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その49)BI社会/ある警察官の一日

ベーシックインカム社会になって数年が過ぎたある日の出来事である。

とある地方都市の派出所に勤務する田中巡査の当番の日だ。とは言っても現場にいるのは田中巡査のアバターロボットだ。ボディカメラや各種センサーを身に着けている。拳銃の代わりに殺傷能力が低い電気銃を携帯している。同じロボットを数人の警官で共有している。出勤先は、アバターロボットを操作するためのドローンセンターである。

巡査の業務の多くは定期的に担当区域を回って街の皆さんに声掛けをすることだ。勤務は人同士のトラブルが起きやすい夕方〜深夜の時間帯が多い。昼間は事件が少ないのでほぼロボットが行っている。警ら中は多くの住民との会話がある。話題は世間話から地域の困りごとまで様々だ。スマホでの通報も常に受け付けている。

派出所内の業務もかなりのことが自動化されている。落とし物はロボットが受付で処理。応対AIが拾ってきた人や落とした人と普通に会話ができるので、細かい内容の記録や預かりが可能だ。

街の各所に監視カメラがあるので、AIが異常を感知すればアラームが鳴る。現場への急行もアバターロボットが行う。喧嘩、万引き、ロボットの破壊(器物破損)、自転車泥棒などの被害が多い。警官ロボットが喧嘩の仲裁に入るケースもある。危険な作業もロボットならではの利点を活かして受け持っている。

交通事故も自動車は自動運転が主流になってからは自動車事故は激減し、自転車や電動バイクは取り締まりが強化されている。免許の有無はマイナンバーで管理。ヘルメットは義務化されている。ドラレコ装着車が増えた。違反は自動処理される。多くは罰金や過料なので、ベーシックインカムのみで暮らす人は違反が見つからないように気をつけている。

自殺や傷害、殺人はゼロではないが劇的に少なくなった。

田中巡査は本日、通報とAIの指示を受けて、不良少年の危険ドラッグ取引現場をおさえる動員に参加した。作戦は成功し、けが人を出すことなく首謀者は逮捕。証拠品は押収。少年たちは補導された。

ベーシックインカムがもたらす循環社会に退屈さを感じ、将来の夢を持ちにくく、決まりきった日常に反抗したいとか、刺激を求める若者が非行に走っている。そんな少年たちを束ねドラッグを売る組織があるのだ。若い世代はテクノロジーをハッキングして新しい使い方や表現を常に生み出そうとするようだ。相手がロボットだと激しく攻撃する場合もある。

ロボットだけで治安を守るというのは世論から根強い批判があるが、人間の警官では生命の危険リスクが高いからということで汎用ヒト型ロボットではなく、アバターロボットが採用されてる。業務は常に機械学習されているため、現場判断や住民対応、逮捕術など、どんどんAIのみでできるようになっていくので、やがては操作する警察官も数が減って行く運命にある。

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