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多くの人の脳はノンバイナリーであるという研究結果の紹介

巷では女性脳や男性脳といった言葉を見聞きすることがあり、その脳の特性により女性や男性特有の得意不得意があることが、まことしやかに口にされています。
しかし得意不得意の話以前に、そもそも男女の脳には科学的に見ても本当に差があるのでしょうか?

その疑問に対して真向から立ち向かった研究者がいます。
イスラエルの神経科学者ダフナ・ジョエルさんです。
ジョエルさんはサイエンスの世界で研究をしている中で、科学者ですら、科学的な根拠なく脳に性差があると信じていることに気付きます。
その他にもたくさんのモヤモヤを抱える中、自身の専門分野である神経科学の知識と、MRIによる脳のイメージング技術を合わせて、脳の性差の研究に携わることとなりました。

そして沢山の男女の脳の性差を表にまとめた時、ジョエルさんは、人間の脳の多様さ象徴するようなモザイク模様を目にしました。

脳の灰白質かいはくしつに着目した解析

この研究では、脳の灰白質かいはくしつと白質の体積の差において、男女差が出やすいという研究結果を参考にしています。

人間の脳の分類の仕方として、灰白質かいはくしつと白質の領域に分ける考え方があります。

・灰白質は,脳の表面の神経細胞のいるところです
・白質は,灰白質の内側にあって神経細胞の連絡路(軸索)です
・大脳皮質は,脳の表面にある灰白質のことだけをさします,視床とかは含まれません

「脳外科医 澤村豊のホームページ」より
https://plaza.umin.ac.jp/sawamura/anatomys/grayandwhitematter/
黄色い矢印が灰白質(灰色に見える),赤い矢印が白質です(白く見える)

これまでの研究結果から、灰白質領域の中の特定の部位の体積で男女差が比較的多くみられるという知見が得られています。
そこで灰白質を116の領域に分け、各領域の体積を分析し、男女ごとの2つの表にまとめました。

女性的な部分を緑、男性的な部分を黄色で示す

ジョエルさんは、灰白質の体積によって、灰白質の女性的な領域を緑、男性的な部分を黄色で示しました。
脳全体に対する灰白質の体積は女性が大きい傾向、男性が小さい傾向にあります。

表において、体積スコアが女性的~中間~男性的と移り変わっていくにつれて、濃い緑~白~濃い黄色となる、複数段階のグラデーションで示されています。

男女の特徴が入り乱れたモザイク模様

ジョエルさんのこの解析手法は以下のようにまとめられました。

この表をご覧いただくと、全体としては左の女性の方が緑が多く、右側の男性の方が黄色い傾向があります。

表の見方としては、上から順番に1人目、2人目、左から順番に脳の1つ目領域、2つ目の領域という形で示されています。
ここで個々人を見ると、大多数の人々は、緑色、黄色、白色のどれか1つではないことが分かります。
より正確に言うならば、大多数の脳は、緑色と黄色と白色の領域からなるモザイクであるということです。

書籍「ジェンダーと脳 性別を超える脳の多様性」

上記の研究の紹介は書籍「ジェンダーと脳 性別を超える脳の多様性」を参考にし、原著論文「Sex beyond the genitalia: The human brain mosaic」も参照しながら執筆したものです。

書籍「ジェンダーと脳」の「未来の展望」の章では以下のような部分があります。

あらゆる特徴に応じて多様な人々を二つの類型に分けるのではなく、これらの多様性があることを喜ぼう。
現在、自身を伝統的な「女性」と「男性」以外の言葉で呼ぶ人は少数派だろうが、バイナリーなジェンダーの枠組みのない世界では、もっと大勢の人が自分たちを種々のジェンダー・カテゴリーで定義することだろう。
だが、それを私たちがジェンダー・カテゴリーと呼び続けるかどうかは分からない。

ダフナ・ジョエル&ルバ・ヴィハンスキ著「ジェンダーと脳 性別を超える脳の多様性」より

今回ご紹介した研究結果は、脳が二つの類型に分けられるもの(バイナリー)ではない、すなわちノンバイナリーであることを意味します。
それから自ずと導き出される結論として「多様な人々を二つの類型に分けるのではなく、これらの多様性があることを喜ぼう」という言葉が生まれてきたと考えられます。

脳と同じように、ジェンダーのあり方も千差万別であり、その呼び方、カテゴリーも同様に多様です。
上記の「もっと大勢の人が自分たちを種々のジェンダー・カテゴリーで定義することだろう」とは、人々が脳の多様性を理解することで、ジェンダーの多様性も理解し、様々なジェンダーのカテゴリーを用いる未来を予測していると言えます。

「私たちがジェンダー・カテゴリーと呼び続けるかどうかは分からない」とは、さらにその先の未来として、人々がジェンダーでカテゴライズされない未来を見据えていると考えらえます。
つまりそれは、多様なジェンダーのカテゴリーですら、人々をカテゴライズすることそのものに対して疑問を投げかけているとも言えます。

本記事で「ジェンダーと脳についてもっと知りたい!」と感じた方は、紹介した書籍や論文を是非ご覧ください。




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文責:Kazuki Fuziwara


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