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ショートショート Vol.2

白。

それは、純白であればあるほど儚く、世界の混沌の中に、いとも簡単に溶けていく。

そんな、危なかしく、純粋で、愛しい色。

わたしには、あるときから人間という存在が、色で見えるようになった。

色で見えるようになった、というのは、正確に言うと、色でしか見えなくなったということである。

ある人は、鮮血のような赤が心臓の中心から溢れ、しかし末端は黒。まばらに深い緑が覗く。

またある人は、全体に茄子のような青みがかった紫が、霧のように立ち込める。左腕の辺りに強い原色のようなオレンジの光は、眩しく目を突き刺してくるほどにエネルギーを放つ。

そして、生まれたばかりの赤子は、白い。

これが何を表しているのか、わたしにはまだわかりきらない。

しかし、わたし自身の出産を機に訪れたこの変化は、確実に、人生を豊かにするものであった。

あまりにも無駄な情報が多すぎる世界から、色だけが残ったのだ。

いまのわたしには、人間の男や女、何歳かなど、正確にわからないのである。

ただ、可逆的な色のうごめきが、人間なのであろうと思っている。

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