英語語源辞典通読ノート B (bar-baritone) #hel活
研究社『英語語源辞典』(KDEE)を通読しながら見つけた語源の面白いネタをメモしています。Bから始まる単語、今回はp98からp99まで。見開き2ページだけですが "bar-" から始まる単語が多く、特にこのあたり複雑で面白いものだらけなので取り急ぎメモを吐き出します。
bar
“bar” は詳しい語源が不詳らしい。中英語 “barre” は古フランス語からの借入で、俗ラテン語 “*barra(m)” に由来するらしいが、それより前の語源がわかっていない。
“bar” には「横木、柵、障害」の意味と「酒場」の意味も馴染みがあるが、「法廷」という意味でも使われていたらしい。この意味変化についてKDEEによると、「法廷」は仕切りの柵からの、「酒場」はカウンターの横木から連想される換喩(メトニミー)であるという。つまり ”bar”があった場所が “bar” と呼ばれたということである。
barb¹, barber, beard
“barb¹”(修道女が着用する白い布、ヒゲ状のもの)というあまり馴染みのない単語の語源を読むと、”barber”(理髪師)と “beard”(あごひげ)が同語源であることがわかった。言われてみれば意味も綴りも近いのに気づいていなかった意外な同根語である。
“beard” は古英語でも同じ綴りの本来語で、ゲルマン祖語 “*barðaz” から発達しており、印欧語根 “*bhardhā-”(あごひげ)に由来する。印欧語根の ”bh”, “dh” の音が “b”, “d” に変化しており、グリムの法則が見て取れる。
同じ印欧語根に由来するラテン語 “barba”(あごひげ)から、中世ラテン語 “barbātōrem”(理髪師)に派生し、古フランス語 “barbeor” に発達している。これが中英語 “barbour” として借入されたのが英語 “barber” である。”barber” の解説によると、この語はもともと「理髪外科医」を意味しており、店頭にある “barber pole” の赤・白・青は動脈血・包帯・静脈血を表しているらしい。KDEEはうんちくまで紹介してくれるのがおもしろい。
Barbara, barbarian, barbarous, barbary
“barba-” から始まるこれらの語はすべて同じ語源を持っている。
この中で一番原義に近いのは “barbarous”「野蛮な、未開の」である。中英語 “barbarus” はラテン語を経由したギリシャ語 “bárbaros” の借入語である。”bárbaros” は英語 “babble”(ぺちゃくちゃ言う)と同語源で、印欧語根 “*baba-”(不明瞭な発音を表す擬音語)に由来している。ギリシャ語においては「言語が違う人(ギリシャ語を話さない異邦人)」という意味に転じ、そこから「野蛮な、未開の」という意味が生まれたらしい。
同じくギリシャ語 “bárbaros” から派生したラテン語 “barbarus” から、”barbarian”(バーバリ人、野蛮人)や、”barbary”(バーバリ地方)、”Barbara”(女性名)などの単語が生まれているようだ。”Barbara” は語源不詳ではあるようだが、一説では女性において異邦人であるということはエキゾチックであるという魅力があったのではないかということらしい。なので男性においては野蛮なイメージに通じたが、女性名としては好まれたということらしい。
bargain
“bargain”「値切る、取引」の語源は不明な点が多い。
動詞としては中英語 “bargaine(n)” は古フランス語 “bargai(g)nier” からの借入で、この語源は不詳であるがKDEEでは古フランク語 “*borganjan”(貸し借りする)からの借入とされている。“*borganjan” はゲルマン祖語 “*burʒ” に由来し、印欧語根 “*bhergh-”(隠す)にたどり着く。この印欧語根は英語 “bury”(埋葬する)の語源でもある。一度ゲルマン語派からラテン語派に借入されてまたゲルマン語派の英語に帰ってくるという出戻りの複雑な流れである。
なぜ「隠す」という意味から「貸し借り」、そして「値切り、割安」に転じていくのかはよくわからないが、英語での最も古い意味である「企て」というのがヒントになりそうな気はする。他の客とは違う価格で取引することは隠されるものだったのだろうか。
baritone
“baritone”「バリトン」はイタリア語 “baritono” からの借入で、これもギリシャ語 “barútonos” からの借入である。“barútonos” は “barús”(重い)と “tónos”(音)から成り、後ろの “tónos” は英語 “tone” の語源なのは明らかだが、前の “barús” のほうから意外な同根語につながった。
英語の接頭辞 “bary-” の項を読むと、“barús” の語源は印欧語根 “gʷerǝ-”(重い)である。この印欧語根から生まれているのが英語 “grave⁴” や “gravity” である。 つまり、”baritone” と “gravity” が同根語ということで、重低音と重力が語源でつながるという熱い展開が起きている。
“grave⁴” はフランス語 “grave” またはラテン語 “gravis” からの借入で、印欧語根 “*gʷerǝ-” に由来する。印欧語根の発音がおおむね残っているのが “grave”, “gravity” の方で、ギリシャ語のほうが “gʷ” の音から “b” の音に変わっている。この子音変化についてはKDEEの語源学解説 p1652 の音韻対照表のとおりである。
今回はここまで。"ba-" が全然終わりそうにないのでペースアップしていきたい。
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