3月18日

夜、実家に帰宅してすぐにベランダの洗濯物を取込にいくと、空いているハンガーがひとつ。やはり、と思うとともに一枚で済んでいたことに密かにほっとした。柵のずっと下をのぞきこんで芝や路上や木の枝を見渡すが、暗くてよく見えない。ごめんなさい、長いあいだありがとう、わたしのミナハレージャ。
ミナハレージャとは、身を投じるように暗闇のなかを舞った姿をおもい、たった今わたしがつけた名前。ミナハレージャは母が買ってくれたもので、レースがのびはじめていたが最初の柔らかい肌ざわりをずっと保っていた。他にないくらい、わたしの肌によく馴染んだ。
ずっと前には、シミーズがハンガーから消えていたことがあった。そのときは、暗澹たる気持ちで部屋に入ろうとするそのひかりの手前で、外壁とプランターの隙間にその姿を拾うことができたのだった。その認知の、生々しさを思い出す。
これまでに忽然と行方がわからなくなってしまった衣服の記憶が、「アミと私」の詩のなかの洗濯物のようにつづく。
春風が、連れ去った記憶を連れてくる。ミナハレージャは、夜の春風に舞った。暮らしはいつでも一歩外に出れば、風にさらされている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?