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ばぁばになったママ。

ママにはな、
5人の子がいてるんや。
そのうちの一人は
生まれるホント少し前に
いきなりお星になってしもうた。
その弟妹4人を育てて、
一番苦労を掛けたんが、一番上の娘や。
下の子らの手を引いて歩き
私が仕事の時は、
私の代わりに買い物と簡単な食事を作ってくれたよ。
その中で、反抗期も4倍キツい部分はあったが、私の1番の腹心であり親友だった。
一人で何もかも決めて、
県下トップの高校に入り、
大好きな語学を極めて国公立大学に行った。
一番苦労をかけた。
一番我慢をさせた。
ごめんねをいう暇もなく成長し、
でも、一番大切に丁寧に育てた子だった。
知らない間に大きくなっていて
知らない間に進む道を遠く離れた街から
日本を支える部署を選んだ。
高校一年生の時までは、
実父とたまに電話をしたり、
メールを交換したり、
東京に行って、たくさん話をしていた。
しかし、15年前に突然連絡は途絶え
携帯も通じなくなった。
東京に行くからねと約束したその日も
約束の場所で
何時間待っても父親は来なかった。

娘は「サイテー!」といいながら
神戸にいる私に電話してきた。
笑い飛ばすフリをして泣いていた。
なんてことするんやと頭にきた。
私のことはもう関わらなくていい。
でも、君が生み出した生命への責任は
生命が終わるまで決して消えないんだ。
養育費が出せないくらい貧しいなら
それは目をつぶろう。
でも、娘の心を折ったのは許せない。
何を泣かせてくれてんねん。
妹も電話のそばで呆然としていた。
新幹線で帰宅した娘を駅まで迎えに行くと
神戸で買ったであろう、クッキーの箱が
そのまま残っていた。
私はええ、大人や。
しかし、娘の心を殴るな。
その一年後、父親の戸籍の附票を辿ると
長女と年もそこまで変わらない女性と
東京タワーに近い街の綺麗な箱で
もう既に結婚していた。
長女と次女はため息をついた。
「葬式に行く義理も感じんな」
「人やないわ」
二人は腹を抱えて笑った。
泣きたい気持ちを飛ばすような勢いだった。
二人のベビーアルバムの表紙で
抱いて微笑んでたのは、単なる時間の切り取りだったわけだ。
この世の普遍や永遠なんて私も信じない。
だが、永遠を信じさせるのが親だろうが。
東京タワーよりも遠い街に、
娘たちは就職し、嫁いで行った。

そして父親も一昨年に星となり、
二人の相続遺留分を放棄しろと
現在の妻の弁護士からレターパックがやってきた。
娘たちは笑い飛ばして
「要らんわ、そんな金自分で稼ぐし!」と。
娘たちを不憫には思ったが
娘たちの過去や、愛する夫の過去すら背負えない
稚ない発送元に業深さを感じた。
娘たちの涙の重さ、知ってますか?

長女から久方ぶりに連絡が来た。
この2年ほど帰省も出来ず、どうしてたんやアンタと聞いたら
「子供が生まれたよ」と。
可愛い、可愛い、長女によく似た息子だった。
ママ、ばぁばになったよ。
そんなん言われても実感あらへん。
弟妹たちも可愛いーと嬌声をあげた。
一番苦労した長女が
今度は暖かい家族を育んでいる。

ばぁば、かぁ。
私は娘と息子たちが宝物だけど
長女には初めての宝物ができた。
GWには皆んなで会いに行ってこよう。
おばーちゃんになったよ。

星になったキミも
おじいちゃんになりましたよ。
せめて幸せを祈ってやってな。
顔な、アンタそっくりやわ。

少しライムきつめのハイボール。
送られてきた写真を肴に
今日は1人飲み。