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【シャニマス】S.T.E.P.編コミュのお話~STEPコミュ5選~

はじめに


 こんにちは。普段は個別コミュの感想記事などを書いていますが今回はS.T.E.P.編コミュをテーマにしたいと思います。全員のSTEPコミュが揃ってからとも考えたのですが、単純に書きたい内容が溜まったために中途半端な時期での記事となりました(無計画)。STEPコミュの特性上、本記事には少々メタ的な話も含まれますが、よろしければお付き合いください。

STEPコミュについて


 STEPコミュについて、少し総論的な(?)内容を話します。STEPコミュはプロデュースシナリオとしては初の「過去編」です。WING編や、場合によってはWING編以前の時系列まで遡り、彼女らがアイドルを志した理由などが描かれます。他のプロデュースシナリオと比較してもやや短めの内容で、20-30分ほどで読み終わる方が多いのではないでしょうか。

 STEPコミュを構成する重要な要素は「情報」と「物語」であると考えます。一般的な話としてコンテンツの「過去編」に求められることは、明かされていなかった過去についての描写や、当時描かれたシーンの裏側といった「情報」だと思われます。多くの情報が詰まっていると過去編としての満足感があります。しかし、シャニマスが各アイドルをデザインした時点ではこのような過去編をやることは明確には決まっていなかったでしょうから、「過去の重要性」はアイドルによって異なります。過去に謎を残しているアイドル、過去の出来事が人格形成やアイドル志望に大きく関わっているアイドル、過去に多くの理由を求めないアイドル、様々なキャラクターがおり「情報」の詰め方にはそれぞれの難しさがあると思います。
 またSTEPコミュは単なる情報の羅列ではなく一つの物語としてまとめる難しさもあります。WING編で描かれた内容や、他のアイドルコミュで描かれた過去の描写と矛盾なく描く必要がありますし、それでいて新たな読み物としての面白さも求められます。
 多くの情報が得られて、お話としても面白い。「情報」の満足感と「物語」の満足感を両立しているSTEPコミュは非常に素晴らしいものだと私は考えています。

 前置きが長くなりましたが、これまでに実装されたSTEPコミュの中でも印象的だったものを順不同で5選として挙げさせて頂き、簡単に振り返りたいと思います。

風野灯織STEP


 比較的初期に実装されたSTEPコミュです。灯織は「アイドルが学園祭に来てそこで憧れを抱いた」という志望理由が以前から明かされており、過去編でそこを描くことは期待された通りでした。また、中学生時代の灯織が登場するなどアプローチの幅広さを見せたという意味でも満足度の高いコミュです。


 少し刺々しい灯織の再登場や、書類選考出願の経緯、家族との会話など灯織の情報としても充分なものですが、プロデューサー側の描写があったことも印象的です。283プロが本格始動する前に書類選考を行っているプロデューサーの姿もまた、一つの過去編と言えるでしょう。

 選考書類に目を通すプロデューサーは灯織が早生まれであることに言及します。何気ない一言ですが、この一言で中学3年生の彼女が14歳であることにわずかな違和感を抱く時期(おそらく冬?)に書類選考をしていたことが推察されます。灯織は秋に学園祭でアイドルと出会い、冬に書類選考に応募し、高校1年生の春から本格的にアイドル活動を開始したのでしょうか。我々の知る作中の灯織に繋げる意味でも上記の流れが自然なように思えます。何気ない早生まれのコメント一つにも情報としての厚みを感じられるのは何だか面白いですね。


 ラストは今の二人がそれぞれの過去についてお互いに話をするという流れで終わります。灯織側の過去とプロデューサー側の過去を描いたからこその終わり方が良いですね。
 

浅倉透STEP



 透はプロデューサーとの出会いという過去の出来事が極めて重要なアイドルですが、それゆえにその過去はWING本編でもしっかり描写されています。一見STEP編に向いているようで、難しさも感じるアイドルです。


 STEPコミュはプロデューサーとの「再会」に至るまでの彼女の日々や再会後の思いを丁寧に補足します。新たな情報が多く供給されるわけではありませんが、透が日常に感じている閉塞感や本当の世界への憧れなど、断片的に語られてきた彼女の考えが矛盾なく端的に纏められており、分かりやすく読みやすいお話になっていると思います。


