「おんな」vol.6 青海さん / 藤里一郎先生
終わりがあると分かって過ごした時間は苦痛で、悲しくもあり、だからこそ幸せだったのだと思う。
はじめから、分かっていたことだけれど、
それでも永遠があることを祈っていたし、
どうか時間が止まることを願ってその場から動けなくなっていくことを自分で感じた。
沈黙の中で互いの息遣いや外の風の音だけが聞こえて、音のない海にどんどん沈んでいくようだった。
苦しくて、いつか体がバラバラになってしまうかもしれないと思えば思うほど、
あなたと、あなたにかかる柔らかい光が美しくて私は泣いてしまう。
自分とあなたとの間に湿った風が吹いてきて、寂しさに置いていかれてしまうような気がしたけれど、きっとあなたが切り取った一瞬を見る度にいつだってそこへ帰っていけると思った。
ナボコフの、「本の中の「私」は、本の中では死なない」という言葉を思い出した。
全てのことに、終わりは必ずやってくるけれど、あの一日を何度も重ねて思い出すことで、ずっと生き続けて、存在を確かなものにしている。まだ乾き切らない瘡蓋に、海水が入り込んでヒリヒリするような痛みを覚える度に、きっと互いが強くなれると、信じている。