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痛みに関する脳の領域、ペインマトリックスについて 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜

こんにちは、理学療法士の赤羽です。

疼痛について解説するシリーズの第5回目です。

前回は疼痛の伝導路について解説しました (疼痛の伝導路を理解する 〜科学的根拠に基づく痛みの基礎〜 | 療法士活性化委員会 (lts-seminar.jp))。伝導路の解説で、外側系と内側系があり、それぞれが大脳まで情報を伝達することが分かりました。

痛みに関連する脳領域のことをペインマトリックスといいます。私は疼痛の伝導路が脳まで到達することは漠然と知っていましたが、どの脳領域がどのように関わっているのかはなんとなく複雑そうで、詳しく知りもしないのに苦手意識を持っていました。しかし、ペインマトリックスについて知ることで痛みの理解が深まります。痛みを訴える患者さんを相手にすることが多い人にとっては重要な知識です。

今回はそのペインマトリックスについて解説していきます。

伝導路のコラムで解説した通り、受容器からの情報は脊髄の上行路を通り、脳の広範な領域に伝達されます。

以前、「痛みの多面性について」 解説しました。そこで、痛みの多面性として「感覚的側面」「認知的側面」「情動的側面」があると書きました。これらにもペインマトリックスが関与しています。

痛みに関連する脳領域

*下記は一部です。細かくすればさらにいくつもあります。

  • 一次体性感覚野 (S1)

  • 二次体性感覚野 (S2)

  • 扁桃体 (Amy)

  • 島皮質 (IC)

  • 前帯状回 (ACC)

  • 頭頂連合野 (PAA)

  • 前頭前野 (PFC)

一次体性感覚野・二次体性感覚野

一次体性感覚野は外側系の経路が達する視床の腹側基底核群から投射されます。一次体性感覚野は感覚のホムンクルスがあることから、痛覚部位の識別や強度に関与しています。主に感覚的側面に関与します。

二次体性感覚野は、視床の後角群や外側系の経路が達する視床の腹側基底核群、内側系の髄板内核群から投射されます。痛みの感受性の変化に関与しています。感覚的側面や情動的側面に関与します。

扁桃体

扁桃体は、不快感、恐怖感、不安感、幸福感といった情動に関与します。そのため、情動的側面に関与します。

島皮質

島皮質は内側系からの痛覚情報が入力されます。島皮質は「自己」を認識し自覚するための神経生物学的基盤を形成します。自己を認識し、自己の情動に気づくことに関与しているため、情動的側面に関与します。

前帯状回

前帯状回は内側系からの痛覚情報が入力され、扁桃体や島皮質と連絡して、痛みと不安の情報処理に関わります。情動に関与し、痛みに対する反応や痛み刺激に対する予知と回避に関与します。

頭頂連合野

頭頂連合野は自覚的な痛みの認識に関与します。痛みの注意にも関与し、認知的側面に関与します。

前頭前野

前頭前野は外側部、内側部、眼窩野に分かれます。

  • 外側部:ワーキングメモリーや注意に関与し、認知的側面に関与します。

  • 内側部:情動の制御に関与し、相手の気持ちを察して共感することに関与します。

  • 眼窩野:情動の制御に関与し、認知機能と負の情動を結びつける領域です。

リハビリテーション職種がペインマトリックスを知る意義

疼痛は筋骨格系だけの要因で出現するわけではなく、脳の広範な領域が反応して出現しています。

それぞれ、感覚的側面、情動的側面、認知的側面に関与していることから、疼痛の感じ方や捉え方は人によって異なります。ペインマトリックスを知ることで、患者さんの個々の背景や心理状態を考慮した介入の重要性が分かります。身体機能面の問題以外にも注目する必要があり、個々の患者さんに合わせた介入プログラムの構築やコミュニケーションによる信頼関係の構築に役立ちます。

まとめ

今回はペインマトリックスについて解説しました。痛みの多面性で解説した感覚的側面、認知的側面、情動的側面の重要性がより理解できたのではないかと思います。今回のポイントを3つにまとめました。

  1. 痛みに関連する脳領域のことをペインマトリックスといい、様々な脳領域が関わっている。

  2. それぞれの脳領域が感覚的側面、認知的側面、情動的側面に関与している。

  3. 痛みは脳で感じ方や捉え方が変わるため、痛みの多面性を考慮した関わりが大切。

みなさんも自分なりのポイントをあげてみてください。

参考文献

  • Charalampos Labrakakis, The Role of the Insular Cortex in Pain, Int J Mol Sci. 2023 Mar; 24(6): 5736.

  • 金銅英二, 痛みの認知と情動, 顎咬合誌, 35(1.2):88-93, 2015

  • 半場道子, 慢性痛のサイエンス, 第2版, 医学書院, 2023, p29-41

  • 沖田実, ペインリハビリテーション入門, 三輪書店, 2020, p18-19

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大塚久
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