【往復書簡】10通目(シモダヨウヘイ様)

拝啓 シモダヨウヘイ様

そういえば、シモダさんは猫アレルギーだと聞いたことがあるような、ないような。
「ずっと駄目だと思っていたものが実は思い過ごしで」、まったくそのとおりですね。小さいころ、オクラは絶対においしくないものだと決めつけていた私を見かねて母がオクラにポン酢をかけてくれた記憶が蘇りました。それからはオクラが好物です。しかしそういった食わず嫌いとアレルギーはまた別物のような気がいたしますので、克服しようと無理はなさらないでくださいね。

ゴールをどこに設定するか、なるほど、42.195kmだったら、それ以上だったら……目的との距離を把握してどの選択がベストなのか見定めていかなければなりませんね。おっしゃるとおり、時間をどう捻出するのか思考する力を鍛えていくことが必要です。あくまで最短を目指すのであれば。
あ、そうそう、前回いただいたお返事を受けとって初めて「リンカーンの斧」や「マラソンの距離が42.195kmに決められた理由」を知ることができました。ありがとうございます。物事について手っ取り早く知りたいのでネット検索したのですが、これは「お返事の意図を理解する」というゴールへ最短で到着したいがためにスマートフォンという道具を使いました。先述のふたつについて調べるために図書館へ行っていたとしたら、こうして書簡をつづるのはもう少しあとになった気がいたします。……お返事の意図、こういう汲みかたで大丈夫なのでしょうか。大丈夫だと思うので、話を先に進めます。

一歩外に出ると知らないことだらけなのは、どこにいても同じなのでしょうね。先日の展示中、お客さまから「不気味な絵を描く作家でも、性格まで不気味ということはない。作家は、それまでに得た知識、経験、感情を自分の中に溜めこみ、その中から表現にふさわしい情報をピックアップしているだけだ。だから不気味な・暗い作品を出す作家の中にも明るさはある」というような話を聞きました。その言葉がやけに印象的だったので、せっかくですのでここに記しておきます。ついでに「急行さんの絵も優しい雰囲気だけど、その裏側には『今日の昼食はワンコインで済ませよう』といった(切羽詰まった)考えもあるはずだし」と言われたことも、せっかくですので記させていただきます。なぜ言い当てられてしまったのでしょうか。人間の目って不思議ですね。
とにかく私がここで述べたいのは、場所だとか本だとかにも当然知らないことはありますが、他者の内面も知らないことだらけだな、ということです。それが良い・それで良いときもありますが、そうではないときもありますので、建物、歴史、本といった「動じないもの」よりも人間の内面といった「常に動いているもの」を知ることが本当に難しいです。こう、「ここまでの事柄は知っておく」「ここから先の事柄は知らないでおく」の線引きが難しいと言いますか。誰かと会うことは大切だけどそのぶん難しい行為だな、とつくづく思います。シモダさんはそういった難しさを感じることはありますか?

それから前回の質問へのご回答、ありがとうございました。「羊」だから群青なのですね。どうでもいいことを言うようですが、群青って、青色が群れているから、なんだか楽しい字面ですね。すみません、本当にどうでもよかったです。
「善」も羊が含まれていますね。こうして「善」を眺めてみると、シモダさんが何度も「近所で悪いことはできない」と口になさっていた光景がすぐに思い起こされます。
文字ってなんだか不思議で、よくわかりません。抽象画を前にしたシモダさんもこのような感情なのでしょうか。見れば見るほど奥深く、とくに漢字は「この漢字を作った人はどうしてこのパーツの組み合わせを当てはめたんだろう」と考えることが多々あります。

先日の展示、お越しいただき本当にありがとうございました。お時間を割いてくださったこと、嬉しく思います。自分にはまだまだ奥深さが足りないと実感しつつ、見てくださる方に適度な「わかる」「わからない」の線引きをしていただけるよう、今後の創作活動に精進してまいります。

今年も残すところ三ヶ月を切りましたね。今年の抱負は達成できましたか? 私は今年の抱負が何だったかすら忘れてしまいましたので、最近あらたに「何でもかんでも、準備をしっかりする」という目標を立てました。
シモダさんが有意義な三ヶ月を過ごせますようお祈りいたします。アレルギーのくしゃみなのか病気のくしゃみなのか見分けつつ、風邪にはくれぐれもお気をつけください。

こちらの選考、楽しまれてくださいね。

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