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Interleaveというゲームを紹介します

これはアブストラクトゲーム Advent Calendar 2023の19日目の記事です

Interleaveは2022年にAlexander Brady氏が発表したゲームです。
BEST COMBINATORIAL 2-PLAYER GAME OF 2022候補に推薦されたものの、最終候補に残ることができなかったゲームなのですが、非常に興味深い性質を持っていて、私にとっては候補作の中で最も注目していたゲームでした。(Ai Aiの開発者であるStephen Tavener氏も注目していたようです。)
そこで、このゲームに紹介と、それに関連する考察をここにまとめていこうと思います。
(記事の内容は作者の実際の意図とは異なる場合があります。)


Interleaveのルール

コンポーネント

  • 任意のサイズのヘックスグリッド正六角形ボード
    (作者はサイズ4を推奨しているようですが、私はサイズ5が良いと思います。)

  • 十分な量の赤、黒の駒
    (ほとんどの場合マス数の半分あれば十分です。詳しくはよくわかりません。)

  • プレイヤー2人

用語

  • 視線
    ある駒から出発し、そこからグリッドに沿った直線状に、(出発点以外)空きマスのみを通って到達できる空きマス全体をその駒の視線と呼びます。
    ある空きマスがある駒の視線に属しているとき、その駒はそのマスを見ていると表現します。

  • グループ
    同じ色の駒が隣接してひとつながりになっているとき、それらは一つのグループを形成しています。あるグループを形成している駒全体の数をそのグループのサイズと呼びます。

  • 最大グループカスケード
    グループを利用したゲームの勝利条件の一つで、以下のように判定します。

    1. 自色で最も大きいサイズのグループのサイズを比較します。
      サイズがより大きい色のプレイヤーが勝利します。

    2. 同数だった場合は次に大きいサイズのグループを比較します。
      (同じサイズの異なるグループがあった場合はそれを選びます。)

    3. 以降、決着がつくまでこの処理を繰り返します。自色のすべてのグループが処理に使われ、選ぶことのできるグループが無くなった場合は敗北となります。両方のプレイヤーが全てのグループを使い切った場合は(この条件において)引き分けとなります。

セットアップ

まず、勝利条件を事前に決めます。標準のルールでは以下の2種類の選択肢があります。

  1. 配置した駒が多い色のプレイヤーの勝利

  2. 最大グループカスケード

ゲーム開始時にはパイルールを行います。具体的には以下のようにします。

  1. 片方のプレイヤーは自由な駒を自由な数(色で数が異なっていても構いません)、空きマスに(1マスにつき1個まで)自由に配置します。
    黒の駒は少なくとも1個配置しなければなりません。
    (この制限の意図はよくわかりませんでした。)

  2. もう片方のプレイヤーはそれを見て、どちらの色を自色とするか決めます。

ゲームプレイ

このゲームには手番はありません。プレイヤーは下記の条件を満たす空きマスに好きなタイミングで自色の駒を配置することができます。

ある空きマスにプレイヤーが駒を置くことができるかは以下のように決まります。

  • そのマスを見ている自色の駒の数と相手色の駒の数を数えます。
    相手色の駒の数のほうが多かった場合はそこに自色の駒を置くことができます。

  • もちろん、自色の駒が多かった場合は相手しかそこに置けません。
    同数であった場合はどちらのプレイヤーも置くことができません。

(配置可能なマスは駒を1個配置するたびに再計算されます。)
(ルールの意図と物理的な制約からほとんど明らかですが、複数の自色の駒を完全に同じタイミングで配置することはできない、とみなすべきでしょう。)

ゲーム終了

両方のプレイヤーが(盤面が変化しない限り)駒を配置しないと決めた、あるいは配置できなくなったときにゲームが終了します。

事前に決めた勝利条件によって勝者が決まります。
その条件で引き分けとなった場合は赤のプレイヤーが勝利します。

最大グループカスケードルールでの終局例。
赤はサイズ4のグループがあり、黒にはないので赤の勝利。
(黒には合法手が存在しないので赤がゲーム終了を決めることができる。)

このゲームは何?

「リラックスしたリアルタイムゲーム」

Alexander Brady氏は「リラックスしたリアルタイムゲーム」、つまりリアルタイムゲームでありながら時間的な制約や手先の器用さなどを必要としないようなものを作ることを目標としていました
そのようなゲームを考えるにあたって対処しなければいけない要素は競争、つまり相手よりも早く着手しなければいけないような状況です。ここでは、競争が必要となるような局面を考え、Interleaveがそれに対処できていることを示すことでリラックスしたリアルタイムゲームを実現できているであろうことを示します。

  • 取り合い
    まず考えるのはどちらのプレイヤーも特定のマスに置きたいと思っていて、先に置いたプレイヤーが有利になるような状況です。これに対処する方法の一つは言われてしまえば単純なもので、そもそも両方のプレイヤーが置くことのできるマスが任意の局面で存在しないようにしてしまうというものです。ルールから明らかなようにInterleaveはこれを満足しています。
    が、実はそれだけでは足りません。見かけ上どのマスもどちらかのプレイヤーしか置くことができないように見える盤面でも、自身が駒を配置することによって駒を置くことのできるマスが変わるような場合はその先の状況も考えなければいけません。
    Interleaveで空きマスに自色の駒を配置すると、他の空きマスはより多くの自色の駒に見られることになるか、あるいは影響がない(その駒から見えていないか、または別の自色の駒の視線を遮って、新しく配置した駒に再び見られる)かのどちらかしか起こりません。したがって、駒を配置することによって自身の着手可能なマスは増えることがないので着手可能なマスの取り合いは起こりえないことがわかります。

