見せパンと見せないパンツ

「こんなパンツはいてる女、絶対モテない」
 我が家の洗濯係(上の娘)が、私のパンツを洗濯機から取り出しながらこうぬかした。
「モテなくていいもん」
 私は即答した。大丈夫。「万が一」の時は、なんとかごまかす。っていうか、もう万が一はないから!
 元銀座の高級クラブ「姫」のママであり、直木賞作家であり、有名作詞家(よこはま・たそがれ等多数)でもあった山口洋子さんが、パンツについて書いていらしたのを覚えている。
 確か「年を取ってからは、綿のはき心地の良いパンツしかはかなくなった」というような内容だったと思う。
 その頃まだ若かった私は「はき心地の良いパンツ」というものは「恋の季節の終わり」と「若さの終わり」を象徴するものなのだと心に留めて、可愛らしいパンツを何枚か買った記憶がある。
 片手の中にすっぽり入る綺麗ではき心地の悪い小さなパンツをはかなくなってはやウン十年。股上が深く、鼠蹊部(そけいぶ)を締め付けず、はき心地の良い健康的な綿のパンツしか、私の下着入れには入っていない。
 しかし、人生の本番は、そういうパンツをはくようになってから始まるんじゃないだろうか。負け惜しみの減らず口に聞こえるかもしれないが、人生の醍醐味はここからだという気がする。
 身にまとったいろんな飾り物を捨てて、素に近い自分を見せることができるようになると、とても楽になるのだ。
 受験、就職、恋愛、結婚、姑小姑問題、子育て、子供の受験、子供の就職……人生の大きなことはもうだいたい終わっている。もう必死に戦わなくていい。競争しなくてもいい。
 私は年を重ねるにつれて、どんどん「年齢」にとらわれなくなった。まわりも少々のことは大目に見てくれる。自由になったのだ。
「徹子の部屋」でYOUさんがこんなことを言ってらした。
「還暦を迎えて四十代五十代より楽になった。昔は邪悪な欲があって、この方とどうにかなろうとか野心があった。こいつをどうにか手中に収めようとかあったけど、今は男女でも友達っぽく付き合える」
 わかる〜! と私は手を叩いた。年を取れば、異性とも親友になれる。ややこしいことがなくなって、同性の友人のような関係を築くことができるのだ。
 そしてファッションに関しても、若い頃と違って流行や他人の意見などまったく気にしなくなった。
 SNSなどで「三十才以上の人がこういう服を着るのはイタい」などと言う人がいるが、まったく「余計なお世話」である。
 好きな服を着る。好きな髪色にする。好きな靴をはく。好きなメイクをする。ちっともイタくなんかない。
 だから私は今日も、娘達のクローゼットから拝借した素敵なワンピースを着てお出かけするのだ。
 そしてこの素敵なワンピースの下にはくのは「し○むら」で買った、ゆるゆるのパンツ。
 娘になんと言われようとも、ずっとこれでいく。だってもう恋愛も結婚もしなくていいんだもの!
 

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