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バレエオタクが深掘りする!「青い鳥とフロリナ王女」

こんにちは。
このnoteはバレエオタクバレエ作品の深掘りをしていきます。

3大バレエの1つ「眠れる森の美女」は、童話をもとにしたバレエなので大人も子供も馴染みやすく、でも豪華で華やかで、みんな大好きな作品ですよね。
今回はそんなバレエ「眠れる森の美女」に登場する青い鳥(ブルーバードとも呼ばれますね)とフロリナ王女について頑張って調べてみたので、わかったことや私自身の考えを書いていきたいと思います!
(新たに気づいたことがあったら加筆修正していきます。)
初めてのVaやパ・ド・ドゥで踊られることも多い青い鳥とフロリナ王女の踊り、バレエ好きさんのお役に立てると嬉しいです☺︎

青い鳥とフロリナ王女はバレエ「眠れる森の美女」の中の第3幕に登場するキャラクターで、物語に直接関わるわけではなくオーロラ姫とデジレ王子の結婚式にかけつけた童話の登場人物として出演します。
青い鳥とフロリナ王女の他にも、長靴をはいた猫や赤ずきんちゃんといったキャラクターが登場しますね。

お姫様が糸車の針で指を刺して眠るという物語はグリム童話が有名かなと思いますが、バレエの「眠れる森の美女」はペローの童話をもとにしています。
そして3幕に登場する童話の登場人物たちも「ペローの童話の登場人物たち」とされていますが、この青い鳥とフロリナ王女はペローの童話ではなくマリー=カトリーヌ・ドーノワ(ドーノワ夫人、オーノワ夫人と呼ばれています)というフランスの女性作家の書いた「青い鳥」に登場するキャラクターです。
(長靴を履いた猫と一緒に踊っている白い猫もドーノワ夫人の物語のキャラクターと言われていますね。)
「青い鳥」というとメーテルリンクのチルチルとミチルが幸せの青い鳥を探しに行くというお話が有名ですが、ドーノワ夫人の「青い鳥」はそれとは別の物語です。

ドーノワ夫人(オーノワ夫人)
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典
「ドーノワ夫人」

童話「青い鳥」のあらすじ

それではまず「青い鳥」の物語を説明します。

あらすじ

昔、王妃を亡くした王様が、同じように夫を亡くした1人の女性と出会い再婚しました。
王様には美しく気立てのいいフロリーヌという美しい娘がおり、新しい王妃にはトリュイトンヌと呼ばれる娘がおりました。
王妃は自分の娘のトリュイトンヌよりも賢くて美しいフロリーヌのことが気に入りません。

ある日、王国にシャルマン王がやってきます。
トリュイトンヌをシャルマンと結婚させたい王妃は、トリュイトンヌを着飾らせ、フロリーヌにはドレスや宝石を盗み粗末な恰好をさせました。
それでもシャルマンは美しいフロリーヌを気に入ります。
怒った王妃はフロリーヌがシャルマンと会えないように、フロリーヌを塔に閉じ込めてしまいます。
そして王妃はトュイトンヌにフロリーヌのふりをさせて、暗闇の中でシャルマンと会わせます。
すっかりフロリーヌだと思い込んだシャルマンはトリュイトンヌに愛を誓い結婚の約束をしてしまいます。
騙されたと知ったシャルマンは結婚を拒みます。
しかしトリュイトンヌの名付け親である妖精マジラが、約束を守らないなら7年間罰を受けるようにとシャルマンを青い鳥に変えてしまいます。

青い鳥に変えられたシャルマンは塔に閉じ込められているフロリーヌを見つけ、2人は塔でこっそりと会うようになります。
フロリーヌが「空の色の青い鳥、今すぐここに飛んできて」と青い鳥を呼ぶと、青い鳥がフロリーヌのもとへ飛んでくるのです。
しかし怪しんだ王妃が罠を張り、青い鳥は怪我をしてしまいます。
倒れている青い鳥を、シャルマンのことを探していた友人の魔法使いが見つけて助け出しました。

青い鳥が現れなくなりフロリーヌは悲しみに暮れます。
しかししばらくしてフロリーヌの父親である王様が亡くなってしまいます。
すると国民たちがフロリーヌこそ女王にふさわしいと、フロリーヌの解放を求めてお城へと押しかけます。
王妃は国民たちが押し倒した扉の下敷きになって亡くなり、トリュイトンヌはマジラのもとへ逃げ出します。
そして自由になったフロリーヌは女王となりました。