  • 妨害
    次に考えるのは自身の行動によって相手の可能な行動を減らすことができるので、相手よりも前にそのような手を打つような状況です。(取り合いもこれの一種と考えることもできますが。)
    上記の議論を踏まえるとこれは自動的に解決されています。自色の駒の配置によって自色の駒の視線は増えるか変化しなかったので、同様に相手が着手可能なマスは減ることがありません。したがって、妨害になるような手も存在しません。

これによってInterleaveは競争が起こらないことが確認できました。
(…はずです。おそらく証明になっていると思いますが、必勝や有限性判定などと違って定式化が難しく、確証がありません。)

手番の創発

前述の議論を考えると、無闇に自色の駒を配置することはあまり良い手ではありません。特に、勝利条件を既に満たしているにもかかわらず駒を追加で配置することは相手に選択肢を無用に与えることになり、基本的に悪手と言えます。したがって、積極的に手を打つ意味があるプレイヤーは現在負けている側ということになります。

つまり、プレイヤーが十分合理的であることを想定すればこのゲームは「現在負けているプレイヤーに手番を与え、逆転ができなくなったプレイヤーが最終的に敗北するゲーム」と等価であると言えます。

これはリアルタイムゲームというコンセプトを損なうものである、という意見も考えられますが、私はそれでも十分意義のあるゲームだと思っています。

  • 手番の判定
    まず、負けているプレイヤーに手番を与えるゲームというのはつまり、手番プレイヤーという情報が「どちらのプレイヤーが勝っているか」というボード上の駒の配置から得られる情報によって完全に決定されるという点が重要です。
    これにより、プレイ中に手番を忘れる、あるいは勘違いしてしまうという状況が起こらなくなり、また、相手が考えている間に席を外し、しばらくして戻ってきたというような状況でも自分が手を打つべきかどうかを容易に判断することができます。
    これは手番の記録などが十分になされない環境(物理的なコンポーネントで遊ぶ場合など)でプレイする際に有用な性質と言えるでしょう。

  • 例外の許容
    さらに、手番のないルールの方を採用する意義としては例外が許容される点があります。実際に遊んでみると、過剰な駒を配置する手はほとんどが悪手ではありますがそうでない場合もあることがわかります。よくある例としては他の駒に完全に囲まれていて配置しても周囲に視線が届かないようなマスには配置しても全く問題がありません。このような場合には相手の手番を待つ前にそこに配置してしまうことでテンポを損なうことなく手を進めることができるようになります。

懸念点

Interleaveの興味深い点を紹介しましたが、一方、やや粗削りな点もあるように感じました。そちらも軽く書いておきます。

視認性

視線を用いるゲームは大抵慣れるまで合法手などの把握が難しいのですが、Interleaveは両方の色の視線を見る必要があり、さらにその数を正確に数えないといけないので特に判断が難しいです。結果として、物理的な環境ではそれほど遊びやすくないゲームとなってしまっています。

バランス

基本的に負けているプレイヤーが着手するという性質上、タイブレークの条件は単に引き分けの際に行う判定ではなく手番を決定する条件の一部となります。駒をあまり置いていないプレイヤーのほうが有利であるため、引き分けの盤面で手番を渡すことのできる赤のプレイヤーは非常に有利になっています。
もっとも、例えばTumbleweed(2020)も(パイルールを行わない場合)先手が有利であることがほぼ明らかであるにも関わらずコミュニティによって適切な初期盤面が検討され、それで受け入れられているのであまり問題とされることはないのかもしれません。

展望

Interleaveというゲームと、それのもっとも重要な「リラックスしたリアルタイムゲーム」というコンセプトを紹介しました。
このコンセプトは他のゲームで利用できるシステムがほとんど通用せず、考察の余地が多く残されています。例えば、このシステムにおける12*プロトコルの類似を考えることはできるでしょうか?セットアップが不要、つまり空の盤面からゲームを開始できるルールはあるのでしょうか?もっと緩い配置制限で競争が生じないようにできる?その証明方法は?…知りたいことがたくさんあります。
この記事をきっかけに興味を持ってくれたら幸いです。

なお、類似の点を持つゲームを私は知りませんが、例えばスコアが手番に影響するゲームなどは既に存在していてもおかしくない気がしています。

あ、あと、分量的に省いてしまいましたが、ゲームプレイ自体も十分面白いです。遊んでみてください。

アクセス

Ai Aiに実装されています。(終局図はAi Aiを利用したもの)
Ai Aiはリアルタイムゲームを完全に実装することはできないようで、擬似的な手番(パスによって手番を渡す)を導入した形で実装されています。
また、最大グループカスケードルールのみが実装されています。

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