英語語源辞典通読ノート A (age-aisle)

研究社『英語語源辞典』を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp23からp26までの単語あたり。

age

「年齢」や「時代」という意味のとても基本的な語だが、中英語 "age" は古フランス語 "aäge" からの借入語である。本来語であった "eld" は駆逐されたらしい。"eld" が生き残ってくれていたら意味の近い "old", "adult" あたりと語源的につながって美しかったのだが、"eld" と "age" は印欧祖語のレベルでも関係がない。

agenda, agent, agile

これらはみな同じラテン語 "agere" (to do) から派生した親戚みたいな単語だ。
"agenda" はビジネス用語として一般的になっているが、ラテン語からの借入語である。ラテン語 "agenda" は "agendum" の複数形で、"data"-"datum" や "media"-"medium" と同じ形だ。 "agendum" は "agere" の動形容詞の名詞用法ということで、「〜されるべきもの」という意味になる。「実行されるべきもの」ということで "agenda" は「予定」のような意味になるようだ。
次に "agent" は、ラテン語 "agentum" が中英語に "agent" として借入された。"agentum" は "agere" の現在分詞形で、ここから「実行している(人・力)」ということから「動因」や「代理人」のような意味になったのだろう。
そして "agile" は古フランス語 "agile" からの借入語で、これはさらにラテン語 "agilis" の借入語である。"agilis" は "agere" から派生した「敏捷な」という形容詞で、そのままの意味で英語まで入ってきている。

過去に取り上げた "act" も "agere" の過去分詞形 "actus" に由来するものだった。動形容詞は未来受動分詞とも呼ばれるらしいから、"agere" をもとにして過去・現在・未来がそれぞれ "act", "agent", "agenda" として枝分かれしてきたと言えるのだろうか。

aggress, aggressive

カタカナ語での「アグレッシブ」はよく見かける。英語 "aggress" は「前進する、攻撃する」という意味で、"aggressive" はその形容詞形だ。
語源はラテン語 "aggressāre" からの借入で、これは反復相と呼ばれる動詞の形らしい。聞いたことがなかったが、日本語にすると「ぐんぐん伸びる」とか「べらべら喋る」とか、そういうニュアンスらしい。"aggressāre" の元の形は "aggredī" で、これは "ag-" 接頭辞と "gradī" (to go) から成る。"gradī" の元になった "gradus" は英語 "grade" の語源でもあり、「一歩、一段」というような意味のようだ。
まとめると、「一歩進む」というような意味の動詞が反復して「ずんずん進む」というような意味から「前進する」に、それが戦いにおいては攻撃を意味するようになったのではないかと想像できる。

agree

中英語 "agree" は古フランス語 "agréer" からの借入語。"agréer" は俗ラテン語 "*aggrātāre" に由来するらしい。これは "ag-" 接頭辞とラテン語 "grātus" に分けられ、"grātus" は英語 "grace" の語源でもある。
ここでおもしろいのは意味の分化で、"ag-" (変化) + "grātus" (気持ちの良い) という語源からわかるように元は「満足する」というような意味だったはずで、実際にイタリア語では "aggradare" は「気に入る」という意味になる。英語 "agree" も14世紀後半から15世紀中頃には「喜ばせる」という語義があったようだが、辞典によると廃語義らしい。英語では「同意、賛同」に特化していったようだ。
また辞典によれば、英語 "agreement" はフランス語 "agrément" の借入語で同語源だが、"agreement"には「喜び」の意味はなく、逆に元の "agrément" には「協定」の意味がないらしい。びっくりだ。これはどういうことなんだろうか。フランスから借入してくるときに、英語にはすでに「喜び」に関する本来語が充実していて、淘汰圧に負けなかったということなんだろうか?

aim

ゲーマーにとっては「エイム、エイミング」でかなり馴染み深い単語。中英語では "ame" と綴られ、古フランス語 "esmer" の借入語である。"esmer" はラテン語 "aestimāre" に由来しており、これは英語 "estimate" の語源である。"aim" も元は「数える」とか「推測する」という意味があったようだが廃語義になっているようだ。

aisle

英語学習者泣かせの発音と綴りでおなじみの単語。発音は /áil/ になる。中英語では "ele" と綴られ、発音とも近い。これは古フランス語 "ele" の借用語で、ラテン語 "ālam" (wing) に由来している。ちなみに現代フランス語では "aile" と書かれる。
辞典によると、現代英語での綴りは18世紀以降のもので、頭の "ai" は発音に合わせてフランス語の "aile" から取り入れ、真ん中の "s" は発音も綴りも似ている "isle" から連想されて入ったらしい。適当すぎる。
ちなみに、"aisle" には「側廊」と「通路」の2つ語義がある。語源が "ālam" (wing) から来ていることからわかるとおり「側廊」が本来の意味だが、「通路」の意味はこれまた似た単語 "alley" との混同らしい。めちゃくちゃである。


今回はここまで。 次はいよいよ "al-" シリーズに突入する。