 そして最後の会話シーン。再会からはそれなりに時間が経っていそうですが、(昔出会っていたことを透がまだ伝えていなさそうなので)時系列的には現在というよりはWING優勝前でしょうか。二人の出会いについて、プロデューサーはきっと今の二人だからこそ出会えたのだと、なんとも彼らしい意見を述べます。それに対する透の(いつ会っても)きっとあって思ったという回答がいじらしく、魅力的です。


 公園で二人の出会いについて話すというのはWING編のラストとも重なります。夜の公園で透が決意を伝えるシーンも美しいものでしたが、日中の公園でブランコに揺られながら空を見る透からは、晴れやかな印象を受けます。大空に羽ばたいた彼女の生き生きとした鼓動が伝わってくるようです。また、こうした晴れやかなラストシーンは同時実装された樋口円香STEPとの印象の違いなども意識されて作られていると思います。大崎姉妹のSTEPも同時実装でしたが、こうした同時実装というアプローチを活用したコミュの作り方も面白いですね。
 

西城樹里STEP


 よりメタ的な話になってしまいますが、樹里STEPは技術を感じるシナリオでした。樹里はバスケ部を辞めたことが過去の大きな出来事として他のコミュで触れられてきました。そのため樹里STEPではバスケ部時代が描かれることが予想されていましたが、実際にはバスケ部時代は回想シーンでの描写に留まり、代わりに「ストバス時代」が新たに描かれました。
 初見時はストバスの登場に少し驚きましたが、改めて考えると「バスケ部時代」を正面から描くことは難しかったのではないかと思います。一つの大きな理由が立ち絵です。バスケ部時代の樹里は髪を染める前でしょうから、黒髪の立ち絵が必要となります。実際これはSTEP編での登場を期待していた方もいらっしゃると思います。しかし、黒髪が彼女本来の姿として出てくることはコスト的な問題以上に、今の確立したイメージへの影響が大きいという問題が予想されます。黒髪の樹里が登場することで、我々の知る樹里の姿が「本来の姿でない」ような印象を与えてしまう危険性もあります。


 こうした問題への対処として用意されたのが「ストバス時代」だったのではないかと考えています。部活を辞めた後もストリートバスケをやっていた。これなら今ある樹里の姿のまま、バスケへの未練も描くことが出来ます。ストバス時代が加わることで、彼女のバスケへの強い思いを強調できますし、更にそこでも居場所を奪われていく絶望感が強調されます。結果的にシナリオとしての納得感が高まったと思います。


 樹里のスカウト後の話も丁寧に描写されています。アイドル活動を打ち込む価値のあるものと感じつつも、不安や迷いを抱く彼女の姿や、それに寄り添おうとするプロデューサーの姿が描かれます。樹里の独白が印象的に差し込まれ、スカウトからアイドル活動への決心までを巧みな心理描写で補足します。アイドルとして走りだした樹里は放クラのみんなやプロデューサーと共に遠くの景色を目指します。【意地っ張りサンセット】【奏・奏・綺・羅】『夢色ストライド、どこまでも』など、樹里はやはり走るシーンがとても似合いますね。

 

福丸小糸STEP


 直近のSTEPコミュですね。小糸STEPは難しいテーマを綺麗に纏めた良質なコミュであったと思います。小糸もまた過去編の需要が高いアイドルですが、一方でLanding Point編や【セピア色の孤独】などで小糸の背景(家族や中学生時代の話)は既にある程度明かされています。そうであるなら、小糸STEPの主題は「小糸がアイドルを志した理由」になるのがやはり妥当であるように思います。

 まず小糸STEPは幼少期の描写や幼馴染3人との会話、母との会話など小糸にまつわる多くの要素が詰まっており過去編としての満足感があります。そして、小糸がアイドルを志した理由について、暗くしすぎず美化しすぎず納得感のある描写がされていたと思います。小糸がアイドルを志願した理由は本コミュでも語られている通り「幼馴染の3人と(また)離れるのが怖かったから」です。

