お前が悪い?
いらっしゃい。
あらま、どうしたのその顔は。
頬を叩かれたん?旦那に?
ちょっとおしぼりで冷やそか。
氷水で絞ったおしぼりを腫れた頬に当てる。
落ち着いてきたのか、彼女は口を開いた。
「あの…」
どないしたん?
「叩かれるのは私が悪いんです、お前が俺をイライラさせるんだ。て」
イライラって?
「彼が気分良い時間を私が壊すからなんです。
私が彼の気分に沿えない質問したり、何か失敗しちゃうから彼を怒らせてしまって」
だから叩かれるのは仕方ない、てこと?
「そうなんです。もっと頑張らなくちゃ」
頑張らなくちゃ、と言う側から彼女の頬に涙がこぼれる。
違うんやで。彼の機嫌を取るのは彼自身やで?
彼がいくらイライラしても、その気持ちを収めるのは彼自身の問題や。
そうやって自分の問題を他人の責任にすり替えてストレスを解消してるだけやねんで。
彼女は目を開いた。
ええか、なんでも他責にする人は自分と向き合う勇気のない人間なんや。
他責にすれば自分の問題から目が反らせる。
だから自分に従順な立場の人間に
自分の問題を丸投げすることによって
自分のバランスを取るんや。
卑怯やろ?
その卑怯さは彼の人としての狡さであり弱さなんや。
いつまで彼のサンドバッグでいたい?
彼女は唇を真一文字にして下を向いた。
人間は皆んな幸せになるためにいるんやで。
あんたの人生はあんたが主人公やで。
叩かれて、誰かの尻拭いをするために、
誰かの脇役でいるために生まれてきたんやない。
あんたは何にも悪くないんや。
悪いのは自分の弱さを転嫁する旦那やで!
なかなか人は変わらん。
自分を変えていく方が未来の幸せには早道や。
「悪くないんですね、わたし」
おしぼりでクシャクシャになった顔を拭き始めた。
「私は叩かれるために生まれてきてない。
叩かれてばかりいたら、幸せになれと産んでくれた両親に申し訳ないですよね」
拭き終わったおしぼりの下からのぞいたのは
涙顔の笑顔だった。
貴方の優しさは
いつか幸せにするべき人のために使うべきだよ。
あなたは 悪くない。