一方、魔法使いはシャルマンを元の姿に戻すためにマジラにかけあいます。
マジラはシャルマンは元の姿に戻しますが、数か月トリュイトンヌをお城に住まわせ、その間にトリュイトンヌとの結婚を決意しなければシャルマンはまた青い鳥の姿に戻らなければならないと言います。

フロリーヌはシャルマンを探すため農家の娘に変装して旅に出ました。
そして旅の途中あるおばあさんと出会います。
そのおばあさんは実はマジラの姉妹の妖精で、シャルマンが元の姿に戻ることができたことを教えてくれ、フロリーヌに4つの卵をくれました。
フロリーヌは1つ目の卵を象牙の大きな丘を登るのに使い、2つ目の卵を使い魔法の鏡の谷を越えます。
そしてシャルマンの城にたどり着きますが、住民たちの間ではついにシャルマンとトリュイトンヌが結婚すると噂になっています。
しかしフロリーヌは農家の娘に変装しているので王であるシャルマンに近づくこともできません。
そこでフロリーヌはこだまの部屋に泊めてもらうことにします。
こだまの部屋とはシャルマンの部屋の下にある部屋で、その部屋で話すとどんなに小さなささやきでもシャルマンの部屋に聞こえるというのです。
フロリーヌはこだまの部屋でシャルマンにどうしてトリュイトンヌと結婚してしまうのかと泣きましたが、シャルマンは毎夜眠り薬を飲んで眠っているのでフロリーヌの声に気づきませんでした。
フロリーヌはは妖精にもらった卵を割り、中から出てきたネズミが引いた馬車に乗った手品をする人形や歌う鶏のパイと引き換えに、またこだまの部屋に泊まります。
シャルマンはフロリーヌの声を聞きこだまの部屋へ急ぎ、ようやく再会できた2人は喜びます。
そこへ魔法使いとフロリーヌに魔法の卵をくれた妖精が現れ、これからはマジラの魔法に対抗していけるから安心するように2人に伝えます。
トリュイトンヌは怒りましたが魔法使いと妖精に豚に変えられてしまいました。
そしてフロリーヌとシャルマンは結婚し幸せにくらしました。

童話「青い鳥」の話あれこれ

フロリーヌ姫の名前花の女神フローラFloraからきています。
シャルマン王のシャルマンcharmantはフランス語でチャーミングcharmingという意味です。
そしてトリュイトンヌさかなの鱒(マス)のトリュイットtruiteが由来です。
顔中がそばかすだらけで鱒のようだったからだそうです。。
童話だからこその名前ですねw
フロリーヌとの対比が際立ちますw

ちなみに、本によってはフロリーヌはフィオルデリーサやフィヨーデリサ、シャルマンはチャーミング、トリュイトンヌはトゥルリテラやチューリテラ、マジラはスーシオという名前になっています。
さらにトリュイトンヌが最後に変えられてしまったのも豚ではなくふくろうとなっているものもありました。

もっと詳しく物語を知りたいという方は日本語訳された本があるので読んでみてくださいね。
そんなに長い物語ではなく短編集として出版されているので「青い鳥」だけならすぐに読めてしまうと思います☺︎

↓「青い鳥」が読める本はこちら↓
*「ラング世界童話集8あかいろの童話集」偕成社 編訳:川端康成/野上彰
*「フランス妖精物語ロゼット姫」東洋文化社 著:オーノワ夫人 訳:上村くにこ
*「流刑の神々精霊物語」岩波文庫 著:ハインリヒ・ハイネ 訳:小沢俊夫

バレエに登場する青い鳥とフロリナ王女とは…

さて、バレエの青い鳥とフロリナ王女は、おわかりの通りフロリーヌ姫と青い鳥に変えられたシャルマン王です。
この青い鳥とフロリナ王女は先ほど書いた通り、物語にはかかわらず第3幕に登場するだけですが、この「眠れる森の美女」のなかでオーロラ姫とデジレ王子の他に唯一グラン・パ・ド・ドゥを踊る役柄です。
なのでバレエの中では主役のオーロラ姫とデジレ王子、そしてリラの精とカラボスといった物語に欠かせない主要キャラクターに次いで重要な役柄とされています。

