見出し画像

ヤベェ奴を相手にする時、自分はもっとヤベェ奴になろう。

人間生きていければ、絶対に「あ、こいつ関わっちゃアカン奴や」という人種にエンカウントすることがあると思う。リアルでもネットでも、ヤベェ奴ってのはどこにでもいる。

まぁでも、ネットだったらそもそも絡みにいかなきゃ良いし、絡まれても無視すれば良い。リアルでもそれは同じ。

だが世の中には、振り切るのが少し面倒なヤベェ奴というのもいる。
それは宗教勧誘だったりドラッグだったりマルチ商法だったり。

この手の被害は大学生に多いように思うが、年代に関係なく降りかかる。

ならばそういった誘いをどう躱すか、どうやり過ごすか……それは、自分が相手以上にヤベェ奴になることだ。

『バケモンにはバケモンをぶつけんだよ』理論である。

言われてみれば当然である。相手はこちらを話の通じる人間だと思ってるから話術を駆使するのだ。こっちが話の通じないバケモンならさすがに手を引く。

僕がこの理論を身をもって実感したのは、社会人一年目の頃だった。
新卒で入った企業がヤベェ企業だった僕は、精神をすり減らし、常に死を意識していた。

傍から見てもいつ死んでもおかしくないと言われるほど限界だった。

そんなある日。仲のいいセンパイに遊びに誘われた。

そのセンパイはめちゃくちゃ人当たりがよく優しくて、僕が会社で唯一信頼してるセンパイだった。

正直、身体はヘトヘトだし休みの日に出かけるのも億劫だったが、本当に尊敬していたので、仕事の相談でもしよう……と了承した。

集合場所は家の最寄り駅。
センパイが車で迎えに来てくれて、ドライブでもしようよと言う。

僕はなんの警戒もせずに乗り込み、「どこに向かうんですか?」と訊ねる。
センパイは「まぁまぁ、いずれ分かるよ」とはぐらかし、車を走らせる。

この時点で気付くべきだったのかもしれない。

30分ほど揺られ、「そろそろお昼にしよっか」とセンパイがファミレスに車を停めた。
どこかしっくりこないまま店に入り、飯を食ってダラダラ雑談していると、急にセンパイが声音を変えて訊ねてきた。

「キョウトくんは今幸せ?」

随分と唐突だな、と思ったが、「んなわけないじゃないですか」と軽く返した。
それに対し、センパイは真意の読めない笑みを浮かべたまま、
「じゃあ、どうすれば人は幸せになれると思う?」と言葉を続ける。

なんだ? 哲学的な話? それとも宗教?

と困惑していたら、マジで宗教の話だった。
なんつー宗教だったかも忘れたが、取り敢えず教祖様は万能の力があるから、きっとキョウトくんの心も満たしてくれるよ、とお決まりなことを言ってきた。

うわー、こういうのマジであるんだーと思いつつも、一応尊敬するセンパイではあったので、僕はなぁなぁで適当に話を聞き流していた。

雑な対応してれば相手も察して勧誘辞めるだろ、と甘い考えを持っていた。

でもセンパイの勧誘トークは終わらない。2時間ぐらい同じようなことを繰り返してる。しまいには、僕の適当な相槌を肯定と捉え、「今から会合があるんだけど、キョウトくんも参加しなよ」と腕を掴んできやがる。

さすがにヤベェなと思った。これ以上は付き合いきれねぇ。センパイに対する好感度は、この時点でマイナスに突入していた。だから気を遣う必要もない。

「参加するワケないじゃないですか。この世に神は僕だけなんですから」

自分でも何いってんだこいつは? という感じだが、何故か咄嗟に出た言葉がこれだった。センパイも意表を突かれたのか腕を離す。

「センパイんとこの〇〇(もう名前忘れた)って奴、万能なンすよね?」

「え、う、うん。そうだよ。だからキョウトくんも救われ――」

「じゃあ俺よりつええワケ?」

「……は?」

「だから、このおっさんは俺よりつええの?」

「いや、強さとかワケわからないし……」

「フーン、でも万能ってンなら俺みてぇなガキ余裕で殺せるよな?」

「殺す殺さないの話とかしてないでしょ」

「じゃあ今からコイツ殺しに行って良い? 案内しろよ(テーブルに置いてあったナイフを持って立ち上がる)」

「ちょちょちょ、ちょっと落ち着いてよ。疲れてる?」

「いいから早くしろ。殺されてぇのか(ナイフをテーブルに突き立てる。勿論刺さりはしないが)」

「……」

ここまでやったところで、頭に上った血が降りはじめる。
これ以上騒ぐと店に迷惑がかかるな……と冷静に判断し、あっけに取られているセンパイを置いて、自分の会計だけ済ませて店を出た。

車で30分近く走ってたせいで、駅に戻るまで多少距離はあったが、タクシーを呼ぶ気にもならず歩いて帰った。

炎天下の中1時間以上歩いて家につき、ズキズキと痛む頭を抑えながら布団に横になると、僕は泣いた。

唯一信頼できると思っていたセンパイに裏切られたショックがかなり大きかった。
夕方まで寝て、気怠い身体を起こしてスマホを確認すると、センパイからラインが来ていた。

『急に帰ったからビックリしちゃった。また今度誘うね』

……はぁ?

一瞬正気を疑った。
あんだけブチギレられて、なんで普通に交友関係続くと思ってんだ、コイツは。
心の底から軽蔑した。
直ぐ様ラインもブロックした。

月曜日。
会社で何もなかったかのようにセンパイは話しかけてきたが、僕は無視した。
何を言われてもシカトか舌打ちか「殺すぞ」以外返さなかった。
数カ月後、センパイは会社を辞めた。
建前上は親の介護で実家に帰ったとのことだが、噂では他の社員にも勧誘を繰り返していて、それがバレて解雇されたらしい。

こうして残されたのは、人間を信用できなくなった“バケモノ”のみだった。

〈BAD END〉

※この記事は話を整理しやすいよう、一部出典元から変更しているセリフがあります。ご了承ください。

■出典元






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?