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Evening : グループベースのInterleaveファミリー

このゲームはInterleave(2022)から多大なる影響を受けています。紹介記事を読んでいない場合は先に読むことをお勧めします。


Eveningのルール

コンポーネント

  • 任意のサイズのヘックスグリッド正六角形ボード
    (サイズ5が良いと思います。)
    (ルール自体は任意の形状のボードで成立するのですが、正方形・正三角形グリッドではゲームが機能しません。)

  • 十分な量の白、黒の駒
    (マス数の半分よりやや多い程度。詳しくはよくわかりません。)

  • プレイヤー2人

用語

  • グループ
    同じ色の駒が隣接してひとつながりになっているとき、それらは一つのグループを形成しています。あるグループを形成している駒全体の数をそのグループのサイズと呼びます。

  • 最大グループカスケード
    グループを利用したゲームの勝利条件の一つで、以下のように判定します。

    1. 自色で最も大きいサイズのグループのサイズを比較します。
      サイズがより大きい色のプレイヤーが勝利します。

    2. 同数だった場合は次に大きいサイズのグループを比較します。
      (同じサイズの異なるグループがあった場合はそれを選びます。)

    3. 以降、決着がつくまでこの処理を繰り返します。自色のすべてのグループが処理に使われ、選ぶことのできるグループが無くなった場合は敗北となります。両方のプレイヤーが全てのグループを使い切った場合は(この条件において)引き分けとなります。

セットアップ

各プレイヤーが担当する色を決めます。
ここで、白のプレイヤーは"奇数"、黒のプレイヤーは"偶数"を担当します。
(これはバリアントでの勝利判定のみに利用されます。)

奇数のプレイヤーが任意の空きマスに白の駒を1個置き、ゲームを開始します。

ゲームプレイ

このゲームには手番はありません。プレイヤーは下記の条件を満たす空きマスに好きなタイミングで自色の駒を配置することができます。

ある空きマスにプレイヤーが駒を置くことができるかは以下のように決まります。

  • そのマスの隣に置かれている駒が属しているグループを全て確認し、それらに属している自色の駒の数と相手色の駒の数を数えます。(つまり、そのマスの周囲にあるグループのサイズの和を計算します。)
    相手色の駒の数のほうが多かった場合はそこに自色の駒を置くことができます。

  • もちろん、自色の駒が多かった場合は相手しかそこに置けません。
    同数であった場合はどちらのプレイヤーも置くことができません。

(配置可能なマスは駒を1個配置するたびに再計算されます。)
(複数の自色の駒を完全に同じタイミングで配置することはできません。)

ゲーム終了

両方のプレイヤーが(盤面が変化しない限り)駒を配置しないと決めた、あるいは配置できなくなったときにゲームが終了します。

最大グループカスケードによって勝者が決まります。
引き分けとなった場合、偶数(つまり黒)のプレイヤーが勝利します。

バリアント : Odd-Evenプロトコル

バリアントとして、勝利条件を以下のように変更しても構いません。

最大グループカスケードによって勝者が決まります。
引き分けとなった場合、片方の色(どちらを選んでも等しい)の駒の数を数えます。奇数個であった場合は奇数のプレイヤー、偶数個であった場合は偶数のプレイヤーが勝利します。

Odd-Evenプロトコルでの終局例。
どちらのプレイヤーもサイズ15-10-2のグループを持っていて
最大グループカスケードでは決着が付かないが、
合計が27と奇数であるので奇数(白)のプレイヤーが勝っている。
黒のプレイヤーには合法手が存在せず、この時点で白の勝利が決まる。

このゲームは何?

Interleaveファミリー

このゲームを紹介する最大の目的は、Interleaveの変種でプレイ感が異なるものを挙げることで、リラックスしたリアルタイムゲームが未だ検討の余地があるものであることを示すことです。
Interleaveの配置システムは特定のマスに配置された自色の駒と相手色の駒数(の差の符号)から配置可能性を決める、という形式で書かれています。Interleaveでは視線システムを用いて特定のマスを決定していますが、ここの選び方には任意性があるので、それを変えることで比較的容易にInterleaveの変種を得ることができます。
以降、そのような形式の配置システムを持つゲームを仮想的に「Interleaveファミリー」と呼ぶことにします。

最大グループゲームにおける配置制限

このゲームは最大グループカスケードのシステムに適合するような配置システムを検討した結果得られたものでもあります。

Eveningは大きいグループの成長により大きい「コスト」を持たせ、コストが大きいマスほど強い制限を課すような配置システムになっています。
以前書いたように、最大グループカスケードは単純な最大グループの成長を阻害するようなシステムを加えないとほとんどの場合ゲームとして成立しません。これの解決策を考えるにあたってそのような手を配置制限によって防いでしまうことは自然な発想と言えるでしょう。

また、最大グループゲームにおいて良い手といえるものは自身の最大グループの成長だけでなく、相手の最大グループを大きくならないように妨害するようなものも考えられます。
Eveningの配置システムをさらに言い換えると相手が駒を置いた時ほど大きいグループを生み出せるマス、つまり相手が置きたいようなマスに自身が置くことができる、ということを表しているのでこのような手はむしろ積極的に推奨するような配置システムであると言えます。(もっとも、相手が置きたいマスにはそもそも相手は着手できないのですが。)

