着実な標準準拠システム・ガバメントクラウド移行に向けて考えていきたいこと
本記事は総務省・デジタル庁が中心に進める地方公共団体の標準準拠システムの移行に向けて着実に進めるため、考慮すべき観点を整理しています。
標準準拠システムへの移行に向けた概況
地方自治体の標準準拠システム移行に向けたスケジュールは、当初想定のスケジュール(上段)に示されている通り、住民記録システム・第1グループの業務(介護、障害者福祉、就学、地方税(固定・個住・法人・軽自))・第2グループの業務(児童手当、選挙人名簿管理、国民健康保険、国民年金、後期高齢者医療、生活保護、健康管理、 児童扶養手当、子ども・子育て支援)の標準仕様書を作成後、各資料で想定する期間に差異があるものの、事業者が半年から1年間弱の期間でシステムを開発を実施し、順次移行していくスケジュールとなっていました。
しかし、関係者各位が承知の通り事業者のシステム開発は思わしい状況ではなく、当初のスケジュールより遅延している状況です。
標準準拠システムへの着実な移行に向けて解決すべき課題
こうした状況を踏まつつ、地方自治体の業務に大きな支障をきたさない形で標準準拠システムに移行するため、考慮すべき主要な課題として「実質的な仕様凍結」・「柔軟な移行期限の実現」をあげます。
①実質的な仕様凍結
令和5年9月に改定した地方公共団体情報システム標準化基本方針で以下に記載の通り、「令和5年3月末時点」に公表された標準仕様書を基に開発された標準準拠システムを令和7年度までに地方自治体は移行させる必要があります。
つまりは標準準拠システムを開発する事業者は、令和5年3月末時点に公表された標準仕様書を基にシステムを開発を進める必要があります。これを以て仕様凍結としています。
しかし、実態は主に①制度改正対応・②一部リファレンス(認証許可リファレンスガイド)が公開待ち・③文字要件の混乱・④標準仕様書の解釈を含めた問い合わせに対する回答が遅延しているため、仕様凍結していたとしていたものの、事業者はシステム開発を推進することが難しい状況にあります。
なお「①制度改正対応」は日経クロステックの長倉記者が既に詳しく報じています。
通常長期のシステム開発プロジェクトでは制度改正対応がつきものであるものの、多くの事業者が標準準拠システム開発・システムのデリバリー対応・既存システムの保守運用と各方面にリソースが取られている中、制度改正に対応するリソースを更に捻出するのが難しい状況です。
上記のように、実態として仕様凍結がされておらず、システム事業者は設計工程への手戻りが生じているため、事業者の開発スケジュールに影響が生じています。事業者のシステム開発を円滑に進めるためにも、仕様凍結及び現行仕様で不明瞭な点の明確化が必須です。また仕様凍結及び現行仕様で不明瞭点を明らかにした後、事業者はより精度の高い開発スケジュールの算出が可能となります。
②柔軟な移行期限の実現
令和7年度(2025年)への移行団体の集中・工数や需給ギャップの課題が顕在化したことを踏まえ、一定の条件を満たせたば、令和5年9月に地方公共団体情報システム標準化基本方針で「令和5年度(2025年度)末」までにデータ要件の対応のみで可とする考えが示されています。
上述の通り①メインフレームからの移行・②事業者が撤退等により対応できない等の条件が示されています。システム事業者が開発状況を鑑み、地方自治体に申し出をすればデータ要件の対応のみで可となることが期待できるものの、そう簡単な話ではなく、システム事業者が簡単に令和7年度標準準拠システム移行を断念できない理由が大きく2つあります。
1つ目は令和7年度移行に標準準拠システム移行する場合、補助金の要件次第で、令和7年度以前に移行するよりもシステム移行に係る費用の負担が高いことが懸念されます。こうした懸念を認識し、顧客である地方自治体に迷惑をかけないためにも、システム事業者が地方自治体にシステム開発の状況が思わしくないことを言い出せていない可能性が考えられます。
2つ目はシステム事業者の先行投資の回収スケジュールに遅延が生じることにより財務的な懸念が生じる点です。システム事業者は標準準拠システム開発に係る費用をデジタル庁からではなく地方自治体から回収する必要があります。言い換えると、現時点でシステム事業者はデジタル庁から標準準拠システム開発に係る補助金等を一切受け取っていないため、手弁当(先行投資)で標準準拠システム開発を進めており、少なくとも数十億円規模の先行投資が生じていると考えられます。令和7年度以降に移行スケジュールを後ろ倒しすることで、こうした標準準拠システム開発費用の回収スケジュールが遅れる点は、システム事業者としては見過ごせない懸念点と推察されます。
以上2つの点から、現時点の開発スケジュール・状況だけ見れば、令和7年度までに開発するのが難しいにも関わらず、この点をシステム事業者が地方自治体に申し出できないと考えられます。無理のない実態に即したスケジュールにしていくためには、補助金要件の柔軟化(=令和7年度以降の標準準拠システム移行でも認める等)を実施しつつ、こうしたシステム事業者の各種状況にも目配せしていく必要があると考えます。
まとめ
これまで見てきたように、ある程度実態に即したスケジュールにしていくためには、当然にしてシステム事業者のリソースを配慮することが重要なポイントだと考えれます。一方でシステム事業者が簡単に令和7年度までの移行断念を申し出ることが難しい構造が生まれています。こうした構造を解消していくことが、統一・標準化の取組の司令塔であるデジタル庁に期待したいところです。
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