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東京佼成ウインドオーケストラ 第165回定期演奏会 2024.6.8

東京佼成ウインドオーケストラ 第165回定期演奏会
於:なかのZERO 大ホール

ジョン・マッキー/オーロラの目覚め
ジョン・マッキー/ソプラノサックスとウインドアンサンブルのための協奏曲
ジョン・マッキー/翡翠
ジョン・マッキー/レッドライン・タンゴ
ジョン・マッキー/フローズン・カテドラル

Ec.
ジョン・マッキー/レット・ミー・ビー・フランク・ウィズ・ユー

S.Sax独奏:林田祐和
指揮:飯森範親

またもやオール《ジョン・マッキー》プログラムに飛びつく私。
今回はどうしてもナマで聴いてみたかった「フローズン・カテドラル」もあり、この日を待ち遠しくしておりました。
しかしなんで音響が最悪のなかのZEROなんだよ…。この名曲群をやるのに全然相応しくないホールじゃん。
と、ややテンション下がり気味だったのが、1曲目の「オーロラの目覚め」からその考えを覆されました。え、なんでなかのZEROなのにこんなクリアなサウンドでハーモニーもモヤモヤしないの?
若干響きすぎ感はあるものの、自分が知っているなかのZEROのお風呂音響とは違う。各楽器の音の輪郭、響きの芯がハッキリ聞こえてくるのは、さすがプロ中のプロの御業だと思いました。客席がフルに埋まってたせいもあるかな。

「オーロラの目覚め」については2月に聴きに行ったシエナの演奏会の記事でも書いたので詳細は割愛しますが、音楽のスケールでは佼成(以下、TKWO)が若干上回っていたような。前に座っていた老夫婦は演奏終了後「わー」と感嘆の声を上げて拍手していました。

「ソプラノサックスとウインドアンサンブルのための協奏曲」は2020年8月に、こちらもシエナの演奏会で聴いて以来2度目。その時のソロは住谷美帆さんで、その超絶テクとパワーに圧倒されましたが、今回の林田祐和さん(TKWOの現コンマス)もすごかった。
まず、この曲を書くにあたっての着想というのがジョン・マッキーの奥さんのアイデアで「ソプラノサックスという楽器を初めて見た宇宙人が、どんな動きをするのか研究してみる」というテーマになっていて、低音域から高音域、キーを閉じるパタパタ音まで駆使されている。プレリュード、フェルト、メタル、ウッド、フィナーレの5楽章形式。ソロはもちろんのこと、伴奏も超絶難しそうだ。フィナーレのゴリゴリの伴奏を制して咆哮するソプラノサックスは圧巻だった。前に座っていた老夫婦は演奏終了後「うわー」という感嘆の声を上げて拍手。客席全体からもこれ以上ない万雷の拍手。休憩に入ってもにわかに客席はどよめいていた。

客層は8割方若い学生さんでしたね。ジョン・マッキー人気を再確認。

「翡翠」もナマでは初めて聴くので楽しみにしてました。あの水辺に生息する小さな鳥の翡翠(カワセミ)ですが、テーマとしては翡翠の容姿の美しさ、とりわけその美しい羽の模様に太陽の光が反射して焔のように煌めくところを描いている。舞台袖に配置されたトランペットソロが幻想的な世界を作り上げる。
原題は「Kingfishers Catch Fire」。翡翠を英語でKingfisherと言うのもカッコいいが、Catch Fireももうそのまんまで良いのにと思う。ラストはド迫力のtuttiになる中、トランペットの細かい動きが象徴的に姿を見せながら終結していくところがナマで聴くと格段にカッコ良かった。

「レッドライン・タンゴ」も木管低音がバリクソ上手いとしびれる。ソプラノサックスソロは若い方が吹いていたが、黄昏のような渋みのある赤を思わせてこちらもカッコ良かった。

さて、一番のお目当ての「フローズン・カテドラル」、こちらは映像で観ると鍵盤打楽器もたくさん使っていて、他ではお目にかからないウォーターフォンも使っている。なんとなく聞こえるけど、実際ナマで聴いたらどんな風に聞こえるのか興味深々。
凍てつく氷の山を描いた曲ですから、グロッケンやビブラフォン等の金属楽器、ピアノが効果的に鳴らされます。あのコントラバスの弓でグロッケンやビブラフォンの鍵盤を擦る奏法は発明ですね。
そして冒頭のソロを受け持つのがバスフルート。静けさの中に漂う妖気にアルトフルートやコールアングレが重なっていく。いったん盛り上がったあとまた静けさを取り戻し、再びバスフルートのソロから同じように、今度は更なる盛り上がりへと広がっていく。
霧か雪煙に隠された大霊峰が、徐々に姿を見せ始め、最後はその全貌を露わにして私たちを圧倒する。そんな曲だ。
もともとアラスカのマッキンリー山(現在はデナリと呼ばれている)をテーマに書いた曲だが、ジョン・マッキーの奥さんの「偉大な山は登山家にとって崇高な巡礼地、教会のようなもの」という提案で「フローズン・カテドラル」というタイトルになった。ほとんどの曲のタイトルは奥さんの提案で命名されている。(奥さんすごくない?)
後半の盛り上がりにかけては、ハープとチェレスタ、そしてタンバリンが効果的に使われている。他の鍵盤打楽器も忙しい。木管楽器の細かい動きと金管楽器の咆哮。これほんと僅かな濁りもない透き通った大音響だからこそ圧倒的な氷の大自然が表現されるわけで、TKWOサウンドは半端なく素晴らしかった。
タンバリンやバスドラムのチューニングも完璧で(タンバリンがヘッドやシャンシャンを調節できるのか知らんが)、「フローズン・カテドラル」の後半はもう自分泣くかと(;_;)
どんなに強奏しても美しい音色でピッチもバランスも整っているのは、さすがプロ吹奏楽団のトップだと思った。そんなに大人数で演奏してるわけではないんですけどね。楽器の音色と鳴りが全然違う。

YouTubeにはこれといったベストな演奏は上がっていないのだけれど、曲の雰囲気を知ってもらうためにミシガン大の演奏を載せてみた。十分立派な演奏だけど、ウォーターフォンが見えないのが惜しい。ちなみにウォーターフォンは金属の突起がたくさんある楽器で、中には水が入っていて、中の水が揺れると響きもホワンホワン揺れる。こちらもコントラバスの弓で突起を擦って鳴らします。

TKWO様、これ以上望めないのではないかと思うぐらいの圧巻の演奏でした。ありがとうございました。TKWOの自分的評価さらに爆上がり。
オーケストラの演奏会を含めても、近年で最も感動的な演奏会のひとつになった。


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