つまり、Eveningは最大グループゲームの設計における自然な要請で成り立っていると感じられ、本質的にネガティブ(ミゼール的)な性質を持っているInterleaveファミリーの中でも比較的ポジティブなプレイ感を与えることができるのではないでしょうか。

ついでに、相手がグループを作ったとき、その周囲に十分な余白が存在する限り、そのグループを取り囲むように駒を配置することでサイズの等しいグループを作ることができます。
これによってゲームが早期に決着してしまうことが少なく、戦略的なゲームとなっています。(ボードが完全に埋まることも十分起こりえます。)

Odd-Evenプロトコル

Odd-Evenプロトコルは多くのInterleaveファミリーに適用できる可能性のあるバランス調整案の一つです。

ゲームの勝利条件が単純な駒の数を比べるものであった場合を考えてみましょう。
まず、初手で奇数のプレイヤーが駒を1個配置します。ここで奇数のプレイヤーは1-0で勝利条件を満たしているので配置を止めます。
次に負けている偶数のプレイヤーが駒を1個配置します。ここで駒数は1-1で引き分けになるのですが、Odd-Evenプロトコルを採用するとこの盤面は奇数のプレイヤーの勝利となります。したがって、偶数のプレイヤーはさらに駒を1個配置する必要があります。
さらに、負けている奇数のプレイヤーが駒を1個配置したときには2-2となっているので奇数のプレイヤーは追加で駒を配置する必要があります。
これを続けると初手から順番に奇-偶-偶-奇-奇-偶-偶-奇-奇-…のプレイヤーが配置することになります。これは、手番のあるゲームにおける12*プロトコルの挙動と一致しています!

したがって、Odd-EvenプロトコルはInterleaveファミリーにおける12*プロトコルの類似と言えるでしょう。

懸念点

判定の面倒さ

Interleaveファミリーは、どうしても自色の駒と相手色の駒両方を参照する必要があるので、Interleaveと同様に配置可能であるかを判定する際の手間があります。
特にEveningはゲームが進みグループが大きくなっていくにつれてマスに対して影響のある駒が増えていくので、グループのサイズを覚えていない場合は数えるのが面倒になります。
Odd-Evenプロトコルを採用した場合はさらに全てのグループのサイズを見る必要があり、特に面倒な部分になってしまっています。

ただし、上に書いたように、それらの値が全てグループのサイズのみに依存していて、最大グループカスケードゲームは結局グループのサイズをチェックする必要があることを考えると本質的な手間はそれほど変わっていないようにも思えます。

また、個人的には、視線システムを用いたInterleaveよりもどの駒を計上するのかはわかりやすく、面倒ではあるものの着手のミスは起こりにくくなっているような気がしました。

連結性

ルール上、どちらの駒にも接していない空きマスには配置することができません。つまり、着手できるのは既に置かれた駒の周囲だけで、すべての駒がひとつながりになっている状態でゲームが進行します。
なので、特定の盤面で着手可能なマスや盤面としてありうる配置はボードの広さに対してそれほど多くなく、ダイナミックさや展開の広さに欠けるゲームと言えるかもしれません。

個人的には、そのようなタイプのゲーム(AbandeinpHexion、さらに多くのボード無しゲームなど。もちろんオセロもこの性質を持ちます。)はそれほど嫌いではない、というかむしろ好みな部類と言えるのですが、あまり評価されない印象があります。

Odd-Evenプロトコル再考

Odd-Evenプロトコルは一見公平なように見え、実際ゲームプレイ中は有効に働くのですが、ある程度慣れると奇数が有利であるような印象があります。

基本的に、Interleaveファミリーは影響の少ないマスは良いポジションであると言えます。例えば、Eveningでは少ない角のマスは隣接する空きマスが少ないのでここを取ると比較的リスクが少ないと考えられます。
なので、初手で自由なマスに配置できる奇数のプレイヤーは安定して優位を取ることができてしまうかもしれません。

これを踏まえるとむしろ基本のルールのほうが初手の優位性に対するバランスが取られていると考えることもできます。

もっとも、配置制限はグループ単位で広がり、隣接するマス以外にも影響を与えるので角が実際に有利なポジションになっているかははっきりと言えるものではありません。

アクセス

Ludemeファイルです。
デフォルトの設定では負けているプレイヤーに手番を与えるシステムで、さらにOdd-Evenプロトコルが採用されています。

AIはUCTが安定しています。

関連ゲーム

Orochi

Orochi(2021)は通常の手番を持つゲームですが、おそらくEveningに影響を与えています。

Eveningは配置制限により駒の周囲に同色の駒をあまり多く配置することができません。Orochiはさらに厳しく、周囲に同色の駒を過半数(つまり4個以上)配置することが許されず、強制的にそれを解消することになります。これによって自色の駒を狭い範囲に固めることが難しくなっています。

また、ゲーム終了時のみですが空きマスに隣接しているグループのサイズに着目する点も共通しています。

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