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大好きな家をレスキューしたら、思い出たちに風が吹いた

(イラスト提供 @___ayaka.k


今、僕は長野県上田市に住んでいる。
東京から、このぐるりと山に囲まれた気持ちのよい街に移住し、気がつけば3年の月日が経っていた。

ここ、上田市での生活に大満足しているのだけど、来年の春、僕は北軽井沢に移り住む。

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(浅間山のふもとに位置している、北軽井沢)

北軽井沢は、その名に"軽井沢"がついていることからよく間違われるのだけど、住所は長野県ではなく群馬県。たしかに避暑地ではあるのだけど、浅間山のふもとにより近く、観光地というよりも自然に溢れた森のなか、と表現する方が似合う土地だ。

今住んでいる上田市からは、車で約1時間。
どうしてまた、しかも不便な森のなかへと引っ越すのか。

それは、ここ北軽井沢が、幼少期から通い慣れた思い出の土地だったからだ。


思い出の場所を、また自分がつくろう


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森の中に佇む小さな家に、毎年夏になると家族や親族と一緒に遊びに出かけていた。

定義としては「別荘」になると思うけれど、祖母がひと目見て気に入り購入したその家は、もともとは地元の農家の家。かやぶき屋根で、囲炉裏があり、別荘よりも「民家」と呼ぶ方がしっくりくるけれど、それでも大好きな家だった。

ただ、自分が大人になるにつれ訪れる頻度は下がり、何年も放置されたただの空き家になってしまっていた。時々、「潰れていないだろうか」と見に行くこともあったけれど、すっかり蝙蝠の住処になっており、昔のように寝泊りすることはできない状態。

それでも、どうしてもあの家のこと、家族で楽しむ北軽井沢の夏を忘れられず、「できることなら、自分が北軽井沢に住もう。家族がまた遊びに来れるように」と考えるようになった。


リノベーションではなく、新築へ


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(制作中(?)のかまくらに鎮座する自分)

そこから、仕事のことやら、(生々しい)住宅ローンのあれこれやら、詳細を書き連ねると本題にたどり着かないので省力するけども、無事に家を建てることになった。

本当は大好きだった家のリノベーションを検討していたけれど、築年数もだいぶ経っていて、新築を建てることに。その分、断熱もしっかり施し、寒い冬への準備も備える(なんと、真冬は-20°になることも!)


新しく家を建てる。となると、必然、今ある家を解体することになる。

たくさんの思い出が詰まった家を、解体する。

そうと決まった時から、僕は「ReBuilding Center JAPAN にお願いしよう」と決めていた。


ずっとずっと、頼みたかった「リビセン」に


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ReBuilding Center JAPAN、通称「リビセン」。

長野県諏訪市に拠点を構える彼らは、解体される家から家具や木材を"レスキュー"し、実店舗で販売している。

販売だけでなく、ゲストハウスやカフェのデザインも手がけており、古材をあしらった、それでいてモダンな空間は、かっこいいのに親しみが湧き上がってくる。大好きなんだよなぁ、リビセン。

リビセンは、何度もお店に訪れたことはあるけれど、「リビセンに家のレスキューをお願いする」なんて経験は、そうそうできるものじゃない。

諏訪から北軽井沢は、車で2時間。

遠すぎないかな……と恐る恐る顔見知りのリビセンメンバーに連絡したところ、「行くよー!」と快い返事!

そして、ついに解体当日、奥深い山の中までリビセンが来てくれた!


さようならの日


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左から、りょうこさん、ブライアンさん、中嶋さん。ブライアンさんはリビセンの「サポーター」で、レスキューの時に駆けつけてくれるボランティア(なんと、元傭兵らしい!)


