英語語源辞典通読ノート B (barometer-basil) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp100からp103まで。


barometer

barometer”(気圧計)は “baro-” 接頭辞と “meter” から成り、“bar(o)-” 接頭辞は「重量、圧力」の意味を付与する。これは前回の “baritone” と同じく “bary-”(「重い」の意を付与する)と同根で、つまり “gravity” とも同根である。”baro-” が重力に関係することがわかっていればバロメーターとパラメーターを間違えることはなくなるだろう。

barrel

barrel”(樽)は語源不詳である。中英語 “barel” は古フランス語 “baril” からの借入だが、それ以前の語源が不明であるが、似た語はロマンス諸語に見られるらしい。英語 “bar” の語源である古フランス語 “barre” からの派生とする説もあるらしい。たしかに “bar” と “barrel” の語源が同じだったら面白い。

…と、のんきに構えていたらすぐにこの問題によって頭を抱えることになった。

barricade, barrier

言われてみると確かにそうだが、“barrier”(障壁)は “bar”(横木、柵)と同語源である。しかし、綴りも意味もとても近い ”barricade”(バリケード、防柵)は “barrel”(樽)と同語源である。そして、”bar” と “barrel” の語源的つながりが不詳である以上、この2つの語源も違う可能性がある。これは驚きである。バリケードとバリア、無関係なのか?

barrier” の語源をたどると、中英語 “barrer” はアングロフレンチ語 “barrere” からの借入で、古フランス語 “barrière” に対応する。これは俗ラテン語 “*barrāria(m)” から発達しており、 “bar” と共通の語根である ”*barra”(横木、柵)に由来する。

一方の “barricade” はフランス語からの借入で、”barrique”(樽)に由来している。さらに遡ると俗ラテン語 “*barrica(m)” からの発達で、やはり樽を意味する。KDEEによれば、古くは樽に土や石を入れたものでバリケードを作ったことから来ているらしい。やはりこれにも “barrel” と同じく “bar” と関係する説はあるようだが、ここまで似ていても同根だと言えないというのは語源学の面白いところだ。

base¹, base², basis, bass

KDEEでは “base¹”「(身分の)低い、低音の」と “base²”「土台、基礎」がそれぞれ立項されている。同じ綴りで意味も近いが、語源的にはおそらく無関係である。

base¹” の語源をたどると中英語 “bas(e)” は古フランス語 “bas, basse”(低い)からの借入で、これは後期ラテン語 “bassum”(ずんぐりした)からの発達である。KDEEではこれ以上遡った語源は記載されておらず、調べてみても語源不詳なようだ。音楽で低音を表す “bass” は中英語 “bas” がイタリア語 “basso” の影響を受けて変化したもので、綴りは変わったが発音は “base” と同じままである。

一方 “base²” は、中英語 “bas(e)”, “basse” は古フランス語 “base” またはラテン語 “basem”, “basis” からの借入である。これらもギリシャ語 “básis”(ステップ、足)からの借入で、”bainein”(行く、歩む)から派生している。この ”bainein” は印欧語根 “gʷā-”, “gʷem-”(行く、来る)に由来する。ラテン語 “basis” は16世紀に再借入され、英語 “basis” になる。よって “base²” と “basis” は二重語である。

ということで、低音の “base¹”, “bass” と土台の “base²” は同語源とは言えなさそうだ。しかしKDEEによれば中英語期には混同された形跡もあったらしい。

BASIC

まさかKDEEに “BASIC” が立項されているとは。これはプログラミング言語のBASICのことである。1964年に登場した語ということで、”Beginner’s All-purpose Symbolic Instruction Code” の頭字語であることが書かれている。なぜこの語を収録することになったのだろうか。

basil, basilisk

basil”(バジル)の語源は “basilisk”(バシリスク、伝説上の爬虫動物)と同根である。

basil” は中英語 “basil(e)” が古フランス語 “basile” からの借入で、これも中世ラテン語 “basilicum” の借入であり、さらにこれもギリシャ語 “basilikòn”(王の)の借入である。”basilikòn” は “basileús”(王)からの派生で、その先の語源は不詳である。

一方の “basilisk” は中英語 “basilisk” がラテン語 “basiliscus”(トカゲの王)からの借入で、これもギリシャ語 “basiliskos”(王の指小形、小さな王)からの借入である。元の形は “basileús”(王)で、英語 ”basil” と合流する。ギリシャ語からラテン語への意味変化について、大プリニウスによればバシリスクの頭の斑点が王冠に似ていたらしいことと関連しているようだ。

KDEEでは、バジルの名前はラテン語 “basilisca”(バシリスクの毒を治すとされた想像上の草)からの連想で名付けられたのではないかと推測している。


今回はここまで。ようやく次で "ba-" シリーズが終わりそうだ。