おばあちゃんの誕生日
1人で暮らすおばあちゃんが89歳になった。家族や親戚はみんな遠くにいて、今年は誰も当日にお祝いに来れない。私は仕事を終えて、スーパーでありったけのごちそうを買い込んで、おばあちゃんの家に行った。本当は作ってあげたかったけど、仕方ない。
89歳になってどんな気持ち?と聞くと、昼間にデイケアで誕生日を祝ってもらったらしいおばあちゃんは、「いくつになっても誕生日の歌を歌われるとうれしい」と言う。
テーブルいっぱいにお惣菜を並べた。中華ちまき、しゅうまい、ゴーヤーチャンプルー、キヌアサラダ、ドライトマト、オリーブのマリネ。腹ペコの私が買ってきたカラフルなお惣菜を、陶器のお皿に盛り付けた。
「こんなん売ってた?」「同じスーパーでも買う人が違うと、こうも変わるのか」と驚くおばあちゃん。いちいち気に入ってくれて、「これはどの売り場にあったん?」と聞いてくれる。
いろんな話をした。ひ孫の話、最近見たテレビの話、戦争の話。
空襲がほとんどなかった京都では空襲警報が鳴ってもあまり焦ることなく、女学生はみんな、防空壕に入る前にトイレに並んだそうだ。トイレの列に並ぶとペチャクチャお喋りが始まって先生に怒られた、とおばあちゃんがカカカと笑う。
食後に、買ってきたゼリーも食べて、おなかいっぱい。泊まってほしそうだったけど、後ろ髪引かれながら帰る。ごめんね、今度は泊まりに来るね。
来年、おばあちゃんは90歳になる。記念すべき卒寿。来年はスーパーのお惣菜なんかじゃなく、親戚みんなで集まっておいしいものを食べよう。みんなで盛大にバースデーソングを歌ってあげよう。
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