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2023年夏ドラマ感想③

 もはや秋ドラマもほぼ終わっていますが、今回は夏ドラマのうち、水・木曜のドラマの感想です!(前回の記事はこちらから)

※ネタバレを含みます。ドラマによっては否定的な意見も述べますのでご注意ください。

【こっち向いてよ向井くん】

(日テレ系・水曜22時~・主演:赤楚衛二)
個人的評価:5/5

 10年前に美和子(生田絵梨花)と別れて以来、恋愛から離れている向井悟(赤楚衛二)・33歳。彼に恋の予感が久しぶりに訪れたり訪れなかったりして、日々やきもきしどぎまぎするドラマです。

 夏ドラマ珠玉の一本です。上に書いたあらすじだけ読むと、よくあるライトなラブコメのようですが、それは仮初の姿で、実態はゴリゴリの社会派ドラマ。
 「あなたはこの令和で、どこまで考え抜いたうえで主体的に生きられていますか」「他者のことを分かったつもりになっていませんか」といった問いを突きつけてきます。こう書くと今度は逆に重たいドラマのようにも見えますが、あくまで軽妙で洒脱なテイストの中でこうした問いを提示してくるのが、このドラマのすごいところです。

 良いポイントはたくさんあるのですが、一番は構成の妙味。
 ざっくり言えば、このドラマは1・2話は年下女性との恋愛未遂パート、3・4話の同年代女性との交際パート、5~7話の美和子との再会パート、8~10話の洸稀(波瑠)と向き合うパートから成ります。
 1・2話では自分がどうしたいのかも相手がどうしてほしいのかも分かっていなかった向井くんですが、3・4話では、自分が求めるものが見えはじめます。5話以降では、まず自分がどうしたいのかをよく考えた上で、さらに相手の考えも聞いたり想像したりしながら、改めて自分がどうすべきかを考えていきます。
 7話や10話での行動は、1・2話時点の向井くんには取れなかっただろうと思います。向井くんが変わっていく様子が各話のエピソードを踏まえて説得力をもって描かれ、全ての展開、全ての台詞が先につながっていくような、よく練られた脚本でした。

 また、このドラマは恋愛がうまくいかない男性=向井くんが成長していくだけの単純なドラマではありません。序盤は、相手の女性の気持ちを推し量れない向井くんが、妹の夫・元気(岡山天音)が営むカレー屋で出会った洸稀からダメ出しされるという流れで、恋愛上手な女性が恋愛下手な男性を一方的に教え諭すような構図にも見えます。
 が、女性側も、それぞれの登場人物がそれぞれにもやもやした悩みを抱えていて、誰も正解など見えていない中で、各々がもがいて生きていることが描かれます。
 3・4話で年齢を理由に結婚を急ぐチカ(藤間爽子)の焦燥感が語られるのを皮切りに、5~7話では美和子が10年前に向井くんと別れた理由や、彼女が結婚を望まない理由が明かされます。さらに8~10話では、なぜ洸稀が誰かと深い恋愛関係になることを望まないのか、彼女の恋愛観が詳らかにされます。それらと並行して、1~10話を通して、「元気が好きだけれど、元気と夫でいることをやめたい」という、向井くんの妹・麻美(藤原さくら)のすっきりしない心情が描かれます。
 彼女たちの価値観には他人からは理解されにくい独りよがりな部分もあり、彼女たち自身もそのことを理解しているけれど、もうそのようにしか生きられなくなっている。このドラマは、そんな割り切れない葛藤を無理に解決させず、割り切れないままに描いてくれています。
 ふがいなさを感じているのは向井くんだけじゃなくて、みんなふがいなさを抱えながら毎日暮らしている。話を追うごとに、自分がいかに登場人物たちを単純に理解しようとして、一面的にしか見ていなかったかに気付かされました。

 ドラマの構成にばかり言及してしまいましたが、俳優陣の演技も素晴らしかったです。日常会話のようでいて、急に深い思索や議論に突入したりするような場面も数多くありましたが、赤楚衛二・波瑠をはじめとするキャスト陣はそれらを自然な会話や語りに落とし込んで、軽快なテンポ感のドラマに仕立て上げていました。向井くんの憎めなさは赤楚衛二本人の愛嬌あってこそだと思いますし、ラブコメ百戦錬磨の波瑠が重要な役を演じてくれていることには大きな安心感がありました。

 長文を書いた割にはこのドラマの魅力を全然伝えきれていない気がしますので、気になった方にはぜひ見ていただきたいです!

【ばらかもん】

(フジ系・水曜22時~・主演:杉野遥亮)
個人的評価:3/5

 有名な書道家を父に持つ、自身も書道家の半田清舟(杉野遥亮)が、書道の世界で行き詰まったことをきっかけに五島列島に移住し、住民たちと交流しながら自分を見つめ直していく物語です。

 杉野遥亮のデビュー作である「校閲ガール」以来、ずっと彼に注目し続けてきたので、今回のGP帯連ドラ初主演はとても嬉しかったです。
 育ちが良く、しかし抜けたところのある清舟という役柄に、杉野くん自身の人柄がよくマッチしていて、ハマり役でした。清舟は突っ込みに回ることの多いキャラクターでしたが、受けの演技の上手さ、テンポ感の良さが光っていました。

 ただ、ドラマ自体にはあまりハマれなかったんですよね……。Twitterでの評判は良かったので、自分がなぜハマれなかったのかをずっと考え続けているのですが、今も明確な答えは出ず。
 