初演の時にはチェケッティ・メソッドを確立し、アンナ・パヴロワやヴァツラフ・ニジンスキーなど様々なダンサーを指導したエンリコ・チェケッティが青い鳥を踊りました
フロリナ王女を踊ったのは当時イタリアのダンサーが活躍していたロシアで技巧派として知られていたロシアのダンサー、ヴァーヴァラ・ニキーチナ(ワルワーラ・ニキーチナ)です。
2人とも好評で嵐のような拍手を浴びたそうです。

青い鳥を踊ったエンリコ・チェケッティとフロリナ王女のヴァーヴァラ・ニキーチナ
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典
英語版"Enrico Cecchetti"

青い鳥について

青い鳥鳥ではありますが、シャルマン王という王様です。
そしてフロリナ王女の恋人でもあります。
鳥らしさを表現するための腕の動きや高い跳躍も必要ですが、王様なのでデジレ王子のような気品や、名前の意味がチャーミングなので魅力的であることフロリナ王女との恋人らしさを表現する力も必要ですね。
こう書くととても表現力の必要な役柄じゃないですか?
初演で青い鳥を踊ったチェケッティテクニックの優れたダンサーで、青い鳥のVaやコーダのブリゼ・ボーレのステップでセンセーションを起こしたそうです。
実はチェケッティは1人2役で青い鳥の他にカラボスも演じていて、しかも最初にオファーがあったのはカラボス役の方だったらしく、テクニックだけでなく表現力も兼ね備えていたんですね。

青い鳥のVaは、実はもともとシンデレラとフォーチューン王子のために作られた曲でした。
(これについては「青い鳥とフロリナ王女の振付」のところでまた書きますね!)
プティパがチャイコフスキーに書いた作曲指示書には「情熱に満ちたテンポ」の音楽と書かれていました。
今の青い鳥のVaを見慣れた私達には音楽も振付も、青い鳥が空を飛ぶ力強さをとてもよく表しているように感じますよね。

青い鳥のVaだと、私は以前日本バレエ協会の「眠れる森の美女」で秋元康臣さんが踊った青い鳥のVaが忘れられません。
最初のファイイ、アッサンブレの斜めのパートを右と左の両側行い、アントルシャシスを通常より長く行うという最長バージョンの振付で、それだけでもおお!と思うところですが、秋元さんの飛び上がるように高い伸びやかなジャンプがまさに青い鳥のようで、拍手が鳴り止まず次のフロリナ王女が出て来れないという事態になっていましたw
プリンシパルになるとほぼ主役しか踊らなくなるので、青い鳥のパ・ド・ドゥはソリストや若手ホープ時代が観られる貴重な役でもあるかもしれませんね。

フロリナ王女について

フロリナ王女は青い鳥と同じ青い衣装を着ることが多いですが、役柄としては人間のお姫様です。
バージョンによっては羽ばたくような振りが入っていたり、衣装に羽の飾りや模様が入っていることもありますが、人間のお姫様だということは忘れないでいたいですね。

ちなみに初めてフロリナ王女を鳥のように踊ったのはイギリスのアリシア・マルコワというダンサーだそうです。
アリシア・マルコワはバレエ・リュスにも参加したダンサーで、小さなパヴロワと呼ばれたそうです。
マルコワのフロリナ王女の映像は見つけられませんでしたが、写真はWikipediaに載っていました。
ジゼルや金平糖の精の映像はyoutubeに載っていましたが綺麗な方ですね。

アリシア・マルコワ フロリナ王女
ウィキペディア (Wikipedia): フリー百科事典
英語版"Alicia Markova"

マルコワは「マルコワ伝説」というテレビ映画の中で「飛ぶ青い鳥と飛ぶために青い鳥のマネをするフロリナの間には違いがある」と言ったそうです。
鳥を表現しようとするのと、飛びたいと思うフロリナ王女を表現しようとするのでは、ダンサーの気持ちも表現の仕方もきっと変わってきますもんね。
ロイヤルバレエの青い鳥のパ・ド・ドゥではフロリナ王女の振りに鳥のような動きが多く入っていて、逆にロシアの方のバレエ団やパリ・オペラ座では鳥のような動きはしないので、見比べるのも楽しいのではないでしょうか。

