も、しっかりと台本という「想定」の下地があるからこそ生まれるものである。分かってはいる。今ならわかる。でもこの日の僕に残ったのは、まぎれもないら“陽”への敗北感だった。緑のジャージに白旗である。
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発表直後の自分のメモを見ると、自分自身のことにも関わらず、珍しく良い言葉が並んでいる。「ウケてよかった。」という達成感のウィニングランの最中、ホクホクの状態で書いたのであろう。
「困らせようという活き活き感」
のちに君の中で、敗北感の種となる言葉が、
まだ嬉しそうに残されていた。
■後日談
Bさんはいなくなった。
事情は知らないが、途中から養成所に来なくなった。
トラックドライバーの仕事に戻ったのか、新しい夢を見つけたのか、僕には分からない。そもそもなぜ彼は、放送作家を目指そうと思ったのだろう。なぜ、簡単に辞めてしまったのだろう。入学のために決して安くはないお金を払っているのに、死ぬほどキツい課題があるわけでもないのに、自ら好きで入った養成所を簡単に辞めていった数人のクラスメートの考えは、5年経った今でも分かりません。
でも彼とのあんな出会いも、僕の悔しい経験も、意味のあったことだと思いたい。
彼のことはなかなか忘れられません。「いい子ぶって真面目にやっちゃって」という、彼の嘲笑で潤んだ瞳を、しっかり覚えています。頭の中でその顔をブン殴る腕の遠心力を利用して、僕は今も歩みを少しずつ進めている。「真面目に」仕事をする。
いま、もしまた彼に会えることがあればこう伝えたいです………え〜、えっと…いや、そうですね…よく考えたら、別に言いたいことはありませんでした。感謝を述べる義理もありませんし。今もどこかで、この同じ空の下、「困らせようという活き活き感」で、誰かの足元に下ネタをポイ捨てしては、ガハハと笑っているのでしょうか。どうか、元気で暮らしていてください。今度こそ新しい夢を、やりがいを貫き通してください。またいつか会う日まで。僕の今のたった一つの願いは、今の彼より稼げていますように。
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