マイナス×マイナスがプラスになるのはなぜか
現役の東大・京大・東北大生が「"身近な事象"と"教養"」をテーマに、一部の人には「学問」として敬遠されてしまう「教養」をわかりやすくまとめています。
今日のテーマは、数学です!
1.マイナス×マイナスという計算
中学1年生の初めのころ、小学校の算数から数学になった授業で、プラスの数に加えてマイナスの数というものを学び、その計算について学んだことを覚えているでしょうか。すでにあの頃から、数学がよくわからなかったという方もいるかもしれません。
そしてその授業の中で、『マイナスのついた数とマイナスのついた数を掛け算するとプラスの数になる』と習ってきたことを覚えているでしょうか。
たいていの人は、そんなのごく普通で当たり前じゃないか、確かプラスとマイナスを掛けるとマイナスになるんだよな、と思っていることでしょう。
でも不思議に思いませんか?
マイナス×マイナスがプラスになってしまうのです。
プラス×プラスがプラスになることや、マイナス×プラスがマイナスになることは割と簡単に理解できそうですが、マイナス×マイナスがプラスになるのは具体的な例はパッと思いつきませんし、どうして?と言われると困ってしまいます。
19世紀のフランスの小説家スタンダールは、プラスを財産、マイナスを借金と捉え、マイナス×マイナスを借金と借金を掛け合わせると考えましたが、それが財産になる理由がわからないと残しました。
実はこの問題、それくらい歴史の上でも多くの偉人や数学者たちを悩ませた問題でもあるんです。
今回はそんな、『マイナス×マイナスがプラスになるのはなぜか』ということを、誰でもわかるように紹介していきます。
2.マイナス(負の数)とは
マイナス×マイナスがプラスになることを考えるためには、まずマイナス、つまり負の数(ふのすう)とはどういった数なのかを理解しなくてはなりません。
そもそも負の数とはいったいどんな数なんでしょう。
簡単に言うと『0より小さい数』のことを負の数と言います。『0より大きい数』のことは正の数(せいのすう)と言います。0は正の数でも負の数でもありません。
+4や+2(+は省略してもOKです)は正の数で、-10や-2は負の数ということです。ちなみに決算書類や株価の時には、『-1,000』以外にも『△1,000』や『▲1,000』もマイナスを表します。
負の数と正の数の違いはそれほど難しくありません。
しかしここで疑問が生じます。
0は何もないことを表すはずなのに、それより小さい数が出てくるのはおかしくありませんか。例えば、-2個のミカンや-200円の所持金、なんてことはありえませんよね。
どうして負の数というものが現れるのでしょうか。
3.『0』の持つ3つの意味
ここで大切になるのが、『0』が持っている3つの意味です。『0』は何もないことを表す以外にも意味があるんです。
その3つの意味を考えていきます。
まず1つ目の意味は、何もないことを表す『0』です。
3個のリンゴを食べてしまうと残りは0個、つまり何も残りません。教室に人が誰もいなければ生徒0人、財布にお金が入ってなければ所持金0円です。
『0』を使うことで何もないことを表しているんです。
この1つ目の意味だけを考えると、『0』より小さい数なんていうのはあり得ないと感じてしまいます。
続いて2つ目の意味は、位(くらい)に数がないことを表す『0』です。空位(くうい)を表す『0』とも言います。
これは、『200』という数字の十の位と一の位にある『0』のようなもののことです。
『0』がなかった大昔は、『308』のような数字を『3 8』などと表していました。しかしこれでは『38』との区別がつきません。
区別をつけるためにそれぞれの文化で『0』に当たる記号が生み出されて使われていきました。
詳しく書くととても長くなって本筋から脱線してしまうのでここでは省略しますが、その後『0』がその位置にあてはめられるようになったんです。
これがあることで人々は数字を簡単に認識することができるようになっています。
最後に3つ目の意味は、基準を表す『0』です。
これが負の数を表すために重要になります。
頭の中に数直線を思い浮かべてみてください。左から右にまっすぐ直線を描いて、中央が『0』として、右が正の数、左が負の数とします。
0より右は+1、+2、+3…と右に行くにつれて大きな数になっていきます。反対に0より左は-1、-2、-3…と左に行くにつれて小さな数になっていきます。
このように『0』という基準があることで、正の数と負の数を表すことができるんです。負の数が出てくる場面では、この基準というのが存在します。
例えば、手元に-1,000円の現金というのは現実ではありえませんが、『前日の売り上げからの増減』が-1,000円ということは十分にあり得ます。前日の売り上げが基準の0円となりますよね。
-0.4kgの体重はあり得ませんが、『前日の体重からの増減』が-0.4kgはあり得ます。
ほかにも、-5℃という気温は、0℃という基準があるから表現できます。
この時の0℃の『0』というのは、何もないのではなくある基準の温度だということは理解できるでしょう。
このようにして、負の数はある基準をもとに現れてくるんです。
ここまでの説明で、なんとなく負の数がどんなものか理解できた人も、結局よくわからないという人もいることでしょう。
負の数というのは中国では2世紀ごろまでに、インドでは7世紀ごろには使われていましたが、ヨーロッパにおいては17世紀ごろまで数学者の間でも受け入れられなかった考え方なんです。
17世紀ごろに、哲学者であり数学者でもあったデカルトが先ほどの、『0』を基準とした数直線を用いて正の数と負の数を表したことによって、少しずつ受け入れられるようになっていきました。
しかし、有名な数学者オイラーですら負の数の考え方を誤解していたほどなので、いかに難しい考え方だったかがわかります。
4.マイナス×マイナスがプラスになるのはなぜか