 ひとつには、物語を動かす大きなエネルギーが見えなかったということがあるのかもしれません。主人公の目標あるいは乗り越えるべき課題、物語上で解かれるべき謎などが、全くないわけではありませんが明確ではないドラマだったので、どこに向かっているのかやや見えづらいという印象がありました。もちろん、このドラマにそんな要素は必要ないという意見もあると思いますので、あくまで個人の好みの問題です。

 あとは、これも好みの問題でしかないのですが、コメディパートとシリアスパートの落差の大きさも理由としてあるかもしれません。基本はコミカルにわいわいがやがやと進んでいくのですが、真面目な場面になるとみんな急に真剣な眼差しで語り出します。そこの落差に違和感を感じてしまって、もう少し両者の性質を共存させながら連続的に描いてほしかったと感じました。

【みなと商事コインランドリー2】

(テレ東系・水曜24時30分~・主演:草川拓弥)
個人的評価:4/5

 コインランドリーの店主・湊さん(草川拓弥)に恋心を寄せ続けていた高校生のシン(西垣匠)。シーズン2では、二人が結ばれて、シンが大学生になった後の日々が描かれます。

 これはもうオタク向けのエキシビションでしたね。
 シーズン1を何度も見返した勢としては、シーズン1の要素や台詞が、シーズン2で手を替え品を替え登場することに毎週わくわくしていました。誕生日会、西瓜しぇいく、夜のプール、長い手紙、「お誘いですか?」……など挙げればキリがありません。
 OPとEDもシーズン1をセルフオマージュしていて、芸の細かさが光っていました。終盤の回でEDが変化するのも良かったです。
 物語としてはシーズン1で一度決着がついているので、シーズン2で大きく何かが変わることはないのですが(と言いつつ衝撃の大きい展開はありますが)、シーズン1を受けてのシーズン2としては完璧だったのではないでしょうか。

 このドラマ、年々増え続けるBLドラマの中でもかなり好きな方なのですが、その理由を考えると、キャラクターの解像度が恐ろしく高いことが挙げられると思います。
 湊さんほど大げさなリアクションをするアラサーも、シンほど攻めた発言をしまくる高校生も、現実にはほぼいないとは思うんですが、でもドラマを見ていると、湊さんやシンの一挙手一投足、一つ一つの発言に納得感があります。毎シーンで、「ああ、湊さんならここでこういうリアクションを取るだろうな」とか「シンは絶対こう言うよね~」という感想を抱きながら見ていました。
 シンの同級生・明日香(奥智哉)が思いを寄せる相手である柊くん(佐久間友)は、シーズン1では出番も台詞も少なく、シーズン2で活躍し出すので、シーズン2で初めて見る姿が多かったです。それでも、「柊くんがここで早口になるのめちゃくちゃ分かるな~」とか「柊くんならこういう表情するだろうね」というような、ある種の安心感がありました。

 最後に、これは完全にオタクの感想でしかありませんが、シンを演じている西垣くんからしか得られない栄養があります。他の役を演じているときもとても良いのですが、シンを演じているときは纏ってる空気がどこか違っていてとても良い……!

【ハヤブサ消防団】

(テレ朝系・木曜21時~・主演:中村倫也)
個人的評価:4/5

 売れないミステリー作家・三馬太郎(中村倫也)が、岐阜県のハヤブサ地区にある、亡き父の生家に移り住むところから物語が始まります。ハヤブサ地区では連続放火事件が起こっており、太郎はなんやかんやあってハヤブサ地区の消防団に入団し、事件の謎を解いていきます。

 池井戸潤の同名小説が原作というだけあって、筋書きのしっかりしたミステリードラマでした。様々な要素や人物が並行して描かれていったうえで、それらが絡まり合って最終的に一つの像を結ぶ様が見事でした。
 特に5話で立木彩(川口春奈)と新興宗教・アビゲイル騎士団のつながりが描かれて以降の物語の加速がすさまじかったです。だんだんと向かうべき敵が巨大化していった末、最終的には何を相手にしているのか分からなくなってくる。毎週鳥肌を立てながら見ていました。
「silent」の次の連ドラにこのドラマのこの役を選ぶ川口春奈、恐ろしいです。生きづらさを抱えた若者としての陰と、宗教に深くのめり込んだ人間としての底知れぬ不気味さのようなものが両立していて、何とも言えない凄みを醸し出していました。

 このドラマには、キャスト発表時に話題になったように、生瀬勝久、橋本じゅん、梶原善、岡部たかし、満島真之介など、名バイプレイヤーが揃い踏みしているのですが、そんな曲者ぞろいの中で堂々と主演を務める中村倫也が素晴らしかったです。
 ミステリー、恋愛、コメディなど、性格の異なる複数の要素が詰まったこのドラマの中を自由になめらかに闊歩して、時には長台詞でもって対峙する相手や視聴者を圧倒して、物語を巧みに操っていました。最終話での彩に向けた強い叫びは、何度でも見返したいくらいの名演でした。

 あと、アビゲイル騎士団の顧問弁護士・杉森役の浜田信也をこのドラマで初めて拝見しましたが、俗世を超越したような演技が非常に印象的でした。クセになったので、浜田さんが出演する舞台(『無駄な抵抗』)を見てきましたが、独特な存在感が素晴らしかったです。

 今回は以上です! 次回でようやく書き終わります!


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