英語語源辞典通読ノート A (ante-ape)

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp50からp53まで。

ante-, anti-

接頭辞 "ante-" は、「(時間的に)前の」や「(空間的に)…の前にある」の意味を付与する。語源はラテン語 "ante" で、印欧語根の "*ant-" (front, forehead)に遡る。
似た接頭辞 "anti-" は、「反…、非…、…に反対の」といった意味を付与する。語源は古フランス語またはラテン語の接頭辞 "anti-" の借入で、これはギリシャ語 "anti"(opposite, instead of)に由来する。"anti" は印欧語根 "*anti"(against)に遡るが、これはさらに "*ant-"に由来するらしい。つまり、"ante-" と "anti-" は大元は同じで、"ante-" はラテン語から英語へ、"anti-" は少しギリシャ語を挟んでからラテン語を経由して英語へ入ってきたようだ。

このことから、接頭辞 "anti-" を持つ単語 "antique"(骨董の、骨董品)と、似た意味でラテン語 "ante" に由来する "ancient"(古代の)は、50%くらいは同語源だと言えるのではないか、という発見があった。

anxiety

「心配、不安」や「切望、熱望」とった意味の単語。フランス語 "anxiété" またはラテン語 "anxietātem" からの借入語で、ラテン語 "anxius"(苦しんでいる)に由来する。これはラテン語 "angere"(苦しめる)から発達したもので、印欧語根 "*angh-" に遡る。見ての通り、英語 "anger" の語源である。

ページを遡って改めて "anger" を読んでみると、一番古い廃語義に「苦悩」とある。「怒り」の意味はあとから転じたものらしい。形容詞 "angry" も、一番古い廃語義は「心配している」とある。これも同じくあとから「怒っている」に意味が転じたようだ。
また、"anger" と似た "anguish" という単語がある。これは「苦悩、苦悶」という意味で、同じく印欧語根 "*angh-" に遡る。
「苦しみ」から「怒り」への意味変化は、なんとなくイメージできるものの不思議ではある。日本語では「怒号」や「怒涛」のように勢いが強いことを「怒り」と結びつけているように思うが、"*angh-" はそういうイメージではなさそうな気がする。苦しみの中で「どうして自分がこんな目に」とふつふつとこみ上げてくるような怒りこそが本来の "anger" だったりするんだろうか。

ape

「(尾なし)サル」を意味する。こんなに短い綴りだが、語源不詳らしい。古英語 "apa" がゲルマン祖語 "*apōn" から発達したところまでは分かっているが、その語源は不明のようだ。

♢上掲語をいずれも類義の Skt kapi- の語頭音消失形の借入とする説は, 憶測の域を出ていない.

p53 ape

「憶測の域を出ていない」という、編纂者の人間的な側面が垣間見える表現をゲットできた。語源不詳の中でも、有力な説として書かれるものもあればこのようにやんわりと否定されているものもある。


今回はここまで。"an-" シリーズが終わり、ここからは "ap-"に突入する。