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[La'Mule]――『私が愛したヴィジュアル系』

〈2104文字〉

1998.04.04 Al『時ノ葬列』
1998.10.21 Al『inspire』
1999.03.25 Sg『Curse』
1999.09.22 Sg『結界~ガラス神経ト自我境界~』
2000.06.06 Sg『ナイフ』
2001.02.22 Al『CLIMAX』
2001.07.20 Sg『一日の孤独 百年の孤独』
2001.12.24 Sg『爛』
2002.02.22 Sg『gimmick』
2002.11.11 Sg『サイコダイヴ』
2002.12.12 Sg『BERLIN』

90年代後半のインディーズ業界では、事業名っぽい個人事務所はあっても、今ほど多く、バンドを束ねるレーベル(所属事務所)はありませんでした。
その中でも彼らは比較的大きめのレーベルに所属していて、当初より一頭地を抜いた存在だったので、このバンドは1stCD『時ノ葬列』をリリースしたときから有名でしたね(もちろん私もカラー仕様の初回盤を発売日に買いました)。

また、そうでなければ、同じ年にメジャー流通のフルアルバムなど出せるはずがないのですから。
でも、逆に考えてすごいことですよね。
CDデビューしたばかりのバンドが、半年後にはメジャー流通でフルアルバムを出すのですから。
この一事だけをとっても、当時の彼らの実力と人気とレーベルやレコード会社からの期待度がうかがえます。


今更ですが『メジャー流通』という言葉をご存じない方もおられるかもしれませんね。昔のインディーズ商品は専門店しか取り扱っていなかったのですが、この『メジャー流通』扱いになると、レコード会社が関わることで、全国のCDショップで購入できる仕組みだったのです。
発売日も遅れることなく、フライングゲットができたように思います。
メジャーデビューとは異なりますが、メジャーに上がる前段階といった位置づけでしたね(いま振り返れば、『メジャー流通』のまま活動を終えたバンドも数多くいましたが)。
近年は流通網が行き渡って、大半のインディーズCDも普通に『メジャー流通』の時代になりましたけど(インディーズの商品が様々なCDショップの通販サイトで買えますからね)。かえって、そのルートに乗せることを嫌い、直販を好むバンドもいるくらいです。


ロックやメタル、前衛的な印象のある後期やツタツタ系に通ずる最初期が好きという方もいらっしゃるでしょうが、私はこのメジャー流通時代の彼らが一番好きです。

少し脱線しますが、[D'elsquel]の漾さんデザインの『inspire』のジャケットは、個人的にはV系界の金字塔であるとさえ思っています。それくらい衝撃的でしたね、もちろんいい意味で(なによりそれが『メジャー流通』なのですから!)。多くのV系バンドがあのジャケットに影響を受けたと思います。

話を戻して、あくまで主観ですが、彼らは求められるだけ、結果を出せるバンドだったと思うのです(私は音源について言っています)。

もし、メジャーデビューできていれば、硬派でメロディアスな楽曲をもっと多く聴かせてくれた気がします。

その証跡の一つといってもいいと思うのですが、メジャー流通時代のプロモーションビデオ『inspire』『Curse』『Sterilization~自我境界~』が、またとてもかっこいいのです。
逸話として、『inspire』撮影時、撮影監督か制作スタッフかが、初めてPVを撮るとは思えないと、メンバーの姿勢や進取の気性を褒めていたという話を雑誌の記事で読んだ覚えがあります。
ど素人ながら、その映像美に『確かに』と思ったほどでした(笑)。

メジャーまで、本当にあと一歩だったように思います……。

ただ、ここから、ガラスの天井に行き当たったように、彼らにとっては不遇の時代に入ります。

2000年2月5日渋谷公会堂のライブがとある不測の事態で中止になることがありました(そのときの彼らの想いは『弐月伍日ノ泪』という曲に込められています)。

このあと、『ナイフ』を出した時期から、バンドの方向性が変わったのか、メジャー流通時代の華やかさから背を向けたような、陰りを持ったインディーズ時代に入ります。

このあたりを機に、どことなく[La'Mule]の特徴である『赤』というバンドカラーは、動脈である『鮮やかな赤』から、静脈である『黒い赤』へと変わった気がします。

その後、様々な重圧と戦ってきた彼らですが、そのような圧力はすべて、リリースした音源で跳ね返してきたように思います(『CLIMAX』のブックレットのスペシャルサンクスに『圧力』と載せるくらいですからね)。

耳に残る印象的な歌詞に、以下の言葉があります。
『わざとアンバランスに構築し 完成を恥に思うようになってしまう前に』(from『無秩序のプール』)
人の心理にうったえているというよりは、自戒を込めた言葉のようにも聞こえました。
この曲を収録した『BERLIN』が、彼らのラストシングルとなりました。

紆余曲折した厳しいバンド人生を歩んだのかもしれませんが、われわれV系ファンには、『これぞV系』といえる楽曲を数多く残してくれたバンドでした。

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