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美味しすぎない「Aの2番」

スランプだ。

美味すぎない店と言うのは本当に難しい。最近はただ美味しい店が多いのだ。そこらの何てことのない飲食店でも普通に美味い。さらに例のウイルスの所為で、コミュニケーションが最低限まで切り捨てられてしまった。たとえ食べた感想が美味すぎなくても、会話も何もなければ、それはもう「美味くない」に程近い。本当に困ったものだ。

この店は最後の砦だ。自宅の近くにある洋食店。もしここがダメなら美味すぎない店は恐らく死ぬのだ。そんな気持ちで足を踏み入れる。大丈夫、ここは大丈夫なはずなんだ。

大抵の美味すぎない店には、色んな客がいる。このお店もそうだ。老夫婦も子連れの家族も、未だにアベックと呼びたくなる垢抜けないカップルもいる。今後の結婚が難しそうな独身男性も、ヨレたスーツのサラリーマンもいる。そしてみな、満面の笑みにはならず、特に表情を変えることなく食べ進める。

ただこの空間この時間、どこかの一瞬で表情が緩むのだ。配膳時のおばちゃんとのトークだったり、やたらとコーヒーだけが本格的だったりと、そのピークはそれぞれ異なる。だがどこかで何となくよい時間が生まれるのだ。

スパゲッティ定食とは…
おでんセットとは…

突っ込み始めたらキリがない。そんなランチメニューを見ながらオーダーを決める。おそらく何を頼んだって、特に仕上がりに差はないのだろう。だからこそメニューの隅々まで目を通す。裏がディナーのメニューであることを確認し、表に戻って冒頭のA定食を選ぶ。ハンバーグだ。さらにプラスしてもう一品選べるらしい。よし、2番の魚フライとカニコロッケにしよう。なんの魚か分からないし、多分カニなんか入っていない。でもワクワクが止まらない。

「すみません、Aの2番で」
はじめて来た店で、常連のようなオーダーをする。

「はい、Aの2ね!」
惜しい。「番」は要らなかったか。

メインとサブのすべてが並列

運ばれてきたAの2。兵器のように熱い小ぶりなハンバーグ。タルタルと同色のソースが掛けられた魚フライ。カニコロッケに甲殻類の気配はない。他の客と同様に、表情を変えることなく食べる。淡々と食べ進める。メニュー選びのわくわくを、食事を通して消化している。

厨房ではおそらく夫婦であろう二人が小競り合いをしている。コーヒーはセルフサービスらしいのだが、ポットの中身が空っぽだとクレームが入った。棚の上にあるaiwaのミニコンポがずっと気になっている。

イイ店だ。だから14時を目の前に、なお客が引っ切りなしにやってくる。美味すぎない店はまだ死なないようだ。


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lada
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