フロリナ王女と言えば、手を耳のそばに持ってくる特徴的なポーズもありますが、あのポーズは青い鳥の声を聴いています。
たまに海賊のポーズと混同されていますが、違うポーズなので気をつけてくださいね。

青い鳥とフロリナ王女の振付

振付のマリウス・プティパは元々青い鳥のグラン・パ・ド・ドゥを青い鳥とフロリナ王女、シンデレラ、フォーチューン王子のパ・ド・カトルとして考えていましたが、チェケッティの要望でパ・ド・ドゥに変更され、作曲のチャイコフスキーはシンデレラとフォーチューン王子のために新たに曲を作ったというエピソードがあります。
もともとパ・ド・カトルとして作曲された音楽ですが、プティパからチャイコフスキーにアダジオは「青い鳥の鳴き声が入っていること」という指示があったそうです。
まさに青い鳥と王女のかけ合いのような音楽で、チャイコフスキーの音楽の表現力の素晴らしさを感じますよね。

実はこの青い鳥のパ・ド・ドゥの振付はプティパではなくチェケッティが行ったという説があります。
この青い鳥の振付がプティパらしくないとか、当時男性ダンサーが独自のバリエーションを振り付けるのが一般的であったためという理由だそうです。
でも元バレエ協会理事の薄井憲二先生が著書の中で、

「このパ・ド・ドゥすべてが、プティパらしくなく、チェケッティの作ではないかという説もあるが、確証は何もない。(中略)このパ・ド・ドゥの踊りの流れは、一概にプティパらしくないとはいえない。」


薄井憲二."バレエ千一夜".新書館,1993-9-5,p121-122

と書かれていたので、チェケッティが振り付けたとはっきりわかっているわけでもないようですね。

プティパは青い鳥とフロリナ王女のパ・ド・ドゥを「青い鳥がフロリナ王女へ飛び方を教えて、塔から飛び出そうとする」という設定で振付したそうです。
物語の中で言うとフロリーヌが塔に閉じ込められ、青い鳥がフロリーヌの元へ通って2人で楽しいひと時を過ごしていた場面になりますよね。
アダジオの最初の場面はフロリナ王女が出てきてその後青い鳥がフロリナ王女のところまで来ますが、物語の中でフロリーヌが「空の色の青い鳥、今すぐここに飛んできて」と青い鳥を呼んでいたように、フロリナ王女が青い鳥を呼び、青い鳥がフロリナ王女のもとへ飛んでくるというのを表現しているようではないですか?
そしてアダジオの最後のリフトはフロリナ王女がついに空を飛べたかのようですよね。
でもそのアダジオの最後のポーズでは、フロリナ王女が片ひざをついて飛んでいる青い鳥を見上げるような構図になっているんですけどね。
コーダでは青い鳥もフロリナ王女も自由になって飛び去るように退場していきます。
ここでも青い鳥はグランジュテで飛び去りますがフロリナ王女はアラベスクだけして走って退場するので、フロリナ王女は鳥になったわけではないけれど2人は自由になった、ということでしょうか?
振付の意図を考えながら観ると、また違うおもしろさがありますね。

まとめ

「青い鳥」はフランスの女性作家ドーノワ夫人の童話
フロリナ王女花の女神のように美しいお姫様
青い鳥鳥に変えられたシャルマン(チャーミング)王
・バレエになっているのは、青い鳥に変えられたシャルマン王が塔に閉じ込められているフロリナ王女に会いに行き、2人の時間を過ごす場面。
プティパの設定では、青い鳥がフロリナ王女に飛び方を教え、塔から飛び出そうとしている


ここまで読んでいただきありがとうございます。
また新しくわかったことがあれば加筆修正していきたいと思います。
皆さまも「これは違うよ!」というところがあれば、ぜひ教えていただけるとありがたいです。
このnoteがバレエ好きな皆さんがバレエを踊る時、観る時の参考になると嬉しいです☺︎

参考資料

「ラング世界童話集8あかいろの童話集」偕成社 編訳:川端康成/野上彰
「music gallery25レニングラード・バレエ眠りの森の美女」音楽之友社 写真:山本成夫 文:石田種生・薄井憲二
「バレエ千一夜」新書館 著:薄井憲二
「永遠の白鳥の湖」新書館 著:森田稔
「チャイコフスキーのバレエ音楽」共同通信社 著:小倉重夫

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