英語語源辞典通読ノート A (arm-artificial) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp65からp69まで。


arm¹, arm²

KDEEではarm¹が「腕」、arm²が「武器、武装」の意味でそれぞれ立項されている。同音同綴異義語だが、語源的に無関係というわけではなくどちらも印欧語根 "*ar-"(合わせる)に由来している。
「腕」の"arm"は "*ar-" から "*armo-"(腕)に派生し、ゲルマン祖語 "*armaz" から古英語 "arm" に発達し、今に至っている。一方「武装」の"arm" は "*ar-" からラテン語 "arma"(体を守るために身につけるもの)に派生し、アングロフレンチ語・古フランス語に "armes" として借入され、それが中英語に "armes" にとして借入された。「体にくっついている」というのが共通する原義のようだ。

armadillo

動物の「アルマジロ」を意味する。語源を遡ると "arm" と同じく 印欧語根 "*ar-" に由来する。ラテン語 "arma" から動詞 "armāre"(武装する)、その過去分詞形 "armātus" に派生する。これがスペイン語 "armado"(武装した男性)に派生し、その指小形 "armadillo" が英語に借入された。見た目通り、鎧で武装している動物ということだ。これがわかっていればいつか「アルマジロ」を綴らないといけないときに "al-" と "ar-" で間違う心配はない。

arrange

「アレンジ」で馴染みではあるが、KDEEで立項されている語義は「隊列を組ませる」「協定する、了解する」「整える、配列する」「編曲する」「準備する、手配する」と多様である。
中英語 "arange" は古フランス語 "arangier" からの借入である。これは "a-" 接頭辞(to, atの意)と "rangier" からなり、"rangier" は英語 "range" の語源でもある。
"range" の最も古い語義は「(人・動物の)列、並び」であり、そこから転じて「隊列を組ませる」という語義になるのはわかりやすい。ここからの意味変化は想像になるが、隊列を組むということは行進や戦争の準備が整うということで、そこから「準備する」という意味に転じたのではないだろうか。また、編曲するというのは楽士を並べてオーケストラを組むイメージだろうか。

arrive

「到着する」でお馴染みの単語だが、最も古い廃語義は「入港する」である。語源を遡ると、中英語 "arive" はアングロフレンチ語・古フランス語 "ariver" からの借入である。これは俗ラテン語 "*arrīpare"(岸に到着する)に由来し、ラテン語 "ad rīpam"(岸へ)から派生している。これは "ad"(to, at)と "rīpa" からなる。"rīpa"は英語 "river" の語源である。もともとは航海用語であったが、一般的な「到着」を意味するように転じたようだ。まさか "arrive" と "river" が同語源とは考えたことがなかった。

arrow

「矢」の意味で、古英語からある本来語である。古英語 "arwan" はゲルマン祖語 "*arχwō" に由来し、これは印欧語根 "*arku-"(弓矢)に由来する。これは前回の "arc"(弧)の語源でもあった。弧(弓)と矢が同じ語源とは不思議ではあるが、KDEEによれば原義は「弓に付属するもの」ではないかとのことだ。
また、中英語では "arwe, arewe, aruwe" など綴りが揺れていたのが "-rrow" という語形に変化したのは "tomorrow" と同じ現象らしい。

art, article, artificial

"art"「芸術、学問」の語源は "arm" と同じく印欧語根 "*ar-"(合わせる)に遡る。"*ar-" からラテン語 "artem"に派生し、アングロフレンチ語・古フランス語 "art"に発達したのち、中英語に借入された。原義では何かに結びついた能力・技術を意味したようだ。

綴りから関連が深そうな "article"「記事」は、語源的には早くに分かれている。印欧語根 "*ar-" がラテン語 "artus"(関節)、その指小形 "articulus"(小さな部分)に派生する。これがアングロフレンチ語・古フランス語に "article" として借入され、中英語に借入された。
今では「記事」の意味で使われることが多いが、1200年以前の最初の意味は法律や契約といった文書の「箇条、条項」を意味したらしい。そこから「事柄、問題」という意味が生まれ、1712年に初めて「記事」の意味で使われたようだ。

ところで、"art" から派生して "artificial"「人工の、技術にすぐれた」という単語もあるが、この語には「人を欺く、狡猾な」というネガティブな語義もある。KDEEではこれを「意味の下落」と呼んでいるが、「技術」に関連する他の語にも共通するらしく、"artful"「学識のある、器用な」には「凝った、わざとらしい」、"craft"「技術」には「悪知恵」、"cunning"「巧妙な」には「ずるい、人を惑わす」といった感じである。これ以上の深堀りはされていないが、"art"の最も古い語義が「狡猾、術策」であることからも、昔から人は技術や知恵に対して尊敬だけでなく嫉妬や疑念を抱いていたのだろう。


今回はここまで。次回からは "as-" シリーズへ突入する。