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レスキューを始める前に、みんなで家への挨拶をしてくれた。これまでご苦労様でした、大切にレスキューします、と。自分や家族以外の人が、この家に愛を込めたまなざしを向けてくれる光景は、なんだか意外で、嬉しかった。


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今回リビセンにお願いしたのは、食器や家具といった「残置物」と「床板」のレスキュー。最終的な解体は、このあと別の解体業者さんが入る。

ふだんは、解体業者さんが作業時に困らないよう、「残置物」を先にレスキューし、「床板」のレスキューは後日、解体業者さんと日程を合わせて行うらしい。

ただ、今回は遠方の物件ということもあり、解体業者さんと事前に打ち合わせて、「残置物」と「床板」のレスキューをまとめてしてもらうことになった。ありがたい。


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床板をベッコンベッコン剥がしていくと、地面が露わになってきた。家の中に地面がある、というのはなんだか奇妙な光景。

もちろん僕も、ただ見ているだけでなく、一緒にベッコンベッコンと床板を剥がしていく。避暑地で涼しい北軽井沢だけど、作業に熱中するとじんわり体が汗ばんでいく。

長さのある古材、というの貴重なものだそう。乱暴に取り外すと割れてしまうので、慎重にバールを入れながら取り除いていった。


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みんなで協力すれば、あっという間に床板もこの通り。「掘り出し物です!」と言ってもらえたけれど、たしかに、一本の木からこれだけの長さの板を削り出すなんて、考えてみれば大変なこと。

「ただの床板」に価値を見出してくれる人たちがいるなんて、思いもしなかった。


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椅子やらテーブルやらも、いったんは外へ。なんだか森の中のお茶会みたいな様相だ。


「あの頃」をずっと保存してくれていた、長靴たち


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そして、この長靴たち。3つの長靴を見つけて、思わずぎゅうっと胸の中がきつく、熱くなってしまった。

僕は3兄弟の末っ子なのだけど、これは、兄弟それぞれの長靴だった。なかには、子供の字で名前が書かれている。当然、大きくなってしまった今の僕の足には入らない。

記憶の中にはないけれど、でも、この長靴に足を入れて、兄弟3人がここで遊んでいた日があったことを、僕は回想せざるをえなかった。


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レスキューが終わったら、最後は2トントラックへの詰め込み。想定外にレスキューできたものが多かったので、トラックの中はパンパンに。

「これはあそこに置こう」「ちょっとあれをずらして」と、パズルのように組み立てながら、ギッシリと品々を積んでいく。


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すべての作業が終わったら、家に対しての最後の挨拶。レスキューすることができました、ありがとうございました、と。

はじめから終わりまで、とても丁寧にレスキューしてもらいました。


解体は「家が死ぬこと」と思っていたけれど


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家を解体する。それは、たくさんの思い出が詰まった家をバラバラにして木材やゴミへと変換させる、「家の死」だと思っていた。

悲しいけれど、仕方のないこと。

でも、リビセンと一緒に作業していると、長年閉めっぱなしだった戸が開かれ、薄暗くカビくさかった家のなかに、光と風が入ってきた。

開かれた家のなかで、何人もの人間が元気よく活動している。その光景は、解体にも関わらず、僕は「ああ、家が生き返った」と思ってしまった。

触れるたびに思い出がよみがえる品々は、リビセンの手によって別の家族に受け継がれたり、僕の新居に再度お招きしたりと、新しい命をもってまた生活の中に溶け込んでいく。

だいぶすっきりした家の中で、爽やかな風と心地よい日差しを受けながら、僕はほんとうに嬉しかった。


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思い入れのある家を解体するということで、周りの知人からは「悲しくない?」と聞かれたけれど、僕は「嬉しい」という感情の方がとっても大きかった。

リノベーションではないけれど、またここで、大好きだった家が「生まれ直す」んだな、と。

またここで、木々に囲まれ爽やかな空気が流れるこの場所で、次の思い出がつくられていくことを、僕は予知するように確信することができた。


リビセンのみなさん、ほんとうにありがとうございました!

またこの場所に、新しい思い出をひとつひとつと重ねていきます。


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