地元の子

名前も知らない花が咲く
いつもの角の植え込みで
いつか浮浪者のおじさんが眠っていた場所

赤ん坊のぼくの
泣き声を吸った小さな路地裏
埃っぽい花壇
取り込まれない股引き
油の固まった換気扇

斜向かいのうちの
新しい赤ん坊は
僕が通り過ぎた
たくさんの辛いことを
まだ知らないままに泣いている

余所者が通るたびに
違う声で泣く砂利道を
僕は四畳半の部屋で聞いて大きくなった

四畳半から僕がはみ出したとき
砂利道から放り出されてしまって
あの路地裏は道祖神の祠の向こう側

名前も知らない花が散る
いつもの角の植え込みの
いつか野良猫が死んでいた場所

名前も知らない花が咲いていた
あの春もまた

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