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“キッチン感覚”のモノ創り。“オーダーメイド”でロングセラー商品を生み出す。【ユワキヤ醤油株式会社(前編)】

九州の醸造メーカーを中心に構成される「九州ビネガー会」。各社のものづくりへの思いを紹介するシリーズ『TSUNAGUレポート』の第2回。今回は大分県大分市竹中のユワキヤ醤油。伝統的な醤油・味噌作りをベースに「かぼすドレッシング」や「赤しそジュース」など、地元の農産物を使ったロングセラー商品を次々と生み出しています。5代目社長の門脇正幸さんに、前編・後編の2回で今までの歩みと、アイデアに富んだ商品作りについてお伺いしました。

大分で家業を継ぐことに

私が子どもの頃、昭和30年代は、とにかく右から左に売れた時代。3代目はアイデアマンで、軽飛行機で空からPRをしたり、金曜日の19時にTVCM(静止画像)を流したり。家業は活況でした。
 
その後、スーパーなど新しい業態の量販店が主流になっていくのですが、4代目は、既存の顧客で会社は回っていたため、ハードルの高い新しいニーズにチャレンジするという選択はしなかったようです。
 
その頃、私は大学を卒業し、東京の大手量販店に就職し、郊外型スーパーの新規出店(東京周辺)や全国初のPOS商品管理システムの導入などに携わっていました。そんなとき、家族の強い要請もあって実家の家業を継ぐことになりました。当時、醤油の全国生産量は過去最大になり、消費も活況で、家業はそれなりに回っていました(その後、醤油の生産量は減少の一途をたどり、当時の約半分になっています)。
 
しかし、私は「現状維持に未来はない」と確信していました。当時、醤油は特級・上級、標準の3つのカテゴリーに格付けされ、販売価格も指定されていました。経済が右肩上がりの時代ですから、みんなと同じことをすれば、それなりに商売が成立する時代だったのです。
 
一方で、東京の郊外で前年比20%を超える勢いで成長するスーパーの店頭で経験したのは、「ライフスタイル・消費の多様化」でした。どうせ苦労するなら、嫌なことにエネルギーを無駄使いするより、楽しいこと(やりがいのあること)にエネルギーを有効利用したい。つまり、将来性のある商いに「選択と集中」することにしたのです。


地域社会に必要とされる会社に

家業を継いで、やりたいことは山ほどありましたが、理想と現実の折り合いをつけることに悩みました。気持ちは焦りましたが、石の上にも3年と覚悟して、事業計画(3年計画)を立てました。スーパーで学んだ「現場主義・お客様の立場に立って考える」ということを実践して、麹作り、醤油・味噌の製造、配達までしっかり学びました。
 
同時に、大分県の業界内でも最初期だと思いますが、コンピューターを導入。MB容量のフロッピーディスク使用モデルを約700万円で購入しました。
4代目から「会社が潰れる」と反対されましたが、毎月約7万円の分割支払いのリースだから、「万一の時は、自分の給料から差し引いて下さい。それならいいだろ?」と説得しました。
 
そんな頃、先輩から「お前の仕事の“本質”は何か?」と聞かれたことがあったんです。醤油屋である前の“本質”とか、自分の存在意義とか、とにかく考えさせられて。自分なりにある結論にたどり着きました。
 
創業時の江戸時代、醤油製造は“農産加工業”でした。地元の農産物で商品を作り、地元の雇用を生み、地産外商で外貨を稼いで地域の社会に貢献する(必要とされる)。これが私の仕事の本質的だと。

そこで1985年頃から取り組み始めたのがOEM製造です。従来の格付による醤油製造は、行政やメーカー目線で成り立っていました。しかし、お客様目線のOEM(オーダーメイド)なら、1件のお客様に対してぴったりの製品を作ることが可能かなと。企業や農家さんと情報交換すればするほど、“大分県特産の農産物でこんな商品を作ってほしい”というニーズを、たくさん掘り起こすことができました。
 
もう一つ“大分県の郷土料理”の再発見にも興味がありました。「吉野の鶏めし」や「りゅうきゅう」「あつめし」など、地元の食材を使用した郷土料理を再発見し、ブラッシュアップして商品化する。そんな商品作りは楽しいし、やりがいもあります。
 
うちは量を追って、他社と比較される商売ではなくて、手間がかかるため大手メーカーさんが手を出していない分野で商売していこうと考えたんです。


“おみやげドレッシング”がロングセラーに

そんな思いから生まれたOEM商品の第一号が、「かぼすドレッシング」。大分市内で地元・飲食組合の展示会があって、その来場者(企業)から「おみやげで買ってもらえるようなドレッシングが欲しい」という要望をいただいたのです。そこで、即決で「できますよ」と。
 
実は、当時全国展開中のイタリアン・カフェを期間限定で賃借して昼は醤油屋、夜はカフェのマスターの副業をしていました。この店で使用していた「ゆずドレッシング」が常連客に大好評だったのです。そこで「ゆず」を「かぼす」に代えたら、美味しい「かぼすドレッシング」ができるだろうと閃いたんです。
 
また当時、レストラン・メイドの某ドレッシングが高価格で大人気でした。価値があれば高価格でも売れると信じ、化粧箱に入れて¥500で販売したいと考えて、“おみやげドレッシング”を作ったのです。
 
初回製造は2,000本でした。4代目から「こんなもの売れるわけがない。会社潰れるぞ」と言われたんです。だから、売れなかったら自分の給料から弁償すると説得して…。コンピューター導入時のデジャブ体験でした(笑)。
 
しかし、実は自分も内心不安でね。観光客になりきって別府の地獄めぐりバス・ツアーに参加したんです。必ずおみやげ屋には立ち寄りますからね。
そしたら、おみやげコーナーの隅っこに一応陳列している。“これは売れんわなー”と、不安MAXになった思い出があります。
 
ところが、それが、瞬く間に完売。今まで35 年以上返品なし。ひと月で数百万売り上げた月もあったほどです。業界に先駆けた「おみやげドレッシング」「ワンコイン価格」「大分県特産の『かぼす』風味」という明快さが受けたのでしょう。特に女性受けがとても良かったですね。
 
キッチン感覚の工場。3~5人のチームで出来るモノ創り。これがうちの得意分野です。“選択と集中”、ということですよね。その第1号となったのが、この「かぼすドレッシング」で、それをきっかけに、次々と商品を開発していったのです。
 
―前編 おわり―


(プロフィール)
門脇正幸 かどわき まさゆき
ユワキヤ醤油株式会社 代表取締役社長。1957年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、東京の大手量販店に勤務。1982年~家業を継ぎ、2003年社長に就任。
●ユワキヤ醤油㈱ホームページ
https://yuwakiya.net/  「ユワキヤ」で検索