【往復書簡】8通目(シモダヨウヘイ様)
拝啓 シモダヨウヘイ様
いたって健康な足腰が宝の持ち腐れと化しているくらい徒競走は苦手な急行です。
その時間と道具のお話を読んでいて思ったのですが、道具を使わずに走ってゴールするのと、道具の使いかたをシミュレーションして試してみて、本番でやっと使えるようになりゴールするのとではどちらが速いのでしょうね。どちらも「ゴールを決めたときがスタート」として。
人生一度きり、同じゴールテープは二つとないですから、新記録なんてものはあってないような気がいたします。
こんなことを言うと元も子もありませんが、「時間がない」を解消するための時間をどう捻出するかを考える時間が長引いてしまい、そもそもスタートラインに立つのをやめてゴールは見なかったフリをすることが私は多いです。すごくもったいない時間の過ごしかたですね。
それらを踏まえて考えた結果、やはり日ごろから探す遊びをして、思考力を鍛えておくことが肝要なのだなと改めて思いました。
ともあれ京都遠征お疲れさまでした。ふだんとは違う場所(といっても、シモダさんにしてみればそちらも慣れ親しんだ土地なのでしょうが)に足を運び、違う考えに触れるのはとてもよいことですね。思考の換気と言いましょうか。非常に大切なことだと思います。
意思疎通に関して、ご意見を述べていただきありがとうございます。
なるほど、自分の意思を伝える言葉は省略する……目からウロコでした。言われてみれば、たしかにそうですね。ということは、この往復書簡は理想的な意思疎通の形をとろうとしていると思ってよいのでしょうか。たとえ思惑のすれ違いが起きていたとしても、なるべく細かく言語化しようとしておりますし、なるべく正確に受けとめようとしておりますので。しようとしていても、できていなかったらひたすら謝罪するしかありませんが。
と、ここまで書いておりましたら、ひょっとすると自分が正確に伝えようとすることよりも、相手の発信を正確に受けとろうとすることのほうが難しい気がしてきました。相手の考え次第で、相手が発信する言葉そのものが間違ったものになっている場合もありますし(ウソをつかれた、などです)、発信を受けとったあと「さっきのあの話、どういうこと?」と真意を探ろうとすると、相手によってはイヤな顔をされますし。それこそ、シモダさんのおっしゃるように、どこまでいってもそれが気分か本当かなんてわかりようがありません。ある程度で納得するというのも、難しいですね。
銀ソーダさんの個展、すばらしかったですね。
抽象画のことがよくわからないというのは、具体的にはどういった点でしょうか。お返事を読むかぎりですと、シモダさんは抽象画のよい楽しみかたをされていると感じましたが。
もう一段階深いところに潜れたというのは、勉強というよりも、世界の解像度が一段階上がった、みたいな感覚だと私は認識しております。
疑問や違和感。フック、ということでしょうか。見る人を引っかける、私もそんな絵が描けるよう精進します。
質問へのご回答、ありがとうございます。
文章のやわらかさ、カタさのボーダーラインに気がけて本を手にとってみたいと思いました。年相応の男性というエッセンス、気になります。文章での服飾小物や色を把握しながら、じょうずにコーディネートしていきたい所存です。
そうそう。色といえば、ここからは私にとっての青はどのような色かというご質問に答えていこうと思います。
絵を描くという環境での返答であれば、扱いがむずかしい色です。似たような青色の絵の具でも、ひとつひとつ味わいが異なり、組み合わせる色によってはとたんに濁ってしまうからです。結局は青一色で塗ったほうがキレイになりやすいため、扱いに困っております。
それ以外での返答であれば、これはフワフワした答えになりますが、青から連想する海や空はそれぞれ深海や宇宙といった暗闇に続く色ですので、非常に怖い色だと感じます。
そういえば、ブックバーひつじがさんののれんも青ですね。青なのは何か理由があるのでしょうか。
そろそろ肌寒くなってくる季節ですので、冷やしすぎたビールでお腹を壊さないようお気をつけください。
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