負の数がどういった数なのか分かったところで、『マイナス×マイナスがプラスになるのはなぜか』を考えていきましょう。
ここからは3つの方法で説明していきます。1つ目は時間と量を使っての説明、2つ目は掛け算を足し算に置き換えての説明、3つ目は分配法則を使った説明です。
3つ目の説明はやや数学的な説明(証明)ですが、中学1年生までの知識で解けるので、考えてみてください。
1つ目の方法は、時間と量を使って考えてみます。
今、東京駅の目の前にいるとします。おおよそ北に進めば上野、南に進めば品川があります。もし東京に詳しくない方は、自分の今いる地点とそこから北、南に進むことを考えてみてください。
そして、上野方面(北)に進むと+1km、+2km…、品川方面(南)に進むと-1km、-2kmと表すことにします。東京駅が基準となる0㎞です。
いま、上野方面(北)に時速+5㎞でまっすぐ歩いているとして、2時間後には+10㎞の地点にいます。+5(km)×+2(時間後)=+10(km)と表せます。
では、上野方面(北)にまっすぐ歩いていたとして、2時間前はどこにいたのでしょう。
2時間前というのは、『東京駅出発が0』という基準から考えると、マイナスを使って-2時間後と表すことができます。なので、東京駅(基準)から見て品川方面(南)の-10kmの地点にいたことになります。式で書くと、
+5(km)×-2(時間後)=-10(km)
となります。
これで、プラス×プラスはプラス、プラス×マイナスはマイナスになることがわかりました。
次に、進む方向を逆にします。つまり、品川方面(南)にまっすぐ歩いてるものとします。
すると、2時間後にはどの地点にいるでしょうか。
基準の東京駅から上野方面(北)に進む速度が時速+5kmとなっているので、東京駅から品川方面(南)に進む速度は、時速-5kmと表すことになります。よって品川方面(南)の-10km地点となります。
-5(km)×+2(時間後)=-10(km)
となります。
マイナス×プラスがマイナスになることもこれでわかります。
最後に、品川方面(南)に歩いているものとして、2時間前はどこにいたのか考えてみます。
同じように時速-5kmで進んでいて、2時間前つまり-2時間後にいたのは、上野方面(北)の+10km地点ということになります。式で表すと、
-5(km)×-2(時間後)=+10(km)
です。
つまりマイナス×マイナスがプラスになることがこれでわかりました。
ここで出てくる時速-5kmや-10km地点というのは、実際には存在しませんが、ある基準(東京駅や進む方向)をもとにして出てきた負の数です。なのでこのような計算ができるというわけなんです。
続いて2つ目の方法、掛け算を足し算に置き換えて考えてみます。
掛け算というのは、足し算に直すことができるということを利用して、マイナス×マイナスを計算してみます。
掛け算が足し算に直せるというのは、4×3=4+4+4=12となるということです。『4を3回足す』のが4×3という計算です。
では、(-4)×3はどうでしょうか。『-4を3回足す』ことなので、
(-4)×3=(-4)+ (-4)+ (-4)=-12
と計算できます。
では続いて4×(-3)を考えてみます。『4を-3回足す』ということです。しかし、-3回足すというのは困ってしまいます。
ここで大切になるのが、『-2回足す』ことと『+2回引く』ことは同じだということです。
なので、『4を-3回足す』というのを言い換えると、『4を3回引く』ということになります。つまり、
4×(-3)=-4-4-4=-12
となるわけです。
では最後に、(-4)×(-3)という計算を考えてみます。これは『-4を-3回足す』ということになるので、『-4を3回引く』と言い換えれます。
数式で表すと、
(-4)×(-3)=-(-4) -(-4) -(-4)=+4+4+4=+12
となります。
つまり、マイナス×マイナスがプラスになるということです。
最後に3つ目の方法、分配法則を使って考えてみます。
分配法則というのは、中学1年生で学ぶ内容で、
a×(b+c)=a×b+a×c
が成り立つというものです。
いきなり文字が出てきて難しく感じてしまった人のために、数字で考えてみます。
15×32
という計算をしようと考えたときに、そのまま計算するとちょっと面倒です。
じゃあ32を30+2と考えてみたらどうでしょう。
15×32=15×(30+2)
=15×30+15×2
分配法則を使うと、このように計算を簡単にすることもできるんです。
それでは、この分配法則を使って(-1)×(-1)=1を証明していきます。
まず、1+(-1)=0となることから、この両辺に-1を掛けます
-1×{1+(-1)}=-1×0
左辺は分配法則を使っていき、右辺は0になります。
-1×1+(-1)×(-1)=0
-1×1=-1となるので、
-1+(-1)×(-1)=0
両辺に+1すると、
(-1)×(-1)=1
よって、マイナス×マイナスがプラスになることが証明できました。
難しい計算をやっているように見えますが、一つ一つの段階は非常に単純です。
でも、この非常に単純な計算に、多くの人が混乱してきたんです。
気付きや疑問を見つけてくれる学び
マイナスとはいったいどんな数なのかを考えることができました。
そして3つの方法を使って、『マイナス×マイナスがプラスになるのはなぜか』ということを確認することができました。
日常的に使っていてわかっているようなことでも、きちんと理解できているか、なぜなのかということを説明できることはあまりないかもしれません。
数学は、そんなちょっとした気づきや疑問を思い起こさせてくれる学問とも言えるでしょう。
気になった時には、調べてみたり学んでみることで力になることもあります。
これからも、マイナスを見つけたとき、そしてマイナス×マイナスの計算をするときには、ちょっとした気づきを思い出して活用していきたいですね。
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