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米IT企業も否定的だった在宅勤務をポストコロナでも続けられるか

※当初「GAFAでも超えられなかった在宅勤務の壁をどう超えるか」というハッタリ要素の強いタイトルだったのですが、やはり問題ありということで改題しました。

新型コロナウイルス対策として、在宅勤務が一般的となってきた。在宅勤務に対しては、従業員側は好意的評価をすることが多い。例えば、従業員対象のアンケートでは、約半数が在宅勤務で仕事の効率が上がったと回答している。女性を中心に在宅勤務ができるか否かを今後の判断基準としたいという声も多い。また海外においても在宅勤務を続けたい人へのアドバイス記事などが出ている。概ね、「在宅でも仕事はできるじゃないか、勤怠管理にこだわる必要はない」というような意見が従業員側では多数派ではなかろうか。

一方で企業側としては従業員をオフィスに戻したいようで、日本では緊急事態宣言が解除されると在宅勤務の率は10ポイントほど落ちており、米国企業でもプロジェクトの進行が徐々に減速するなどの結果を見て長期的には在宅勤務中心にはできないと考えている所が多くある

企業が在宅勤務になるのと同様、大学も遠隔授業が基本となっている。こちらでは様相が変わり、サービスを受ける立場の大学生は新聞のインタビューで「勉強ができる環境にない」「オンラインと登校を学生が選べるようにしてほしい」「授業料を半額返してほしい」と、在宅授業では学べないという意見がピックアップされており、「在宅は効率が悪い」と思われているようだ。

このように、在宅勤務については働く側は効率的だ、上司や顧客など働かせる側は効率的ではないなど立場によって意見が違う。こういった在宅勤務の効率の問題について、過去の知見を少し掘り下げる。

批判を意に介さずオフィスに人を集める先進企業

私はブロガーとして元々格差問題を取り扱っていたが、その過程で、いわゆるGAFAとして知られるような米西海岸の"先進的IT企業"ですら在宅勤務に否定的であるという事情を調べたことがあった。

IT企業はその業務内容からしてリモート勤務化は(他業種に比べ)容易であるように思われるのだが(実際新型コロナ発生以降は在宅勤務に移行できている)、新型コロナ流行以前は在宅勤務は必ずしも進めておらず、むしろオフィスの快適性をあげて従業員がオフィスに定着するように促していた。

オフィスの快適性は「さすが先進的企業、すごいね!」という文脈で取り上げられることが多かったのだが、弊害を考えるとそうもいっていられない。"先進的IT企業"は賃金が高いが、カリフォルニアの住宅規制のために高賃金は地価高騰を招き、ベイエリアでは住宅が容易に確保できず、ホームレスの多さは数でも人口比でも全米ワースト1位となり、googleの社員送迎バスがデモの対象となったりAppleが批判を受けホームレス対策に資金を拠出することになった。従業員自身も悪影響を被っており、地価が飲食店やスーパーの価格、保育料などに転嫁された結果、文化的に最低限度の生活を維持するだけでも年約760万円かかり、年収1000万程度では子供を持つのをあきらめざるを得ないというほどであるという。

この問題は、他都市に移転したり、在宅勤務を増やせば解消する類のものであるはずで、そうなれば従業員も報酬を好きに使えて願ったりかなったりである。データセンターなどは積極的に安いところに移転させるので、通信技術がボトルネックだったことはあり得ないし、収益性に敏感な企業は当然コスト勘定はしたはずである。働きやすい職場アピールもできたはずで、相談すれば在宅に振り替えてもらう協力もしてもらえたようだ。

だが、基本的態度としてIT集積地域にオフィス構え、オフィスの快適性を高めて人を集めようとすることは変わらなかった。Amazonが本社機能の分離をした例もあるが、結局それも首都ワシントンの近郊に設置されることになり、東西海岸の大都市の高所得地域への集積を積み上げただけであった。

雑談で起こる業務改善

なぜ先進的で在宅勤務がしやすいはずの企業でも集積を好むかと言えば、コミュニケーション密度が上がり、それが生産性改善に寄与すると考えているからであろう。業務命令や社内教育として行われるフォーマルなコミュニケーションに加え、雑談に類するインフォーマルなコミュニケーションも重要である。

インフォーマルなコミュニケーションは、情報学やナレッジ・マネジメントの分野でwater cooler learningやcoffee break chatと呼ばれていたものである。例えばマレーシアのIT集積地でのある研究[1]では、最大で70%の業務上有効な知識交換が雑談で起こったかもしれないとしている。日本においても、コールセンターでの受注業務を対象とした研究で、業務としていない雑談が多くなると受注が増える関係を見出した研究[2]が知られており、それに影響を受けて雑談の効果に着目するマネージャーも増えているようだ。

日本では20年前であれば「飲ミュニケーション」や「重要なことは喫煙所で決まっている」といった文言でこれを体感していた方が多かったろう。今は飲酒も喫煙も抑制しているので、日本でもwater cooler learningやcoffee break chatが中心ではないかと思う。

