引き潮

祖父が臨終の際にあった時、祖母は
「引き潮が魂さひいてぐんだ」
と言っていた。
わたしはそれ以来、灰色の太平洋の潮を見るたび、
遠くの方にいる祖母や祖父の白い影を思う。

ただ風が吹き荒れるだけの真夜中の海は、
空も海も区別なくただ深い闇となってそこに落っこちていて
大きな大きな声で、
おじいちゃーーーーん
おばあちゃーーーーん
ばらばらに乱れる波打ち際に声をかき消されて
なおも大きな声で、
おじいちゃーーーん
おばあちゃーーーーん

返す声は闇の奥から
ざ、ざ、ざ
短く響くのみ。

この寂れて死にかけの漁村は
みんなみんな魂が引き潮に引かれて
海と空の合間に帰っていったのだ

おじいちゃーーーん
おばあちゃーーーん

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