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男体山のお釜が盃

 書き忘れたけど、前回ハング・グライダーで「スタ沈」して骨折した彼は、今はパラグライダーでまだまだ飛んでます。飽くなき空へのチャレンジは続く、と言えば聞こえは良いのですが、これも依存症と言えるかも。

 さて、酒とグライダーのネガティブな関係だけではなく、快哉を叫びたい気持ちになったフライト、つまりソアリングの後に飲んだ最高だったお酒、そのトップクラスの想い出です。

 今となっては、アルコールの存在が脳味噌から消滅しているので、いくら思い出しても飲みたい気持ちにはなりません。ゆえに、あの時、酒精が天使だったことを書き留めておきます。

 パラでもハングでもないグライダー、セールプレーンとも呼びますが、航空機としてのグライダーです。

ドイツ製DG300WL

 30年前に製造された機体ですが、現在でも十分な性能があります。滑空比(L/D)は42:1超過禁止速度(VNE)は250km/h、立派な航空機です。もちろんエンジンは搭載されていません。

 離陸はモーターグライダーに曳航されてテイクオフ、2,500ft(約800m)くらいで離脱して、ソアリングを始めます。上昇気流を探すのは、パラやハングと同じ道理です。

 パラ、ハングに比べれば、圧倒的な滑空性能ですから、より高く遠くへ飛んで行けますが、問題は着陸する場所です。空き地に緊急ランディングは不可能、事故になっちゃいます。

 幸いにして関東平野にはいくつもの滑空場があります。それらを「すり鉢」で繋いでソアリングするのですが、詳しい説明は省略します。

 緊急用の小型エンジンを内蔵したグライダーもありますが、全くエンジンのないピュア・グライダーでは、その日の気象条件に適合した飛行計画(フライトプラン)を立て、上昇気流は刻々と変化しますから、それに対応した判断と技術が要求されます。

 油断すれば着陸を余儀なくされますから、飛びながら空を観察して考えて飛ぶ、それが面白い。ゆえに長年飽きずにソアリングを続けているわけです。

 さて、航空機のグライダーですがオーストラリアなど、広大な平原があれば、どこでも不時着が可能なので、500㎞以上飛ぶのは難しいことではありません。

 しかし、関東平野となるとピュア・グライダーでは難易度が高いです。筑波山の麓にある河川敷の滑走路から離陸して、日光男体山を目指します。片道約80㎞。

 上昇気流を探し考えながらのソアリングです。気象条件が整う日は滅多になく、飛行中もコンディションは変化します。

 それでも何とか日光、男体山へ辿り付いたときは、グライダーのキャノピーの中で快哉を叫びたくなります。真下には美しいエメラルド色の中禅寺湖が見えます。

中禅寺湖

 高度は3,000mを超えます。血中酸素計を指に挟み、鼻カニューレから医療用酸素を吸入して、低酸素症に備えます。山岳波(wave)によって、高度は更に5,000mを超えます。

 外気温はマイナス25度。キャノピーの中は凍えますが、パラやハングに比べれば何とかしのげます。

戦場ヶ原

 雪に覆われた戦場ヶ原、日本海側は低い雪雲、さらに女峰山、白根山系と続いていますが、帰投しなくてはいけません。帰りも当然エンジンはないのです。

 上昇気流が強いと、同時に強烈な下降気流も発生しています。飛び立った滑空場に戻る方が緊張します。

 筑波山を目指して安全な滑空比をキープしながら、やっと戻って来れた時の安堵感。もちろん、途中には安全に着陸できる滑空場があるので博打ではありません。

 気象条件の良い日を選んで飛びに来ても、1年に数回あるか無いかのコンディションです。さらにそれに対応した操縦技術が求められます。脳味噌がエンジンなんです。

フライトログ

 着陸して機体の撤収も終わり、合宿所(アパートですが)戻るやいなや、缶ビールのプロトップをプシュ!っと開けて、喉仏を鳴らしながら飲むビールの旨さよ。

 酒飲みとしての真骨頂、本懐、てなもんですね。

 駄文では伝わらない特殊な趣味の世界ですが、お酒は確かに人生をより濃く演出してくれる魔法のツールです。ゆえに、文化として定着しているのでしょう。否定しません。

 しかし、同様にシラフでも得られる感動、それは確実に存在してます。

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