アドレス・ベース・レジストリ(ABR)と自治体システム標準化


旬な時期ではないかもしれませんが、アドレス・べース・レジストリについて、書いてみようと思います。

1.アドレス・ベース・レジストリとは

アドレス・ベース・レジストリ(以下「ABR」ともいう。)は以下の通り説明されています。

アドレス・ベース・レジストリは、ベース・レジストリにおいて住所・所在地のマスターデータ及びその運用システム全体を指します。「アドレス」という言葉を用いているのは、一般的に「住所」は住民が居住する場所を、「所在地」は法人等が事業を営む場所を示すものですが、ベース・レジストリにおいては、住所や所在地に加えて農地や林地の場所など、地番の存在する場所全てを検討対象とすることから、それら全てを包含する意図で「アドレス」という言葉を用いています。

そして、ABRは、今後整備されていく不動産登記BR、法人BR、不動産IDの参照するベースに位置付けられているようで、各BRを利用するためにも必要な基盤的な要素が高いものと認識しています。

2.アドレス・ベース・レジストリの現状

ABRは、デジタル庁の以下のURLにて、情報が公開されています。

2.1 経過

ABRは2022 年 4 月 試験公開版を経て、データフォーマットのみが「仕様確定版」として2024年1月頃公開されています。現時点で以下の課題があり対応時期が示されています。

ABR/初期データの課題一覧

また、

  • アドレス・ベース・レジストリがどのような定義で、どのように整備されているかなどを詳細に記載されている「データ解説書」の仕様確定版は公開準備中

  • レジストリ・カタログに収録されている 「町字マスター(フルセット) データセット」を確認すると、仕様確定版のデータフォーマットに2024年1月追加された主に文字属性(登記統一文字等)がセットされていない模様。※登記統一文字情報は公開されても登記統一文字(登記固有文字)の情報のすべては一般公開されていないため字形の判断がつかないと想定される。

  • 上記課題一覧「町字の不足・表記揺れ」「住居表示自治体の抜け」への対応時期が令和6年度末とされていること

上記より、ABR(のデータ)が実際利用できるのは令和7年度初旬からが予想されるところです。

2.2 ABRについて気になる点

  • 文字セットや表記に使用されるフォントがはっきりしない

データ解説書の正式版に記載があるのかもしれませんが、文字にかかる情報はデータフォーマットに以下の記載があるのみに見え、全体像がはっきりしません。

データ項目定義書シート内のデータセットに共通する仕様について
07町名フルセットシートの(電子国土基本外字の項目)
07町名フルセットシートの(登記統一文字、MJ文字図形名にかかる項目)
  • 自治体による町字チェック結果の還流

自治体による令和6年度末までの内容チェックについて、作業スコープや作業詳細も不明でありますが、何等か漏れがあった場合に参照元データが修正されるか(電子国土基本図や法務省登記情報システムなどが修正されるか)気になるところです。
(法務省登記情報システムと自治体固定資産税システムでは、データ連携されているところであり、なんらか文字変更にかかるインパクトが発生しないか懸念します)

参照元データは、電子国土基本図や、不動産登記などとなっており、ABRの追加・修正情報(文字情報を含む)が還流しないとそれらのシステム利用時に不整合となる。
  • 町字以外について(都道府県名)

愛媛の「媛」、栃木の「栃」、茨城の「茨」など都道府県名においても、どの字形が正解なのか、データ上は決定されることになると思います。(JISX0201参照とはなっていますが)
2024/7/30 追加
参考情報:登記情報提供サービスの愛媛県の「媛」の字の表示
(ブラウザでの表示が難しいのか画像での表示に見える)

一般財団法人 民事法務協会/登記情報提供サービスの愛媛県の「媛」の字の表示

参考資料:https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/%E7%AC%AC80%E5%9B%9E-%E3%80%8C%E5%AA%9B%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E5%AA%9B%E3%80%8D

  • 地番情報

全国の地番情報は、法務省の登記所備付地図から地番整備とあり、現時点でもレジストリ・カタログにて公開されています。しかしながら、例外的な地番については、除外されているものもあるようです。(支号の支号の支号の支号の支号の・・・・と現時点では発生し得ない多重文筆し別地番を付番するに至らず現在に至るケースなど。)
これらにおいても、土地としては存在しているわけですので地番情報としてなんらかデータが整備されることが望まれます。