 これはSTEPコミュの実装前から分かっていたことではありますが、この理由は、小糸の中学時代の孤独を想起させることやアイドル活動に対して前向きに感じられないことなどから余り明るい理由には思えないものでした。しかしSTEPコミュはこの辺りを上手に補完しています。
 小糸は小糸なりにアイドル活動について真剣に考えていました。また幼馴染たちとの会話が小糸の背中を押します。勇気をもって一歩を踏み出した小糸に対してプロデューサーもまた寄り添う意思を伝えます。


 こうした描写による補完が、小糸のアイドル志願を暗くしすぎず、かつ妥当性のあるものにしていたと思います。小糸が走り出したことでノクチルが生まれます。小糸STEPはノクチルSTEP編のラストを飾るのにふさわしい内容であったと思います。

月岡恋鐘STEP


 極めて完成度の高いシナリオだと思います。恋鐘は実家の話、父親との対立、上京後のアイドル浪人生活など過去編に期待される要素が多くあるアイドルでした。そして恋鐘STEPはこれらの期待にすべて答え、更に期待以上のものを見せてくれます。幼少期の恋鐘、実家である定食屋の描写、学生時代の恋鐘、父親との衝突、上京の経緯、上京後の生活、そして恋鐘という名前の由来。限られたテキストの中でとにかく多くの情報が詰め込まれており過去編として十二分とも言える満足感が得られます。また、シナリオのラストでは「長崎で凱旋の仕事をする」というこれまた恋鐘のコミュに期待されていた要素を満たしてくれます。


 そして何より恋鐘STEPが魅力的なのは、これらの要素を含みつつも一つの物語として美しく纏まっている点です。親から子に受け継がれるものは名であり歌であり夢であり愛であり、そんな親子の物語が情緒豊かに描かれます。


 恋鐘の父は夢を追いかけ芸能界の大海原に漕ぎだしましたが、恋の岬に流れ着き、そこで船旅を終えます。彼の夢は終わってしまいましたが愛を得て、恋鐘という愛娘が生まれます。恋鐘の中にはそんな父の歌がずっと鳴り響いています。しかしそのうえで彼女は夢も愛も終わらせないのだと宣言します。前向きで強い意志を持つ彼女らしい決意でコミュは締めくくられます。


 恋鐘STEPで描かれたのは「夢を諦め愛を得た父」と「夢も愛も諦めない恋鐘」の対比でありますが、ここで「夢を追い愛を失った話」についても思い出されます。それはイベントシナリオ『アイムベリーベリーソーリー』です。恋鐘が演じた寡婦の夫は、妻との口論のすえ画家の夢のために海に飛び出し、帰らぬ人となりました。

『アイムベリーベリーソーリー』より

 夢を選んだ寡婦の夫は、愛を選んだ恋鐘の父とは対照的な存在ともいえます。更に言えば、歌手への憧れも夫も失ってしまった寡婦は「夢も愛も失った」存在であり、恋鐘の対極にいます。『アイムベリーベリーソーリー』の話までもが本当にSTEPコミュで意識されているかは不明ですが、恋鐘にまつわるコミュが想起されるのは面白いポイントです。

 恋鐘STEPは恋鐘のこれまでに関する多くの要素を詰め込んでおり、かつ一本筋の通った話に仕上がっている、素晴らしいシナリオでした。 

おわりに


 STEPコミュについて、印象的だったものをいくつか紹介させていただきました。今回の5人は元々過去に謎を残していたり、過去の出来事がアイドル志望理由に関わっていたりと、過去の重要性が比較的高いアイドルたちでした。彼女らを選んだのは私個人がSTEPコミュに過去編として「情報」を求めていることの現れですので、実際は人によって様々な評価尺度があるものだと思います。STEPコミュの中には「WING編の補完」に重きを置いて、WING編の裏側で起きていたアイドル本人の心理描写を丁寧に描いたものもあり、そうしたアプローチでの完成度の高いコミュもあります。きっとみなさんそれぞれにとっての素敵なコミュが見つかることと思います。STEPコミュは短く手軽に読めるシナリオですので、もし未読のコミュなどあればこれを機に読んでみるのはいかがでしょうか。

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