「銃・病原菌・鉄」

この本はシンプルで核心をついた問いからはじまる、壮大で学際的な現代社会の教養書である。

本の概要

この物語は、生物学者である作者がニューギニア人のヤリという人から受けた

あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。そいれはなぜだろうか?

というたった1つの問いに答えるために実施した、25年間の壮大な調査と研究の成果である。

作者のジャレド・ダイアモンド氏は、生物学、進化生物学、生物地理学を研究する医学部の教授で学際の才人とも呼ばれている。

その作者が進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学など、幅広い知見を縦横に駆使しながら、世界の5大陸の1万3,000年の人類の歴史をひも解き、解き明かしたものがこの「銃・病原菌・鉄」なのだ。

文庫版上下巻で800ページ以上にもわたるこの膨大で緻密な調査は、

歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない

と「地理的な要因」という結論を提示し、人種差別的な偏見に対して反論を投げかけたことで大きな反響を呼び、ピューリッツァ―賞を受賞している。

この本から考えたこと

冒頭のヤリの問いは抽象化すると「現代社会に存在する不均衡や格差に対して投げかけられたもの」と捉えられることもできる。
現代社会においても、人、家族、学校、企業、地域、国家...大小さまざまな単位の枠組みの中に不均衡や格差が存在している。
これらの不均衡や格差の要因の大部分も「地理的なもの」といえるのだろうか?

ダイアモンドは「地理的な要因」によって、「農作物や食料生産技術の伝播速度」に違いがもたらされるとしている。

文明の進歩のためには、必ずしもオリジナルに技術を発明する必要はなく「技術の伝播」が重要なのだ。これは企業経営にも当てはめることができる。

つまり、最も恐ろしいのは情報の欠如なのだ。そして国以下の単位では、どの情報に価値を感じ、どの技術を取り入れるかの判断のプロセスやセンスも重要だろう。

「銃・病原菌・鉄」の中では、中国とヨーロッパの歴史の進歩の違い(同じく環境に恵まれていたユーラシア大陸の中で、なぜヨーロッパが発展し、中国が遅れたのか)について触れられていたが、同じ情報に接したとしても意思決定のプロセスや仕組み、何に価値を見出すかの首長の判断がいかに重要かを考えるきっかけになった。

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