見出し画像

300年来の伝統製法で作る「有機玄米くろ酢」をベースに、カジュアルな女性向けビネガー商品へと展開【株式会社庄分酢(前編)】

九州の醸造メーカーを中心に構成される「九州ビネガー会」。各社のものづくりへの思いを紹介するシリーズ『TSUNAGUレポート』の第4回。今回は福岡県大川市の庄分酢。創業300年の歴史を誇り、一子相伝の製法を大切に受け継いできた老舗企業。伝統製法で作る「有機玄米くろ酢」をベースにしながら、酢酸菌入りの「かすみくろ酢」、女性向けの「酢飲」、「ビネガーサイダー」シリーズなど、意欲的な商品を次々と発表し、話題を集めています。14代目社長の髙橋一精さんに、前編・後編の2回で酢の醸造にかける思い、商品作りについてお伺いしました。

お酢ではなく、微生物が働く環境を作る

庄分酢がある“榎津”という地域は、大川市でも古い町並みが残っている地域です。この辺は、古くから家具作りで栄えた土地で、職人さんが多く住み着いた町。築後川があり、そこに船が来て、荷下ろしし、市が開かれました。家内工業が始まったのもその時代で、お酒、お酢、醤油などの醸造店が近くにあって、当時の花形産業だったのではないかと思います。
 
うちは江戸時代初期に造り酒屋としてスタートし、1711年、四代清右衛門からお酢の商売を始めました。それ以来、300年来の伝統製法でお酢作りを続けているのが、庄分酢の大きな特徴です。

お酢作りに使う材料は米、水、麹のみです。米は熊本県の農家から仕入れた有機農法の玄米を使用。麹菌が玄米を糖化させ、酵母菌の作用でお酒となり、表面に張った酢酸菌の働きで、お酢へと変化していきます。その発酵作用を、1つの仕込み甕の中で完結させていくのです。
 
仕込みを行うのは、春と秋彼岸前後の年2回。この時期の温度が大切で、春、秋じゃないとうまくいきません。私たちは直接、お酢を作っているんじゃなくて、微生物が働きやすい環境を作るのが私たちの仕事なんです。
 
仕込み甕は、柿渋を塗った和紙で蓋をし、仕込みの年月日を明記します。仕込みをした職人自身が、責任を持って作業したことを示すために筆を使い、わざわざ漢数字で書き入れるのが伝統なんです。これにはセキュリティー上の意味合いもありました。
 
それは、誰かが蔵に忍び込み、仕込み甕を開けて、書き替えるのを防ぐためです。同じく、蓋をする際の紐の結び方も、3段階ずつ違う結び方にするようにと決まっているんです。これも一子相伝の製法の一つで、昔ながらの知恵ですね。こんな手の込んだ工夫も施しながら生み出されるのが「有機玄米くろ酢」なんです。


健康志向で古来製法の酢に再注目

私は長男なので、親戚や周囲の人間からも小さい頃からずっと言われていて、家業を継ぐのが当たり前、という感覚でした。昭和40年代、中学・高校時代からトラックに一緒に乗せられて配送や、仕込みの手伝いもしていました。
 
朝は5時頃起きて、ボイラーの火入れの手伝い。一段落したら、職人さんと一緒に朝ごはんを食べたりとか、責任もなかったので楽しかったんですよね。当時、社員は10数名でしたが、住み込みの職人さんもたくさんいらっしゃったんですよ。
 
当時は、瓶詰め、ラベル貼り、殺菌など、自社で商品作りのすべての工程を行っていたんですよ。殺菌も瓶を1本ずつ浸けて湯煎し、終わったら1本ずつ箱に戻すとか。ボイラーも当時のものは大きくて、暑くてね。それこそ蒸気機関車の中で作業しているみたいでした。そんなことを通じて、全体を学びました。といいますか、人が足りないので、やらんといかんというか(笑)。
 
その後、東京農大に進学しましたが1977年、大学4年のときに、親父が急に倒れて、実家に帰らなくてはならなくなったんです。そこから社員として、本格的に業務に加わることになったのです。不安もありましたが、その頃は幸いにして、景気のいい時代で商品の引き合いが絶えなかったんですよ。
 
それは、ヘルシーブームの波に乗って、当社の「有機玄米くろ酢」のようなオーガニックな製法に、注目が集まるようになっていたからなんです。「玄米くろ酢」だけに限らず、木桶を使って昔ながらの製法で作る「純米酢」などもです。

例えば、カレーにかけて食べるとおいしいんです。旨みの特徴である「五味」には相関関係があって、お酢は酸味があるだけではなくて、旨み・塩味をぐっと引き立たせる効果がある。カレーに入れるとマイルドになりながらも、コクが引き立つんですよ。
 
“飲む酢”の「酢飲」シリーズも、もう定番商品です。販売はもう10数年前からで、「柚子」「林檎」などをきっかけに、順々とラインナップを増やしていきました。ベースは木樽仕込みの「りんご酢」「ぶどう酢」などフルーツビネガーで、そこに果汁の甘さを加え、飲みやすく仕上げています。
 
試飲会などを開くと、お客様は通常のお酢の“すっぱい”イメージをお持ちなんですね。ですが飲んでいただくと、「飲みやすいですね」「まろやかですね」と喜んでいただけています。
 
パッケージデザインにもこだわりました。当社のネット通販で一番多く閲覧している層が、30代半ば~40代半ばの女性。そこをターゲットに、ボトルイメージ、ラベルもデザイナーに発注し、仕上げたものです。「酢飲」シリーズは、カテゴリー別にデザインを統一していく、きっかけにもなった商品なんです。

「ビネガーサイダー」は、「酢飲」が希釈して飲むタイプだったのに対し、より手軽にストレートで飲めるものをと開発しました。コンセプトは「1日分の理想的な酢の摂取量・約15ccが1本で摂れるサイダー」で、飲料会社とのコラボした商品です。
 
各地に“ご当地サイダー”がありますが、その中の1本として、雑誌『anan』を始め、いろいろな媒体に取り上げていただきました。他に、レストランなどの“ノンアルコールドリンク”として提供されたり、ホテルの客室用飲料に採用されたり、反響が大きい商品です。デザインもかわいいので、ギフト利用が多いのが特徴ですね。
 
―前編 おわりー


(プロフィール)
髙橋 一精 たかはし かずきよ
株式会社庄分酢 代表取締役社長。1954年生まれ。東京農業大学在学中の1977年帰郷し、家業を継ぐ。1997年代表取締役社長に就任。現在は息子の15代目・清太朗氏と共に会社運営・商品開発を行っている。
 
●(株)庄分酢ホームページ
https://shoubun.jp/ 庄分酢 検索

●ビネガーレストラン「時季のくら」
https://shoubun.jp/tokinokura/

●公式インスタグラム
https://www.instagram.com/shoubunsu/

●公式フェイスブック
https://www.facebook.com/shoubunsu/

●公式ツイッター
https://twitter.com/shoubunsu

●公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCALJ9me5FOLtYcvolp4YglQ