英語語源辞典通読ノート A (as-assemble) #hel活

研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。今回はp70からp73まで。

余談ですが、今月から朝日カルチャーセンターで開講された堀田隆一先生の「語源辞典でたどる英語史」を受講しはじめました。一人で面白い語源を読んでいるだけでも楽しいですが、英語史の知識とセットで学べるとより楽しくなりそうです。


as¹

超基本語の "as" は古英語からある本来語だ。だが、その形はだいぶ変わっている。今の  "as" は中英語 "alswo", "also", "als(e)" の短縮形として派生した。これは古英語 "(e)alswā" から発達しており、英語 "also" と同根である。また、古英語 "alswā" は本来、"swā"(so)に "al-" 接頭辞がついた強意形である。KDEEの "also" の項を読むと、"also" と "as" は15世紀あたりまで区別があいまいだったらしい。

asbestos

「石綿、アスベスト」を意味する語。1387年以前には廃語義で「(伝説上の)いったん火がついたら消すことのできない石」という意味だったらしい。燃えない防火材とは真逆だ。
中英語 "a(s)bestus" はラテン語 "asbestos lapis"(燃えない石)からの借入である。ラテン語 "asbestos" もギリシャ語 "ásbestos" からの借入だが、"ásbestos" は "a-"(否定) と "sbestós"(消える)から成り、意味は「消えることがない」である。
なぜギリシャ語からラテン語に渡るときに意味が変わってしまったかというと、大プリニウスが不燃性の鉱物に対して間違って "asbestos" を用いてしまったのが原因らしい。ギリシャ語では「(火が)消えない」だったのに対して、プリニウスは「(燃えても)消えない」という解釈をしてしまったのだろうか。ちなみにギリシャ語で "ἀσβεστος"と言えば「石灰」を意味する。ややこしい歴史だ。

Asia

言われてみれば「アジア」の語源なんて考えたこともなかった。中英語 "Asia" はラテン語 "Asia" からの借入であり、これもギリシャ語 "Asiā" からの借入である。"Asiā" はアッカド語(古代メソポタミア)の "asū"(出る、(日が)昇る)に由来する。つまり、「日出ずる地」というのが原義となる。
このパターン多くないだろうか?以前にも "Anatolian"(アナトリア人)の語源が「日出ずる国」だった。自分たちから見て東側にある地域のことはとりあえず「日出ずる地」と呼んでおくのは人類の習性なのかもしれない。そして、日本は「日出ずる地」の中でもさらに「日出ずる国」というわけだ。

ask

"ask" の項の記述で目を引くのは綴りの混沌っぷりである。中英語には "aske(n)", "axe(n)", "akse(n)" とたくさんの異形があり、kとsの音が入れ替わっているものもある。古英語においても "āscian", "ācsian", "āhsian" と同様に揺れている。現代英語に残っている "ask" の形は、イギリス北部の方言だった "asken" が一般化して残ったらしい。方言のほうが定着するというのは興味深い。

assassin

「暗殺者」を意味する。語源はイタリア語 "assassino" あるいは 古フランス語 "assassin" からの借入で、これも中世ラテン語 "assassīnus" からの借入であり、そしてこれはアラビア語 "haššāšín"(ハシシを食する者たち)からの借入である。ハシシとは麻薬の一種である。
KDEEでは意味の成り立ちについて次のように補足されている。

◇本来レバノン山地に住む宗教・軍事団体を指した、彼らはとくに王侯・政府要人の暗殺を実行する前に、麻薬 (hashish)を飲んで精神を興奮状態にする習慣があったという.

p73 assassin

assay

Wikipediaによれば、「アッセイ(英: assay)は、標的実体(被測定物)の存在、量、または機能活性を定性的に評価または定量的に測定するための、臨床検査医学、鉱業、薬理学、環境生物学、および分子生物学における調査(分析)手順である」とのことだ。

そして、この単語の語源を遡ると、"examine"(試験する)との関係にたどり着く。
中英語 "assaie(n)", "as(s)eie(n)" はアングロフレンチ語 "assaer", "assaier" からの借入であり、古フランス語 "assaier", "essaier" に対応する。"essaier" は古フランス語 "essai" に由来している。これは英語 "essay" の語源であり、"assay" と "essay" は二重語である。
さらに、 "essai" は後期ラテン語 "exagium"、"*exagiāre" (量る)から派生しており、ラテン語 "exigere"(正確に量る)に対応している。"exigere" は "ex-"(強意)と "agere"(行う)から成り、英語 "exact" の語源でもある。
また、"exigere" から派生したラテン語 "exāmināre"(試験する)が古フランス語を経由して英語に入ったのが "examine" であり、"examination" や "exam" などに派生する。
"assay", "essay" がまさか "exact", "examine" と同根の語源であるというのは驚きだったのと、測定・測量にとって厳密さが重要であるということが "ex-" 部分の強意に込められていることを感じた。

assemble

KDEEでは「召集する、会合する」という語義が挙げられているが、現代では「組み立てる」という意味が一般的なのではないか。
中英語 "as(s)emble(n)" は古フランス語 "assembler" からの借入で、これは俗ラテン語 "*assimulāre" から発達している。"*assimulāre" は "as-"(ad-, 変化?)とラテン語 "simul"(共に)から成り、"simul" は英語 "similar" の語源でもある。現代の綴りからはわかりにくいが、意外なところと関連していた。


今回はここまで。次回も引き続き "as-" シリーズ。