こういったことが起きるのはある意味必然であり、例えばトラブル発生や新しいアイデアなど「定形外」の情報の交換なくして業務の改善は成り立たない。在宅勤務では成果物だけをやり取りすることになるので、同じ職場にいれば起こるであろうプロセスのノウハウ交換など細かな効率改善のための知識交換は起きにくくなる。学生の遠隔授業に対する不満もこれに類する部分はあり、授業の後分からなかったことを友達に聞いて確認する、といったインフォーマルな情報交換も学びの重要な一環だということだろう。現在の在宅勤務の増加でも、管理側は勤怠管理と同程度にコミュニケーション不全を不安要因として挙げている

もう少し一般化しよう。インフォーマルなコミュニケーションがない在宅勤務でも、すでに決まった定型の作業をこなしている限り、作業効率は落ちないだろう。これは労働者側からの主観である。一方で、定型から外れた気づき、すなわちトラブル発生の予兆や新アイデアなど「学び」の情報が交換されなくなり、やがて機能が低下する。これが管理側や顧客(学生)からの主観となるのであろう。

ただし、こういった報告にはいわゆる出版バイアスがあり、雑談の効果があった場合だけ話題に乗りやすい側面はある。googleの全社調査では私語厳禁なチームでも成果をあげており、チームの状態を変数化してパフォーマンスの間の相関を調べていったところ、腹を割って話せる「心理的安全性」が最も重要であった、というような結果になったそうである。

もっとも、前記調査を受けてgoogleが心理的安全性を高めるためにとった措置がインフォーマルな雑談会だったようなので、やはり学び、改善の部分においてインフォーマルなコミュニケーション手段はあるに越したことはない、となるだろう。

女性も在宅勤務の功罪に歯噛みしている

在宅勤務については、特に育児と仕事の両立を望む女性の間で支持が高く、「在宅勤務でも効率は変わらない」という主張は女性の側が発信するものが目立つ印象がある。

しかしながら、男女共同参画の文脈において、女性も職場のインフォーマルなコミュニケーションに着目してきた事例がある。例えば、女性が男性と同じポジジョンに入ったとしても、「飲ミュニケーション」や「重要なことは喫煙所で決まっている」の類の「男性クラブ」に参加しづらく(あるいはセクハラ回避のために意図的に排除され)、これにより成果を上げづらく不利になっている、という議論が行われていた。

The lack of formal and informal social networks, or not being a member of the “clubs” as men, results in the lack of recognition that often leads to advancement.
――Growe & Montgomery (1999)

現代であれば「男性クラブ」はランチョンミーティングや休憩所の会話に置き換えられ、性別の隔たりなくインフォーマルなコミュニケーションに参加できる配慮はされているだろうが、在宅勤務が増えてくるとそうもいっていられなくなる。

例えば在宅勤務を申請制にしたとすると、女性のほうが在宅勤務の希望が多いことから女性だけ在宅勤務率が上がることが予想されるが、在宅勤務になった結果インフォーマルなコミュニケーションが出来なくなり、徐々に業務のアップデートについていけなくなり、ジェンダーギャップが拡大するような結果をもたらす懸念がある。企業側でも男性に積極的に在宅勤務を取ら減る、在宅勤務日数を義務化する、コミュニケーション不全をケアする対策を入れるなどの対処が必要だろう。

在宅勤務推進派に必要なこと

今の時代は元から在宅勤務を希望していた人にはチャンスである。新型コロナウイルス対策は短期的には終わらない問題であり、政府や企業の側も在宅勤務に対応させる必要を感じているだろう。

一方で在宅勤務に対する不安もある。勤怠管理についてはある程度システムで対応していくことになるだろうが、コミュニケーション不全については別の手立てが必要になるだろう。インフォーマルなコミュニケーション――雑談的な新アイデア披露であれ、隣の机の人にプロセスのノウハウをちょっと聞いたりすることであれ――が果たしていた機能を代替する何かが必要になる。

あなたが在宅勤務推進派であるならば、中期的にはその点を考えなければならないだろう。さもなくば、やがて出社派にパフォーマンスを理由に駆逐される可能性が高い。



[1] Azudin, N., Ismail, M. N., & Taherali, Z. (2009). Knowledge sharing among workers: a study on their contribution through informal communication in Cyberjaya, Malaysia. Knowledge Management & E-Learning: An International Journal, 1(2), 139-162.

[2] 渡邊純一郎, 藤田真理奈, 矢野和男, 金坂秀雄, & 長谷川智之. (2013). コールセンタにおける職場の活発度が生産性に与える影響の定量評価. 情報処理学会論文誌, 54(4), 1470-1479.

[3] Growe, R., & Montgomery, P. (1999). Women and the leadership paradigm: Bridging the gender gap.

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