私の新刊『赤パンラプソディ』 今日発売!このけったいな小説についてのあれやこれや
今日は私の新刊『赤パンラプソディ』の発売日である。
新刊発売の日って、他の作家さんはどんなことを思うのだろう。聞いてみたい。
私はというと、普段と全く変わらない。ただ、朝から心臓がずっとバクバクして食欲もなく、「快、不快」のどちらかと問われたら「快」ではなく、漠然とした不安も感じているので、漢方薬を飲んだくらいだ。
この作品を書くきっかけは、担当編集者さんからの何気ない提案だった。
「桐衣さんを主人公にした小説、書いてみませんか? 桐衣家って、なんか面白いじゃないですか」
ん? 面白い? どこが?
作家の母と漫画家姉妹、サイコパスっぽい夫と可愛過ぎる猫。この家族のどこが面白いというのだろう。一年中ほとんど家を出ることがなく、ちまちまと仕事をしている地味な生活を小説にするなんて無茶だろう。家族の中にスパイもいなければ、鬼を滅する力がある人間もいない。
事件といったら、私が救急搬送されたとか、猫が胃腸炎になったとか、上の娘が食べ過ぎで脂肪肝になったとか、下の娘が座り過ぎでヘルニアになったとか、夫が年中おかしなことを言ってくるとか、そんな程度だ。
しかし、何がなんでも挑戦してみるしかないという切羽詰まった状況だった。この数年間、書いたものがことごとくボツになっているのである。
そこで、清水の舞台からぽ〜んと飛び降りる気持ちで、自分の恥を晒(さら)すことにした。
まず最初にタイトルに使われた「赤パン」にまつわる出来事を書いたのだ。
私は前期高齢者ではあるが、羞恥心のかけらくらいはまだ持っている。しかし、もうそんなことを言ってはいられない。またボツになるかもしれないのだ……。
前に虎、後ろにワニ、というような絶体絶命の状況で、「恥」というものを一旦タンスの引き出しの奥底にしまいこんで「救急搬送」の章を書いた。 そして、この章が担当さんを爆笑させ、その勢いに乗って、この小説はスタートしたのだった。
こうして、笑いあり涙ありのけったいな家族小説は、今日、無事に陽の目をみることになった。
「小説は、根も葉もある嘘八百」(佐藤春夫)
「小説は花も実もある絵空事」(柴田錬三郎)
どうかこの、根も葉もある嘘八百の中にある花と実を、少しでも楽しんでいただけますように!誰かを笑わせ、誰かを癒すことができますように!
私は漢方薬を飲みながら、祈っている。
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