初期のプログラマに女性が多かったのは、むしろジェンダー分業が強かったことの表れ
久々にジェンダー論の話をちょっとしよう。最近、初期のプログラマ人口に男女差はなかった、という話が出ていた。
この疑問に対して、実は20世紀3Qに女性プログラマが多かったのは、むしろ性役割が今以上に強固だったから、と言う話を提示したい。
コンピュータの高級言語のうち、BASICやC言語が開発される前の本当に最初期を代表する言語に、FORTRAN、LISP、COBOLがある。
FORTRANはジョン・バッカスという男が開発した言語で、主に数値計算用に使われ、かなり長い間スパコンと言えばFORTRANという感じであった。
LISPはアルゴリズム工学の畑から出てきたもので、数式をどうやってコンピュータ上で表現するか?という問題に焦点が当たっている。ジョン・マッカーシーという男が設計しスティーブ・ラッセルという男が開発したもので、特にラッセルは"Spacewar!"という最初期のコンピューターゲームの作者でもあり、スペースオペラ戦争というテーマも含めて非常に"男性オタク"的である。
COBOLは「Common Business Oriented Language」(共通事務処理用言語)の接頭語で、最初から理系的専門教育を受けていない事務員向けの言語だった。当時の視点では高級そろばん、今の視点ではExcelのセル入力のような事務向けの用途が、コンピュータの開発当初からあったわけである。
そしてCOBOLの開発には、グレース・ホッパー、ジーン・サメット、ガートルード・ティアニーという3人の女性が関わっている。この言語だけ女性が多く関わっているのは、当時根強かった「単純事務は女性の仕事」というジェンダー観念を反映し、パンチカード式計算機の利用者同様、女性が多く登用されていた、ということの表れである(実際サメットはキーパンチャーとして働いていたことがあった)。初期のプログラマに女性が多いのは、性役割が弱かったのではなく、むしろ性役割が強固だったために起きた現象、というのが適切な理解だろう。
そして、女性プログラマが減ったという理解も実態を反映していない。より適切には、男性プログラマが女性以上に増えた、というのがプログラマの性比の偏りの実態である。時期的に言えば、半導体が発展し、家庭用や玩具用のコンピュータが普及し、コンピューターゲームに熱中する男が増えた時期とだいたい同じであり、性比が偏ったのは玩具の趣味に対するジェンダー差ではないか、というのが大方の見方である。
なお、COBOLの開発の一人であるサメットはアクチュアリーとしてキャリアを始めている。アクチュアリーという職はスーパースター効果の恩恵を受けてどんどん高給取りになっているが、今の欧米におけるアクチュアリーは数学に強い女性の花型職業という側面が強い。昔のジェンダー意識を引きずっているとは言え、それが花型職業になるのは歴史の綾と言うものだろう。