3.ABRと自治体システム標準化

大きくは課題に挙げられている町名の漏れのない整備、町名IDが付番、町名等に対する文字属性の決定、その後のデータ整備が決まれば大きな不安点はないのかもしれませんが、自治体システム標準化にかかるABRについて気になる点を以下に記載します。

3.1 町字IDの導出が町字文字列突合とならないか。データ整備を含め、標準化に間に合うか。

TERASS Tech Blogによれば、住所辞書として利用頻度が高いのものとして、以下が示されています。

・全国町・字ファイル/国土地理協会・地方公共団体情報システム機構(J-LIS)
・国土数値情報/国土交通省
・日本行政区画便覧データファイル/日本加除出版株式会社

TERASS Tech Blog

ABRのデータが正式版でないため、無論上記住所辞書には、正式な町字IDは含まれていないとも思われます。このため利用頻度の高いとされる上記住所辞書を活用したとした場合でも、町字IDの導出には、自治体システムの町名文字列とABRの町字文字列での突合が必要となる場合がと考えられます。
ABRの文字セットは現時点では定義が見当たらず、実際のところJISX0213と外字属性情報かと想像します。
一方、自治体システム側は、MJ+あるいはMJ+と変換可能な従来システムの文字セットのはずです。文字セットの違いを把握した上で、自治体システム側の町字文字列データとABRの町字文字列データを突合し町字IDを導出することになります。
先に言われている「日本の住所がヤバい件」からすると、自治体システムでの住所データもこれまで、基本的には送付先データ(あるいは表示・確認できれば良いレベルでの管理)として認識可能であれば良いため、自自治体内の住所データ以外は、そこまで気を遣って正しい住所表記になっていなケースも考えられます。
綺麗に突合をしようと考えると、住所データをABRに合わせるなどのデータ整備をする必要があると考えられます。そのためには、後述する過去データをどうするかによりデータ整備量が大きく変わってくることが考えられます。ABRジオコーダについても、各自治体での活用が考えられますが、ABRのデータが一定固まった時点での確認となろうと考えられます。

3.2 ABRの収録データ内容に過去のデータは収録されていない模様

過去の住所データも自治体システムでは管理されていますし、基本データリストでも管理対象となっています。基本データリストでは、町字IDの項目説明として、『アドレス・ベース・レジストリ「町字マスターデータセット」に規定がない町字の場合は、9999999を設定すること。』とあるため、データ仕様上は、問題ないかもしれませんが、実際この町字IDの利用範囲を明確にしないと、使えないデータの塊の整備に多量の力量をかけてしまう可能性があります。

3.3 更新タイムラグの問題

デジタル臨時行政調査会作業部会(第19回)の資料によれば、とある住居表示を実施した団体について、国土地理院更新日は施行後約4年後と言うケースがあったようです。

デジタル臨時行政調査会作業部会(第19回)の資料

無論、ABRが問題なく実運用に乗れば、自治体側からデータ更新されることになるようですので、心配無用なのかもしれませんが、少なくとも施行日より前に予定データがないと自治体内でのテストすらできないこととなります。施行日からABR更新までのタイムラグについても、他の BRの中核となるABRについて、気になるところです。

3.4 住所辞書との整合や、町字不足揺らぎ確認

上記課題の通り、R6年度末までに自治体により、町字の不足や表記揺らぎは確認されますが、全国的に利用頻度の高い住所辞書との整合確認も必要と考えられます。また自治体による町字の不足確認や揺らぎの確認により、新たに必要な文字が発生する可能性もあり、場合によってはMJ+に文字追加される可能性があることについて、注意が必要と考えられます。

3.5 固定資産税の土地・家屋の所在地へ適用と基本データリスト

固定資産税の土地・家屋所在地への適用について、不動産登記 BRが今後整備されることから、今後必要となろうかと思います。この辺りの未来予想図も示されるべきと考えられます。また、基本データリストにおいて、住所項目にはすべからく町字IDを付与するようになっています。
従来基幹システムのサブシステム(宛名システムや住民記録システム以外)においては意識していなかった町字IDという基本データリストでの管理項目について、今後公共サービスメッシュでの利用やGIFに規定があることは理解できますが、その利用見込を考慮した項目設定にすべきだったのではないかと費用対効果からも思いました。

4.おわりに

ABRは、自治体システム標準化のみならず、当たり前の公共財として必要なものと考えられます。事業を含め何かを行うためには、それだけで何もできるわけではありませんし、付帯する情報は民間の情報と掛け合わせる必要があるのかもしれません。
自治体システム標準化だけでなく、使いやすいABRになることを祈りつつ
筆をおくこととします。


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