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貧しさ(窮地)から生まれる、創造性について。

行き場のない、絶望と葛藤。

それは人生において誰もが一度は経験する感情だと思います。

生まれながらに貧困家庭で育ち、学校もろくに通えず、選べる道など存在しない。そんな環境から生まれたHIP HOPのカルチャーに触れたのは、渡米した1988年のことでした。

Rapper達の放つどこか悲哀に満ちたブルースに打ちのめされ、時には抗争にまで発展する路地裏のブレイクダンサー達の生き方にネイバーフッド(地元)という感覚を発見し、「塗り替える」精神性をアートで表現したグラフィティアートにアメリカを感じ、そして、古着屋になった20代の僕は、ターンテーブルのみで過去のビートをサンプリングしながら魔法のように音楽を創り出していくDJ達の文化にどっぷりとはまっていくわけです。

8 Mile

2002年に公開された、デトロイト出身のエミネムが主演する自伝映画『8 Mile』は、そんな80年代〜90年代のHIP HOP文化に染まった僕らにとっては、まさに伝説的なムービーとなって、エミネムは一気に世界規模のスターダムへと駆け上がります。

背景は1995年。当時のデトロイトには「8マイル」と呼ばれる境界線があり、それは貧困層と富裕層、白人と黒人を分けるライン。貧しい白人層に住む主人公のジミー(自分自身を投影したエミネム)は飲んだくれの母と幼い妹と暮らしています。
彼の夢はいつかラップを武器に「8マイル」を超えること。しかし、黒人ラッパーたちにバカにされ舞台から降りた経験のあるジミーは家族のこと、自分が白人であることなどを考えて行き詰ります。
そんな時にアレックスという、「8マイル」の向こう側に夢を抱く女性と出会い、そして彼女の頼みで、ある日彼はシェルターという名のクラブでラップバトルに出場することになります。ジミーはすべての思いを舞台の上で曝け出し、「8マイル」の向こう側へ行く決心をする。

8 Mile 映画のストーリー

と、こういうストーリーです。
この映画の主題歌『8 Mile』の曲の一説にこんなリリックがあります。

”Time for me to just stand up and travel new land
Time for me to just take matters into may own hand
立ち上がって新しい旅に出る時がきた
自分自身の手で問題を解決すべき時が来た”

8 Mile Lyric

そして伝説のイントロのセリフ

”If you had one shot , or one opportunity
To seize everything you ever wanted in one moment.
Would you capture it, or just let it slip.
もしも人生たった1回のチャンスが訪れて全てが一瞬で手に入るとしたら、
君はそれを掴むか、それとも見逃すか…”

8 Mile Lyric

貧困と記憶、そして挑戦


自分ではどうにもできない幼年期の貧困と記憶は、やがて青年となった全ての者に「必ず人生に1回は大きなチャンスが来る」という事実を信じる希望を奪ってしまうことがあります。

もしくは、成功の定義(理想とする姿)が高い人は、次々に新たな挑戦を繰り返す”チャレンジ中毒”とも言えるような状態にあり、どれだけやっても自己肯定感を得られないという精神的な貧しさから永遠に抜け出せずにいるものです。

自暴自棄になって道を外してしまった方々もたくさん見てきました。一方で、苦しみを内なる燃料として燃やし、”成り上がって”いったエミネムのようなスターや芸術家を見るにつけ、果たして、貧しさというギリギリの状態から生まれるのは、なりふり構わない破壊的な自己主義か、もしくは爆発的な創造性か。そしてその二者択一をするのは、やはり最後には自分自身しかいないということです。

R&R Hall of Fameの舞台で、殿堂入りを果たした50歳になったエミネム。エミネムをステージに紹介したのは、彼の恩人とも言える存在Dr.Rre、そしてこれまでの30年間を振り返り、こう話しました。

”ヒップホップはもう、インナーシティの絶望的な環境にいる黒人の子どもたちだけの音楽ではなくなりました。すべての体つき、肌色の人々にとって、自分の苦闘を語るアートフォームになったんです。”

ステージパフォーマンスを終えたエミネムは、歴々のラッパーの名前を読み上げた後に「高校中退の俺にとってはヒップホップが学校で、そして彼らが俺の先生だった」と。数々の逆境、闘争、葛藤を突き抜けて、世界No.1のラッパーという地位を築きあげてたどり着いたLove&Unityの境地に、強烈なヒップホップの精神を感じて胸が震えました。

さて、コロナによって困難を極めたこの3年間。さんざん打ちのめされた音楽業界、観光産業、飲食、そして苦しんだ全ての者達にとって、ようやく夜明けの時を迎えました。

チャンスは常に心を押しつぶすような不安や恐怖と共にやってくるもの。
「それでも君はやるのか?」という問いに対して、自分自身を突き動かすものはあるか。本物の創造性とは、貧困(逆境)の中からこそ生まれるものなのです。

HIP HOPな精神性を宿し、僕自身も何歳になっても枯れないハングリーな老狼でありたいと思います。

全ての挑戦者に勇気を!

If you had one shot , or one opportunity.
To seize everything you ever wanted in one moment.
Would you capture it, or just let it slip.


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