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美味しすぎない「ナポリタン」
駐車場になっているピロティの奥に喫茶店がある。数年前に一度来た。何年前かは覚えていない。複数あるメニューの中から、半ばゴリ押しにナポリタンを勧められた記憶がある。それから数年、別に行きたくなることもなく、かと言って忘れるわけでもなく、ズルズルと記憶の片隅に残るのが「美味すぎない」と思える所以でもある。
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ドアを開けてもしばし何も反応がない。店の奥にあるカウンターで話に花が咲いているようだ。こちらの存在にふと気づき、若干気だるそうに席を案内しに来てくれた。
とは言え、客は私ら以外には居ない。促されるまま店の端っこの席に腰をかける。
対応してくれたのは、ナポリタンのお母さんではなかった。歳のころから推測すると娘だろうか。その話し相手はさらにその娘の息子だろうか、かなり若いように見える。店はアットホームというレベルではなく、どこかの家族の台所に迷い込んだのかと錯覚するほどにアウェイだ。
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今回は推されたわけではないのだけれど、過去の呪縛からか、ぬるりとナポリタンをオーダーする。(おそらく)母子がなんやかんや言いながら、そろりそろりとナポリタンを作りはじめたように見える。
客は私らしかいないフロア。後ろから蛍光灯で照らされたパネルには、薄っすらと(おそらく)ハワイの景色が描かれているようだ。目を細めないと判別できないほどのダイヤモンドヘッドらしき尾根の形が認識できる。その景色がハワイのものであると自信を持てたぐらいのタイミングで、ナポリタンが運ばれてきた。
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弁当の下に敷かれているような緩く茹でられたナポリタンは、美味すぎない料理の最高峰と言える。美味すぎない中でも美味い部類に入る、という安易な意味ではない。腹一杯になるまで食べるほどのものではないが、たまに食べると少しだけ機嫌がよくなるような食べ物だ。最初の数口が至福だ。あとはちょっとした惰性で食べる。ただし最後のひと口は少しだけ哀しい。そんな料理だ。
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食後のコーヒーにはチロルチョコがひとつ付いてきた。BGMの無い店内は、業務用エアコンのジジジジという音と(おそらく)家族の会話しか聞こえない。「病院の先生が」とか「こないだの手術が」というワードが飛び交っているようにも感じたが、次に来るときはあのお母さんがナポリタンを勧めにきてくれるだろう。
次回は数年後というわけにも行かなそうだから、機会をつくってナポリタンを食べに来てみようか。それがよさそうだ。そうしよう。
サポートいただいたお金で絶妙なお店にランチにいきます。